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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .10 転送

 ゴルトの細い指が、パチン! と乾いた音を響き渡らせた。

 その刹那、辺り全体が金色に光りに包まれたかと思うと、一瞬にしてシャルロッテ達がロボットの拘束を離れ、ロルフの後ろへと移動していた。


「ちょ、ちょっと! 痛いわよシャルロッテ!」

「ふぇ?」

「あ、あれ?」


 ロボットの拘束に抵抗しているつもりでロロを叩いていたシャルロッテの動きが止まる。

 そして、二人のやり取りに、周りの全員が驚いた様子で辺りを見回しはじめた。一瞬すぎる出来事に、移動してきた当人達も、リージアも、どうやらゴルト以外の全員が場の状況を飲み込めていないようだった。


「一体どういう……」

「そんなことはどうでもよい。さぁ、さっさとお行き」


 先程まで漂っていた緊迫した空気がどこかへ消え、どこか間延びした空気の中、ゴルトはそう言いながらロルフ達に向かってしっしと虫を払うかのように手を振る。


「いいからお行き。気にすることなど何もあらぬよ」


 その場から動こうとしないロルフ達に、ゴルトは先程よりも大きく手を振った。

 そんなのん気なやり取りに、先程まで囚われていたはずの人質と、何事もなかったかのように立ち尽くすロボット達の方を見比べていたリージアが口を開いた。


「ふ~ん……どんな手を使ったかわからないけど、なかなかやるじゃん? まぁいいけどね、別に。お前を殺してすぐ捕まえるだけだから!」


 リージアの言葉に、気が緩み掛けていたロルフ達に再度緊張が走る。拘束から脱せたとはいえ、リージアがゴルトを亡き者にし、ロルフ達を捕えようとしているのは確かなのだ。


「ふん、その程度の力で何をすると言うのじゃ。わしには指一本触れられやせぬ」

「それがさぁ、違うんだよね、昔とは!」


 呆れたように目を細めて自分を見るゴルトに、リージアは両手を広げさぞ楽しそうに笑いだす。


「ずっと拒否してたんだけどさぁ、いざ成ってみるといいもんだねぇ! 色持ちってのは! キャハハハ!」


 色持ちになる……? そんなことが可能なのかは定かではないが、目が血走り焦点が定まっていない今の彼女は、少なくとも真っ当な人間には見えない。

 そんなリージアに少しばかりに危険を感じたのか、ゴルトは少し強めの口調でロルフ達に向かって再度この場を離れるように言う。


「造作もあらぬと申しておるのじゃ。そなた達はさっさと屋敷へお帰り」

「でもっ」

「大丈夫じゃよ、シャル。わしが嘘を吐いたことがあったか?」


 ゴルトの言葉にシャルロッテが首を振る。冗談やからかいのために大袈裟な表現などをする事が多いものの、よく考えてみると、ゴルトがロルフやシャルロッテに嘘をついたことはなかった。

 そんなゴルトが大丈夫というのならば恐らく何か策はあるのだろう。だが、ロルフ達にここから去れと言ったのは、その策が万全ではない、そういう意味にもとらえられる。


「わかった」


 少し不満げなシャルロッテに優し気な視線を送り少し口角を上げると、ゴルトはロルフに目配せした。


「よし、全員行くぞ。奥の研究室だ」

「キャハ! どこに行くって言うのかな! まぁどこに行こうと関係ないけどね!」


 ロルフの掛け声に、全員店舗の奥の研究室へと駆けだす。後ろからリージアの笑い声が聞こえるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「貰ったこの力、早く試したくてうずうずしてんの。さぁ、行くよ! あんたたちはロルフ達を捕まえな!」


 リージアの指示を受け、ロボット達がまるで壁など見えていないかのように店舗を破壊しながらロルフ達目掛けて突進し始める。


「陣ってどうやって使うのよ!」


 研究室横にある準備室の足元に陣が描かれているのをいち早く発見したロロが焦ったようにそう言う。

 実を言えばロルフも陣を使ったことなど無い。その上、見た所ここに描かれているのは古代より伝わる古い型の転送陣の様だった。


「全員陣を踏め、いいか?」


 ロボット達が進行する振動を感じながら、全員が陣の上に乗るように移動する。状況が状況なだけあって、普段なら素直に指示に従いそうもないヴィオレッタも、複雑そうな表情で陣の上に足を置いている。

 ――最近の陣は、魔力のみで発動可能なものが多いらしいが……


「チッ……」


 魔力を注ぎ込んでも発動しないことを確認したロルフは、辺りを見渡した。やはり古代の陣は魔力のみでは発動できないようだ。

 ロルフは一番近くの棚に転がっている試験管を取り壁に叩きつけ割ると、自らの指先を切りつけた。


「ロルフ⁉ 何して……!」

「陣を踏んでろ!」


 駆け寄ろうとしたロロにそう言い放つと、ロルフは全員の肌に自分の鮮血を擦りつけた。そして今度は掌を切りつけると、陣の中央辺りで手を強く握った。

 傷口から流れ出た血液が一滴、陣に触れたか否か、破壊された研究室の壁の残骸がロルフ達の後ろを飛び、粉塵が一面を覆いつくした。

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