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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .24 狙われた二人

 その探し人と言うのがロルフたちの事であるかは定かではないが、今は呑気に会話をしている場合ではなさそうだ。


「取り敢えず今はこの場を離れた方がよさそうだな。事情は後で話す。馬車乗り場へ向かおう」


 まだウェネはいてくれるだろうか。そんなことを考えながら、ロルフは皆を連れ馬車乗り場へと早足で向かう。

 所々に見かける帝国兵らしき者の視界になるべく入らぬよう進みつつ、ロルフたちが馬車乗り場に辿り着いた時、ウェネは丁度馬車を出そうとしている所であった。


「あれ、どうしたの? 何か忘れ物かぬ?」

「悪いがウェネ、またモクポルトまで乗せてくれないか?」


 ウェネはロルフたちを見つけると少し驚いたようにそう質問してきたが、ロルフはウェネの質問に答えることなくそう聞いた。


「別にいいけど……船に乗るんじゃなかったのかぬ?」

「まぁ、そうなんだが……」

「んー……? あぁ、なるほどね、いいよ! みんな早く乗るんだぬ!」


 ロルフの歯切れの悪さに何かを察したのか、ウェネはそう言うと乗り込み用の踏み台を取り出した。

 詳しい理由も分からぬまま一行が馬車に乗り込み終えると、ロルフは中が見えぬように全てのカーテンを閉める。先程の追っ手が来ていないとも限らないためだ。


「さ、それじゃ出発だぬ!」

「おい、お前」


 出発準備を終え馬車を進めようとしたウェネを、男の声が引き留める。

 ウェネは声がしたのと反対側を向いて小さく舌打ちをすると、にこやかな顔で声の主に返答した。


「何か用かぬ? 早く出たいんだけど」

「こっちの方にオオカミ族の男とネコ族の女が来たと思うんだがどこへ行ったか知らないか?」

「んー……さぁねぇ。ボクはお客様の対応をしてたからぬ」


 男はどうやら、先程ロルフ達について聞き込みを行っていたのと同じ帝国兵のうちの一人のようだ。

 ウェネは思い出すような仕草をしながらそう言ったが、男は自分の目で確認したいためか、


「ちょっと中を見せてもらうぞ」


 そう言ってくいっと親指で後ろを指した。


「おいおい、困るな。悪いけど中にいるのはボクのお客様だぬ。お客様のプライバシーは守らないと。……君たちも仕事を失いたくないだろ?」


 御者台から飛び降りたウェネは、男と馬車の間に立つと、権力者が乗っている、そんな雰囲気を匂わせつつ、最もな理由を並べる。

 この場所に住んでいるのは何もただの金持ちだけではない。元々高い地位についていた者が隠居の為に住んでいる、なんてことも多いのだ。

 男はしばらくウェネと馬車を見比べていたが、「……わかった。行け」そう言って他の馬車の方へと歩いていった。


「はーい、どうも。探してる人たち見つかるといいねぇ」


 ウェネは男に向けてそう言うと、馬車を出口の方へと進めた。




*****

****

***




「いやぁ! ひやひやしたんだぬ!」


 グインミッテ貿易港を出てから数分後、グインミッテ農工業地域に入った辺りで沈黙を打ち破るようにウェネがケラケラと笑い出した。


「悪いな、ウェネ。助かったよ」

「いいよいいよ、久しぶりのスリルだったから緊張しちゃった。それで? なんで追われてたんだぬ?」

「本当よ。何だってこんな思いしなくちゃならないのかちゃんと説明してもらおうかしら? このワタシが隠れてこそこそするなんてありえないから」


 話始めた三人に、他の四人も安堵したように息を吐く。

 ヴィオレッタの言っている事はよくわからないが、手を貸してもらったからにはウェネにも話すべきだろう。そう思ったロルフはコンメル・フェルシュタットでの出来事から順に話し出す。

 そして、理由はわからないものの、帝国の何者かにロルフとシャルロッテが狙われている可能性があるという事を全員に伝えた。


「ロボット兵ねぇ……確かにそれは帝国で間違いなさそうだぬ。それにさっき声かけてきたのも帝国の奴らだったし。乗船場のおっちゃんも帝国の探し人って言ってたんだよぬ?」

「ああ」

「でもその、黒髪のオオカミ族と白髪のネコ族って言うのがロルフさんとシャルロッテさんって決まった訳じゃ……」


 クロンの言いたいことは分かるが、状況から考えて恐らくロルフとシャルロッテのことで間違いないだろう。

 それに、相手は帝国だ。もし人違いだとしても捕まった場合、今と同じ生活を送ることができるのか分かったものではない。逃げるようにして出てきた理由はそこにあったりする。


「白い髪のネコ族なんて見たことないものね……ってことはシャルロッテが目立つのが悪いんじゃない!」

「えー! 私のせい? 皆だって変わった色してるのに!」


 ロロの出した結論に、シャルロッテが食いついた。確かに変わった目や髪の色をしているのは一人だけではなく全員だ。もちろん色持ちでなくとも変わった目や髪の色をした者はいるが、六人いて六人全員がそうであるというのは確かに目立つ。だが、現在の問題はそこではない。

 むしろその点で言うならば俺は一番普通なのでは……? ロルフはそう思いつつも話題のズレを修正する。


「それより問題はなぜ探されているのか、だと思うんだ」

「うーん、でもそれは身に覚えがないんですよね」

「だからってワタシ達に聞かれてもわかる訳ないわ」


 共に考えようとしてくれたモモの言葉に被せるように、ヴィオレッタが最もな意見を言う。

 確かに、当人達に心当たりがない事を他人の、しかもつい最近出会ったばかりの者達が知り得ている訳がない。


「まぁ、そうだよな……」


 そう言いながら、ロルフは眼鏡の位置を直す。

 一介の研究者が帝国に目を付けられるなどということがあるのだろうか。まさか図書館で帝国に関するデータの改ざんに気付いたことを勘繰られた……? いや、それこそまさかだ。それに、そもそも今まで帝国が一個人を名指しで捜索するなど……


「んまぁさ、帝国なんかの考えはいくら理解しようったって無理だろうし」


 ロルフの思考を遮るように、ウェネがそう言う。普段あまり感情を見せないウェネにしては、少し棘のある言い方だ。


「白水の大陸へ行くんだぬ? よかったらうちの船使いなよ」

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