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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .5 贈り物(前編)

「アナタって本当にうるさいわね。少しは静かにできないの?」

「……俺か?」


 ロルフとクロンの間に割って入るように言うヴィオレッタのその言葉は、ロルフの方へ向けて発されたようだった。


「アナタ以外に誰がいるって言うのよ。ずぅっとゴニゴニゴニゴニ……何考えてるんだかわからないわ」

「……」


 ヴィオレッタは、脳内で考えている事をうるさいと言っているのだろう。そんなことを言われても、としか返答のしようがない問題に、ロルフは黙り込む。

 そもそも、他人の思考を勝手に読むのが間違っている。ヴィオレッタといい、ゴルトといい、読心と言うのはそんなにも楽しい事なのだろうか。


「あーぁ、嫌だわ。アナタ達に出会ってワタシは最悪の気分なのよ。アナタに催眠は利かないし、リージアの心も読めなかったのよね。落ち込んじゃうわワタシ」


 そう言うとヴィオレッタはクロンの方をチラッと見た。クロンはいつの間にかロロの後ろをついて歩きながら、何か会話を始めた様だ。

 そんなのはお構いなしと言わんばかりに、ヴィオレッタは「慰めて、クロン」そう言ったかと思うと、そのもふもふな尻尾を捕まえ顔をすりすりとすり寄せ始めた。


「ワタシの癒しはアナタだけだわぁ」

「わぁぁあ! や、やめてくださいってば……」


 突然の出来事に体をビクッと強張らせそう言うクロンであったが、ヴィオレッタは「んもぅ、つれないわ」と言いながらも何とも嬉しそうだ。

 ヴィオレッタの気変わりの早さに呆れながらも、ロルフは他の面々の様子を眺める。

 不機嫌そうにクロンの後ろのヴィオレッタを睨みつけるロロに、こちら側の騒ぎは気に留めず夕飯の話をしているシャルロッテとモモ。ただいつもの様に図書館へ行って戻るだけの予定が、まぁ、何とも賑やかになったものだ。

 そんなことをぼんやりと思いながら、ロルフはコンメル・フェルシュタットへと続く道を進む。この平和な時を崩す魔の手がすぐ近くまで迫っているとも知らずに。




*****

****

***




「帰りが遅いかと思えば、随分と珍妙な面子じゃの」


 店に入るや否や、珍しく迎えてくれたゴルトの第一声はそんな言葉だった。


「ふぅん、ロルフのお母さんだっていうから、もっとおばあさん想像してたけど、若くて綺麗な人じゃない! それにいかにも“いい女”って感じ!」


 ロルフを押しのけて前に出たロロがそう言うと、ゴルトは少し驚いたような表情をした。そして、目を細めると、


「ほぅ。リェフからませたロリっ子を連れておるとは聞いておったが、随分とまぁなかなかに目利きな良い子ではないか。気に入ったぞ」


 そう言ってロロの頭を撫で、その反対の手で持っていた、宝石のついた大きなリングと小さなリングが細めのチェーンで繋がったアイテムを少女の手に握らせた。


「なぁに、これ?」

「そなたにやろうと思うての。身につけておくとよい」

「ほんと! くれるの? ありがとう!」


 ゴルトはロロの反応に満足げに笑うと、ロルフの方へと近づく。


「まぁ確かにロルフにはちと可愛すぎるような気もするがの」


 耳元で発されたその言葉に、ロルフは思わず眉間にしわを寄せた。耳元に顔を近づけられているためロルフから顔は見えないが、恐らくこれでもかという位にやついているだろう。


「あらぁ? アナタってそういう趣味だったのね。どうりでワタシの魅力に惹きつけられない訳だわ。――ロリコンさん」

「お前だって同じようなもんだろ……」


 ロルフはため息交じりに反論する。

 ゴルトの言葉が近くにいたヴィオレッタに聞こえてしまったらしい。よりによってこいつに……そう思いつつ振り向くと、ヴィオレッタは口元に手を当てにやにやとロルフを見つめていた。


「いや、ちょっと待て、そもそも俺はそんな趣味はこれっぽっちもない」


 その顔を見て、ロルフは慌てて弁解する。先程の返答ではロリコンである事を肯定したようなものではないか。


「ふぅん、オトウト君になったら教育してあげようと思ったのに。残念よねぇ、クロン?」

「そ、そうですね……」


 そう問いかけられたクロンは困ったように微笑する。ヴィオレッタに腕を絡められ顔を引きつらせている彼に、今は言葉の内容など、頭に入っていないであろう。

 蛇に睨まれた蛙ならぬ虎に絡まれた子栗鼠だ。


「そこの小僧、ちょいと良いか」


 あまりクロンをいじめないでやってくれ、そう言おうとロルフが口を開こうとした時だった。

 近くの棚を漁っていたゴルトが掌を上に向け、人差し指をちょいちょいと動かしながらクロンを呼んだ。


「ぼ、ぼくですか?」


 ゴルトに呼ばれたクロンは、すみませんと言いながらヴィオレッタの腕から逃れると、小走りでゴルトの元へと駆け寄った。

 腕を引き剥がされたヴィオレッタは恨めしそうにゴルトを睨みつけているが、クロンの安全の方が優先だろう。


「なんでしょう……?」

「そなたにはこれをやろう。肌身離さずつけておるのじゃぞ」

「――? あ、ありがとうございます」


 クロンは貰った三つ程の金属の塊を不思議そうに眺めると、焦ったようにお礼を言った。


「ここじゃよ」


 渡されたアイテムが何なのかを理解していなさそうなクロンに、ゴルトが自分の首元を指さす。

 そのジェスチャーで理解したのか、クロンはリボンタイの結び目とシャツの襟の先にそれぞれ貰ったアイテムをパチンとはめた。

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