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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .12 煤と鍵

 目を凝らして見ると、塊は一つではなく十数個程の物体に分かれているようだった。そして、周りに黒いすすのようなものが多く飛んでおり分かり辛いが、その集団の筆頭に立つそれは、人のような形をしている。


「どなた、でしょう……」


 胸の前で左手首を右手で握り少しずつ後ずさるモモの横を、ヴィオレッタが通り過ぎる。


「ヒトじゃないわ」

「あぁ、煤埃だ」


 煤埃――長年蓄積されたすすやほこりに念が宿り、実体化したモンスターだ。掃除が行き届いていない古い家屋などで見られるとされている。長い間放置されていたであろうこの地下であれば、十分に発生する条件は揃っているだろう。

 それにしても、あの姿は……


「頂きだわ!」


 ロルフ達の後ろから、ロロの放ったクロックハンドカッターが勢いよく前方へ飛んで行く。そしていくつもの黒い塊を上下に切り裂いたかと思うと、ロロの元へと戻っていった。


「ふふん。……て、あれ?」


 得意気に腰に手を当てたロロだったが、すぐに首を傾げることとなった。

 一瞬動きを止めたかと思った煤埃集団が、何事もなかったかのように行進を再開したのだ。


「こいつらに物理攻撃は利かないんだ」

「む……! そ、そういう事は先に言ってよね!」


 ロルフの言葉に腕を組んでそっぽを向いたロロは、少し恥ずかしそうに唇を尖らせる。

 煤埃はただの水などでも倒すことのできる最弱モンスターではあるが、物理的な攻撃が一切効かないという、知らないと少々厄介な存在なのだ。魔術を使うことの出来ないロロにとって、今この場で奴らを倒す手だては恐らくないだろう。


「フフ、残念だけどお子様は下がっていなさいね」

「んなっ……今に見てなさい、すぐにあんたなんか追い抜いてやるんだから!」


 ロロとヴィオレッタの茶番を聞き流しつつ、ロロとシャルロッテ以外の四人で水系魔術を使い、煤埃達を難なく倒していく。

 そして、全ての煤埃をただの埃へと戻した後、すぐ近くに上階へ続く階段があるのを発見した一行は、地上へと上がって行った。




*****

****

***




「一体どこまで続いてるんだ……」


 階段から廊下に降り立ったロルフは、未だ煌々と光を灯すランプのお陰でその広さを再認識させられる。

 昼食を取ってから、ロルフは先程までいた地下へと戻って来ていた。本来ならば今後の方針について話し合いたいところであったが、屋敷内を探索したいというロロや、風呂に入りたいというヴィオレッタ、他三人も疲れた様子だったため、夕食までは自由行動ということになったのだ。

 そう、階段の先は紛れもなく屋敷の中で間違いなかった。それも、頻繁とまでは言わないが、一日に何度か通る廊下のドアへと繋がっていた。今までなぜその存在に気づかなかったのか。ロルフもシャルロッテもその理由がわからなかったが、恐らくゴルトの力によるものである、ロルフはそう思うことにしたのだった。


「こっちだったよな」


 ロルフはそう呟きながら煤埃達が出てきたであろう方向へ歩き出す。

 店から屋敷へ移動してからというもの、昼食を食べ終えてもなお不気味なほどに静かなシャルロッテがいささか心配ではあったが、そんな彼女をモモ達に預けてでも調べておきたい事があった。


「ここか」


 ロルフが立ち止まったドアの周り、特に下部が他と比べてやたらと薄汚れていた。恐らく煤埃の一つはここから出てきたと思って間違いないだろう。だが、部屋には鍵がかかっており、中に入ることは出来なさそうだ。


「……?」


 どうにか開けられないかと扉をよく観察していると、取り付けられたドアノブの上に何やら小さな紋章のようなものが薄っすらと浮かび上がっていた。ロルフはかかっている埃を手でサッと掃う。

 ――この模様どこかで……埃が無くなり露わになった紋章を見てそう思ったロルフが、ポーチに手を伸ばそうとした時だった。なぜかゴルトに渡された地下室の鍵のことを思い出し、手の向かい先をポーチからジャケットのポケットに切り替える。


「これか」


 取り出した鍵を見ると、ヘッド部分がドアノブの上の紋章によく似た形をしていた。

 少し違うような気もするが、物は試しだろう。ロルフは鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。……が、鍵は回ることなく辺りを虚しい静けさが包み込む。

 何度か左右に回そうとするもびくともしない鍵に、ロルフは小さくため息をつく。


「……? 抜けない……?」


 使えないのであればと仕舞うべく鍵を手前に引くが、回そうとした際にどこかに引っかかってしまったのか抜けなくなってしまったようだ。屈んで鍵穴を覗き込もうとするも、鍵が刺さっていることもあり中の様子はさっぱりわからない。


「はぁ……どうするかな」


 ゴルトの言っていたのがどこの部屋を指すのか知れないが、あの時ゴルトがすぐに鍵を渡そうとしなかったことを考えるに、今すぐに読むべき書物があるという訳ではないのだろう。

 となると、今時間をかけてこの鍵を取り出す必要も……と、そこまで思考したところでロルフは小さな異変に気付いた。


――カチ…………カチ………………


 どこからか金属の擦れるような音がする。何となしに鍵を見ると、ヘッド部分の紋章が少しずつ動いているように見えた。

 音は鍵から出ているもので間違いないだろう。音の出所がわかったところで、ロルフは鍵を凝視した。それは、ゼンマイ仕掛けのおもちゃの様に、ゆっくりと少しずつ変形している。


――カチカチ……カチ、カチカチカチ……ガチャン。


 数秒もしないうちに自然と回転した鍵のヘッドを見ると、その形はドアノブの上の紋章と全く同じ形になっていた。

 そして、ロルフがゆっくりと手前に引き抜くと、鍵は何事もなかったかのように簡単に手の中に収まった。

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