表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
87/194

scene .13 封じられた図書室

 仕掛けはよく分からないが、鍵穴に差し込むことでそのドアの鍵へと変形するようになっているのだろう。もしかすると、この鍵一本でこの地下室にある全てのドアを開錠することができるのかもしれない。

 それにしても、なぜ一本の鍵で開いてしまうにも関わらずドアによって紋章を一つ一つ変えたのだろうか。


「……まぁ、ゴルトらしいか」


 ゴルトの性格を考えて、ロルフは苦笑する。

 面倒事を毛嫌いする癖に、魔術の事となると貴重なフェティシュを一つ手に入れるため別の大陸まで移動したり、三日三晩寝食を忘れて没頭したりするような人なのだ。何かを実験するためにしたことかもしれない。

 鍵を見つめながら、自分達を庇いあの場に一人残ったゴルトの事を思い出す。ゴルトがあの後どうなったのか、なぜ共に屋敷へ飛ぶことをしなかったのか、それ以外にも起きた出来事や疑問が多すぎて、ロルフですら混乱してしまいそうだった。しかし、ここで考え込んでいても意味がないだろう。


「さて」


 ロルフは気分を変えるため咳ばらいをすると、鍵をポケットへ戻しドアノブを掴んでゆっくりと扉を開ける。

 重み相応の音を立てながら扉が開くと、例のごとく部屋内部に設置された魔導ランプが光を吸収していく。


「はずれ、か」


 明るくなった部屋の中は、先程ロルフ達がゴルトの店から飛んできた部屋に似た作りで、辺り一面に魔法陣が描かれていた。念のため部屋の中に入り内装を確認するが、特に変わった点もないためロルフは無言で部屋を後にした。

 そして、初めの部屋と同様に、ドアの下部や周りが薄汚れた扉を七、八か所確認したが、ロルフの求める部屋は見つからなかった。


「そう言えば、ゴルトの言ってた書物ってのはどこにあるんだ?」


 好きにしてよいとゴルトに言われた書物がいずれの部屋にも見当たらなかったことを思い出し、ロルフは独り言ちた。

 周囲が薄汚れていない扉は飛ばして確認してきたためそのいずれかの部屋にある可能性もあるが、どの部屋も家具はあまりなく魔法陣にまみれているばかりだった。地下がこんなにも広い場所であるのなら、部屋の位置くらいは伝えて欲しいものだ。まぁ、現状を考えると読書よりも優先すべき事項が多くあるため、見つからないのであればそれでも構わないのだが。

 ロルフは悶々とそんなことを考えながら、次の扉のドアノブを引いた。


「……?」


 他の部屋ではドアを開けると共に魔導ランプが灯るのだが、この部屋には魔導ランプがつけられていないらしい。ロルフは入り口に掛けられた燭台を手に取り、ロウソクに火をともした。

 この部屋の様子は、ぼんやりとした光の中でも分る程に他の部屋のものとは異なっていた。部屋の片側には本棚が備え付けられており、そこから飛び出した本がそこら中に散らばっている。足の踏み場もない。


「これは一体……?」


 何者かに荒らされたかのような部屋の様子に眉をひそめると、ロルフは燭台を元の位置に戻し、近くの本から少しずつ拾い上げていく。煤埃が部屋を出る前にでも荒らして行ったのだろうか。

 拾った本はどれも古い物のようで、よくよく見るとどれも昔に読んだ覚えのある本ばかりだった。


「懐かしいな……でもどうしてこんな場所に……」


 半分ほど本を本棚に戻したところで、ロルフは違和感に気づいた。四台横並びになっている本棚の内、ドア側から数えて二台目の本棚の下部がやけに汚れている。

 スッと撫でるように汚れに触れると、ドアについているのと同じ汚れのようだ。


「という事は」


 ロルフは本棚を奥や手前に動かそうと、力を込める。が、びくともしない。

 薄暗くてよく見えない中周囲を見渡してみるものの、特に何か手掛かりがある訳でもなくロルフはその場に立ち尽くす。

 よく観察しようと燭台を取りに入り口へ近づくと、僅かにだが扉の内側の一部が他の場所とは明らかに異なった質感をしているのに気づいた。


「これは……蝋か?」


 つるつるとしたその部位を確認しようと、ロルフが指を滑らせたその時だった。


「……っ!」


 触れた箇所が発光すると同時に、何か力のようなものを吸い取られる感覚に襲われたロルフは思わず手を離した。途中で離したためか、その光は徐々にぼんやりとしていき、数秒もしないうちに消えてしまった。

 ――何とも、ない……? ロルフは自分の手を見つめながら体に問題がないか確認した。吸い取られていると感じたのは錯覚だったようだ。

 そして一つ思い出したことがあった。ロルフは昔にも一度この感覚を経験している。

 ロルフは決心すると、再び蝋らしきその跡の上に指を滑らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ