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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .26 少女の決意

 翌朝。

 ロルフが昨晩中途半端に終えた片付けの続きをしていると、リージアが目を覚ました。

 彼女は目をこすり、ロルフの行動を数秒眺めたかと思うと、未だに残る酒臭さを気にもせずロルフの背中をバンバン叩きながら笑う。


「いやぁ~人の金で飲む酒程旨いものはないよね~! 片付けまでしてもらっちゃって悪いね!」

「いや、手伝ってくださいよ」


 目覚めてすぐこのテンションとは何ともキャラのブレない人だ。


「ん~ロルフおは……あ! ロルフ! どうして片づけちゃうのっ」


 リージアの声に起きたのか、シャルロッテが昨日の続きと言わんばかりに駄々をこね始めた。

 そんな二人にモモとヴィオレッタも眉間にしわを寄せながら目を覚ます。


「ちょっと何なのアナタ達……大きい声出さないで。頭に響くわ」

「私、昨日の記憶が曖昧で……何か悪い物でも食べたんでしょうか……気分が……」


 こちらの二人は見事に二日酔いらしい。

 いつの間にか寝室にでも行ったのか、ロルフが目覚めた時には姿のなかったロロの父親が二階から降りてきた。そして、何やら小瓶のいくつか入った小さな箱をテーブルの空いた場所に置く。


「皆さんおはようございます。酔い覚まし用の薬です。入用でしたら……制作段階の物なので味は少々不味」

「うぅぅえ!」


 言葉を最後まで聞かず我先にと瓶を取り、一気に飲み干したヴィオレッタが嗚咽する。


「ちょっと! コレ、ホントに効くのよね?」

「効果は問題ないかと……」


 涙目になりながら聞くヴィオレッタに、ロロの父親は苦笑いしながら萎縮気味にそう答えた。

 そんな二人を見ながらモモも恐る恐る瓶の栓を開け匂いを嗅いでいる。


「おはようございます」


 そんな中、階段の陰から覗き込む様にして顔を出したクロンに、ヴィオレッタが嬉しそうに近づいていく。


「おはようクロン。今日も朝から素敵ね。でもしばらく会えなくなるなんて寂しいわ……」


 クロンのお陰か、薬のお陰か、すっかり調子はいつも通りに戻った様だ。

 散らかしておきながら片づけを手伝おうともしないモモ以外の三人にため息をつきつつ、テーブルを最後にひと拭きすると、ロルフはパンパンと手を鳴らした。


「さ、お暇するぞ」

「えーもう帰るの? どうしてっ」

「何よ、ワタシとクロンの大切な別れの時間を奪うつもり?」

「おっやるね~片付け完了かい? 目覚めの三次会と行きますか!」


 モモだけが立ち上がりその場でわたわたしているが、ロルフはその他口々に好き勝手言う面々を無視することにした。

 なんだかんだ言ってシャルロッテとモモはついて来るだろう。――ヴィオレッタとリージアは知らん。


「じゃあなクロン、元気で。ロロにもよろしく。……お世話になりっぱなしですみません。ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」


 にこやかに挨拶を交わし、それじゃぁ、とロルフが玄関を開きかけたその時だった。


「まって! まってまってまって!」


 そんな叫び声と共にドタドタ音を立てながらロロが階段を駆け下りてきた。背中には大きなリュックサックを背負っている。


「やっぱりわたしも着いて行くわ! ロルフと一緒にいたいのよ!」


 少しだけ息を切らすロロに全員の視線が集中する。そして、リージアが茶化すように口を開いた。


「あっれ~? 知らぬ間に二人はそんな親密な関係になってたわけ?」


 そんな言葉をうのみにしかけたのか、一瞬クロンと父親から冷ややかな視線が向けられた気がしたロルフは、いつもとは違う変な緊張を感じた。これは早急に誤解を解く必要がありそうだ。


「ち、ち、違うっ! そうじゃなくて!」


 んんっと咳払いをすると、ロロは言葉を続ける。


「昨日話して思ったの。わたしもロルフ達と一緒に行くべきだって」


 くるっと向きを変えると、ロロは父親の前に立ち、真っ直ぐその瞳を見つめた。


「ロルフと一緒にいれば何だか知りたいことを知れる気がするの! これは直感でしかないけど、でも、お母さんだって時には直感に頼ることも大事って言ってたし……いいでしょ、お父さん!」


 娘の真剣な眼差しに、ロロの父親はいつになく返答に困っている様子だ。

 ロロの気持ちを感じ取ってか、先程までニヤついていたリージアも真面目な表情で二人を見ている。


「お父さん」


 そんな沈黙を破るように口を開いたのはクロンだった。


「僕からもお願いします。ロロを行かせてあげて。僕が……僕がしっかり見てるから」


 決心したのか、父親は二人の頭に手を置くと、ロルフの方に視線を向けた。

 微笑み頷くロルフに、父親は二人に視線を落とすとにっこりと笑った。


「わかった。行っておいで」

「ほんと! ありがとうお父さん!」

「あぁ、ただし、くれぐれも迷惑をかけないように」

「はい! 行ってきます!」


 元気よく返事をしたロロは、早く行こうと言わんばかりにロルフの背中を押すようにして外へと出た。

 そして楽しそうにシャルロッテと共に走り出したかと思うと、くるりと振り返る。


「何してるのお兄ちゃん! また置いてくわよ?」

「ま、待ってよ、ロロ!」


 妹を追いかけ駆け出そうとしたクロンの肩に手を置くと、父親は少し心配そうな顔で笑う。


「ロロを……頼んだよ」

「はい、お父さん」


 クロンのその言葉に父親は満足そうに頷くと、


「いってらっしゃい」


 そう言って二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

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