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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .25 母の背中

「母親が不在なのは見てお分かりかと思うんですが……」


 ロロの父親は、そこまで口にした後ロロやクロンが降りてきていないかを確認するようにちらりと階段の方を見やると、囁くように話を再開する。


「ロロは昔からお母さんっ子でしてね。妻が出勤の日は一日中泣きじゃくっているくらいで」


 アルテトと科学帝国が貿易を開始した頃、科学帝国は創薬研究者を募っていた。そこに採用されたロロの父親は、創薬研究職員として働き始めたという。

 そこで出会ったのが妻――クロンとロロの母だそうだ。


「少ない採用枠の中で唯一の女性でした。だが誰よりも聡明でとても輝いていた。ああ……惚気話なんて聞きたくはないですよね。すみません」


 謝りながらもその表情は当時を思い出してかどこか嬉しそうだ。ロロの父親は緩んだ表情を飲み物を飲んで少し引き締めると、話を続けた。

 当時はそれほど遠くない場所に研究施設が建設されており、クロンとロロが生まれてしばらくまでは父と母、順に週番で働いていたそうだ。しかし、数年前に研究が縮小されたことで近間の施設が閉鎖され、全ての研究が帝国内へと持ち帰られたという。それに伴い、人材についても優秀な者のみ選抜された。

 帝国のある灰色の大陸は、アルテトのある緑の大陸と行き来するのにかなりの時間を要する。父も母もその対象となったものの、まだ幼いクロンとロロを二人にしてはおけないため、身体の弱い父が家に残り、母が帝国へ渡り仕事をすることになった。初めの内は、ひと月おきに一週間の帰宅が約束されていたが、徐々に帰れない月が増えていった。そんな状況に、子供達が寂しがるだろうからと、二、三日に一度は手紙を送って来るようになったそうだ。


「その手紙をロロは何よりも楽しみにしていました。ですが、ここ何年かは研究室から出る事もできない程に忙しいらしく、家へ戻って来るどころかその手紙さえ届かなくなってしまったんです」


 ここまで話し終えると、ロロの父親はロルフを見て弱々しく笑いかけた。


「彼女と私と、立場が逆ならよかったんですがね……ロロは母に似て聡明な子ですから。もしかしたら、そう思う私の気持ちも伝わってしまっているのかもしれません。実に情けない話です」


 ロルフは先程ロロと話したことを思い出す。以前世界図書館からの帰り創薬研究者になりたいと言っていたのは、早く大人になりたがっているのは、どちらも母に会いたいがためなのだろう。

 と、ロルフがなんとなしに視線を上げると、リビングからこちらを見ていたシャルロッテと目が合った。


「あっれーロルフだぁ! いつから帰って来てたの? 私を置いてどっか行っちゃうのめっでしょ!」


 今更ロルフの存在に気付いたのか、シャルロッテが人差し指を立てながら頬を大きく膨らましている。モモの真似でもしているつもりだろうか。

 いつもの優しそうな顔でニッコリ笑うロロの父親にすみませんと謝ると、ロルフはシャルロッテに近づいた。


「シャルお前……どれだけ呑んだんだ?」

「そんなに呑んでないもん! モモと一緒にいろんな色のやつ呑んだだけだもん! ね、モモ!」


 いつもに増して騒がしさに磨きのかかっているシャルロッテに、ロルフは眉をひそめた。身体の中に拡声器でも入っていそうな声の大きさだ。


「ふぇっひっく……ふぁい?」

「あははは! ロルフってばもしかして素面~? つっまんないなぁ~」


 シャルロッテに揺さぶられまどろみから戻ってきたモモは、しゃっくりが止まらないのか口元に手を当てている。そして、向かい側のソファに座るリージアはロルフの姿を見て、なぜか爆笑し始めた。

 リージアはロロの捜索を開始する前からだったが、シャルロッテとモモも大分出来上がっている様子だ。ソファのひじ掛けに体を預けて眠りこけているところを見ると、ヴィオレッタもかなり酔っているのだろう。

 先程の水が入ったピッチャーを持ってくると、ロルフは三人分水を注いだ。


「さぁもうお開きだ。これを飲んで早く片付けろ」

「えー! なんでっやだやだぁ!」


 嫌がるシャルロッテをなだめつつ、ロルフは手際よくテーブルの上を片付けていく。

 ゴミなどを粗方まとめたところで静かになった三人を見ると、気持ちよさそうに眠っていた。――まぁ、そうなるよな……ロルフは大きくため息をつく。


「すみませんお父さん。四人とも寝てしまったみたいなので」


 ロルフは四人を起こさないよう、小さな声でロロの父親に話しかけようとした。――が彼もまた踏み台に腰かけたまま寝てしまったのか、小さく寝息を立てていた。

 元々泊まらせてもらう予定ではあったが、こんな形になるとは……ロルフはロロの父親が持ったままのコップをそっと取りキッチンに置くと、階段に腰を下ろし自身も仮眠をとることにした。

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