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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .19 兄妹喧嘩

「わたしは反対! 断固反対だわ! ここまで連れてきてくれた事には感謝するわよ? でも一番大変な時いなかった人が今更なに? どうして死に物狂いで作ったプラントバリケードを開けてあげなくちゃならないのよ!」


 つい数分前までだらけ切っていたとは思えない程大きな声で怒号を飛ばすロロに、周りの大人達も思わずすくみあがる。


「まぁまぁロロちゃん落ち着いて。大人たちで話し合った結果なのじゃよ。ロロちゃんも聞いておった……」

「おじいちゃんは黙っててよ!」


 ロロをなだめようと立ち上がり言葉をかける村長であったが、ロロの勢いに押されてよろよろと再度椅子に腰を下ろした。

 プラントバリケードの前でクロンの意見を聞いたロルフは、ヴィオレッタやクロンの父と共に村長宅へと出向いていた。何事かとついてきてしまった全員を村長は嫌な顔せずに通してくれたのだが、正直なところ今は後悔しているかもしれない。


「お兄ちゃんだって大変だったのにどうしてそんなこと言いだすの!」

「そ、そうだけど……」

「じゃぁなんで!」

「そ、それは……」


 クロンは、恐怖で真っ白になりかけている頭の中で必死に言葉を探す。

 そして、震える声で絞り出すように言った。


「ぼ、僕は、ヴィオレッタさんの力を信じてみたい。奴を、マンティコアをずっと、あそこに閉じ込めては置けないだろうし……」


 核心を突いた意見に思わずロロは黙り込む。

 いくら能力によって生み出された物質に強度があるとはいえ、永遠にそのままの状態を保っていることができる訳ではない。それに、四季のあるインガンテス・フォレストは冬へと移ろっているが、森の外であるこの辺りは一年を通して温暖な気候であるためシャルロッテの氷も二、三日と持たないだろう。近いうちにどうにかしなくてはならないのは事実なのである。

 しばらく続いた沈黙の後、ロロがおもむろに口を開く。


「そのままプラントバリケードごとどこかへ持っていくとかはダメ?」


 発言と共に向けられた視線に、ロルフは口を結び小さく首を振った。

 プラントバリケードは地面から生えた植物によって作られているため、簡単には持ち上げることができない。それに今回は、プラントバリケードとその周りを凍らせてしまっているため、そこも障害となるだろう。もし仮に上手くマンティコアを入れたまま持ち上げることができたとしても、そんな危険な物をどこへ運ぶと言うのだろうか。


「ハンターを探して討伐してもらうのは?」


 クロンは躍起になって代案を探すロロの両肩を押さえると、目線の高さを合わせるように中腰で話し始めた。


「それだとまた怪我をする人が出るかもしれないよ。ヴィオレッタさんなら、これ以上の被害を出さないでマンティコアをどうにかできるって」

「でも、」

「ね、ロロ。氷が解けるにつれてマンティコアの体力は回復してしまうかもしれない。一番弱っている今がチャンスなんだよ? それに昔はあんなにヴィオレッタさんに憧れていたじゃない。ロロこそどうしてそんなに頑なに嫌がるの?」

「それは……」


 兄のいつになく真剣な眼差しに、ロロは目を逸らせぬままうろたえる。

 最初から、理解はしていたのだ。マンティコアのことをヴィオレッタに任せるべきだという事を。それが現在出来うる最善の策であるという事を。

 しかしなぜか、反論せずにはいられなかった。簡単に認めてしまっては、何かを失う気がした。

 悔しそうに唇を固く結び俯くロロに、ヴィオレッタは実に嬉しそうに声をかける。


「さ、どうするの? 反対しているのは後アナタだけみたいだけど。今ならクロンに免じてタダでやってあげるわよ?」


 ゆっくりロロとクロンの周りを歩きながらそう言うヴィオレッタは、自分以外に頼る事の出来ないこの状況を楽しんでいるかのようだ。

 と、その時だった。ロロの口がわずかに動くのと同時に、クロンが尻餅をついた。


「もう知らない! みんなっ……皆大っ嫌い!」

「ロ、ロロ!」


 驚き目を見開くクロンを余所に、ロロはそう叫んで涙を浮かべながら部屋から走り去っていった。

 流れる沈黙に、ヴィオレッタはワタシのせいじゃないわよと言いたげな表情で視線をきょろきょろと動かしている。


「いやぁ、すみません。お恥ずかしいところを……いつもはもう少し聞き分けのいい子なのですがね。今日は、疲れていて機嫌が悪かったのかな、あはは……」

「いやぁ、何、子供の扱いと言うものは難しいものですな」


 申し訳なさそうに謝る父親と、それに合わせて空笑う村長の声が虚しく響く。


「さて、クロンもいつまでもそうしていないで立ち上がりなさい。では行きましょうかヴィオレッタさん」

「何も力になれず申し訳ない。よろしくお願い致しますな」


 気まずい空気と別れるように、一行は村長の家を後にした。

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