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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .6 贈り物(後編)

「後はそこの……寛闊者」


 先程クロンを呼んだ時と同じ動作をしながら、ゴルトがヴィオレッタの方を見てそう言う。


「かんかつ……ワタシの事? それって一体どういう……」

「まぁ良いまぁ良い、そんなことよりそなたはこれを持っておいで」


 寛闊者――派手好きの者という意味だ。だがそれが分からないらしいヴィオレッタは、宝石がいくつか付いた小さなアイテムを軽く握ったまま、納得のいっていない表情でゴルトを見る。


「はいはい、もうお行き。そなたにやるものはもうあらぬぞ」


 低い位置の棚を漁っていたゴルトは、するするといつもの高さまで体を上げるとヴィオレッタの背を押しながら部屋の中央へと移動した。すると、


「ゴルトー! 皆ばっかりずるいっ! 私も何か欲しいっ」


 頬を膨らませたシャルロッテがモモの手を引いてゴルトに詰め寄った。

 そんなシャルロッテにゴルトは、「ふむ……」と呟いて人差し指を顎に当てる。やっぱりなと言いたげな表情だ。


「そうじゃの……ではそなたにはこれでもつけてやろうかの」


 数秒考えた後に、ゴルトは近くの棚から小さな真珠があしらわれた装飾を取りだすと、シャルロッテの頭のリボンに取り付けた。


「何くれたの?」


 シャルロッテは頭を触りながら、モモの方を向いて首をかしげる。


「ふふ、シャルちゃん可愛い」

「ほんと! やった!」


 新しくリボンにつけられた装飾を見てモモがそう言うと、シャルロッテは先程貰った輪を腕に装着して得意気にしているロロの元へと駆け寄っていった。


「それよりそなた、未だそんなものを付けておるのか。もうとうに効果をなしてはおらぬであろう」


 自慢合戦を始めたシャルロッテとロロから視線を外すや否や、ゴルトはモモの手を取りそう言った。


「えっ、そうなんですか?」


 突然手を取られた緊張で、モモの声が少し裏返る。


「そなたも教えてやらぬとは不親切じゃのう」

「ん? 俺か?」


 考え事でもしていたのか、不意に掛けられた言葉にロルフは顎から外すと視線をゴルトへ向けた。

 どうかしたか? とでも言いたげなロルフに、ゴルトは肩をすくめる。そんな二人を交互に見た後、モモが少し焦ったように口を開いた。


「あ、でもいいんです。可愛らしくて気に入っているので!」

「……ほぅ。ならば」


 少しの間の後、ゴルトはそう言いながら、先程やんわりと振りほどかれた手を再度取ると、リストバンドの上に手を添え何かを唱え始めた。

 すると、リストバンドがほのかに発光し、花の装飾が煌めいていく。


「これでよい」


 しばらくしてゴルトはそう言うと、モモの手を開放した。


「ゴルトすごーい!」

「今の何? 初めて見たわ! わたしもできるようになるかしら!」


 何が起きたのかわからずその場で立ち尽くすモモを余所に、いつの間にやら見学していたシャルロッテとロロが興奮した様子で目を輝かせている。

 ゴルトはどこからかロロの掌程の厚さがあろう古い魔導書を取りだすと、そんな二人の前にドサッと置いた。


「どうかのぅ……その内できるようになるやもしれぬぞ」

「で、でた、分厚い本……」

「わ、わかったわ。やってやろうじゃない!」


 にやり、という笑みの見本のような表情をするゴルトに対抗してか、ロロは出された魔導書を開き読み始めた。

 上級の魔導書。それも獣人文字に書き下されていない古書である。その道の研究を生業としているロルフでさえ半分ほどしか解読できていない本なのだ。それ故に、少し頭の切れる程度の少女に簡単に読めてしまう訳もなく――ロロは初めのページの数行を読むことすらできず頭を抱え始めた。


「あまり虐めると嫌われるぞ」

「まぁまぁ。たまにはよいではないか」


 “たまには”という点が少し引っかかる気もするが、そう言うゴルトは実に楽しそうだ。久しぶりに魔術に興味を持つ者に出会えて嬉しいのだろう。

 ちなみに、当該の魔導書に書かれているのは、魔道具へ魔力や効果を付与するための手順についてだ。この世界に存在する、魔石と呼ばれる属性や能力補填などの力が宿っている宝石を効率よくアイテムに組み込む方法から、その魔石自体に追加の能力を付与する方法などが、手取り足取り書かれている。それによって、そのアイテムを持つ者に加護を与えたり、身体能力などを補填することができるようになるため、魔道具職人ならば昔は誰もが読み込んだ本だろう。とは言え、普通は原書ではなく獣人文字に書き下された本を用いるであろうが。


「魔術に興味を持つのは良い事じゃ。自らの生活を助けるだけでなく、周囲を守る剣や盾にもなるからの」


 そんな事を言いながら、ゴルトはロロの方を眺めつつ目を細めた。

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