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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .17 一髪

「シャル!」


 ロルフはとっさにシャルロッテの方へ手を伸ばしながら走り出す。

 急な咆哮と叫び声に驚いたモモも、何事かとロルフの視線の先を追う。するとそこにはシャルロッテの姿は見えず、蒸気のような靄がかかっていた。


「えへへ、助かりました」


 しばらくして蒸気の中から現れたシャルロッテは、駆け付けたロルフに向かってはにかみながらそう言った。尻餅をついているものの怪我などはしていなさそうだ。

 マンティコアから吐き出された炎は、シャルロッテに届く直前に彼女自身から発された冷気によって防がれていた。本来シャルロッテの力はそこまで強くはないのだが、ロルフによって能力値を大幅に上げられたためどうにか防ぐことができたのだろう。


「よ、よかったぁ……」


 モモが安心したように胸に手を当てそう言う。

 しかし、ホッとしたのも束の間、


「モモ、走りな!」


 モモに向けてリージアが叫んだ。

 その声にロルフとシャルロッテもモモの方へ視線を向けると、ロルフの拘束から放たれたマンティコアが、モモのすぐ横まで迫っていた。


「……!」


 走るどころか、恐怖のあまり声も出せず立ちすくむモモに向かって、マンティコアは右前足を振り上げる。

 そして、誰もがもうだめか――と思った瞬間、


『スティールタイム!』


 幼さの残る力強い二つの声が重なり、その場に響いた。

 モモのすぐ後ろで、ロロが歯車、クロンが砂時計を模した様な魔法陣をマンティコアに向けて展開している。

 二人によって停止させられたマンティコアは、まるで像になったかの様にその場で動きを止めていた。


「ふ、ふ、ふぁ……!」


 思わずつぶった目を恐る恐る開けたモモは、ヨタヨタとマンティコアから離れるようにしゃがみ込む。あまりの急展開と恐怖に、思考がついてきていない様子だ。


「ロロ! クロン!」

「もうほんと、わたし達がいないとダメダメなんだから!」


 ロロは駆け寄ってきたロルフとシャルロッテにそう言うと、


「でも急いで再開して! あと一分と保たない!」


 間髪入れずそう告げ、視線をマンティコアの方へと戻した。

 ロルフはその言葉に二人を心配するため開きかけた口を一度閉じると、足元でうずくまっているモモに向けて声をかける。


「モモ、できそうか?」


 モモはゆっくりとロルフに視線を合わせ、次にロロとクロンの方へと顔を向けた。

 そして、少しの間があった後ぎゅっと目をつむると決心したように頷く。


「……や、やります!」


 差し出されたロルフの手に自身の手を重ねると、そう言いながら勢いよく立ち上がった。


「よし、シャルロッテもできるな?」

「うん! まかせて!」

「作戦再開だ」




*****

****

***




「とんだ重労働だったわ……」


 モモの危機を救ったロロとクロンは、マンティコアの入ったプラントバリケードから少し離れたところで座り込んでいた。


「もうちょっとも動けない……」

「女の子が地べたに寝転ぶもんじゃないぞ」


 周りの動ける大人達と共に消火作業を手伝いに行っていたロルフが、戻ってきて早々呆れた顔でそう言う。

 あの後、時間短縮のためロルフの能力調整の力でモモとシャルロッテの能力を強化しながら、スティールタイムの効果が切れるまでにどうにか凍ったプラントバリケードの中にマンティコアを閉じ込めることができた。

 再度自由を取り戻したマンティコアはどうにか脱出しようとしばらく暴れまわっていたようだが、今は静まり返っている。ロルフの読み通り弱体化できたのだろう。


「元はと言えばロルフの集中力が足りなかったせいなんだけど」


 それを言われるとぐうの音も出ない。ロルフは珍しく言葉につまると眼鏡のブリッジに指を添えた。

 急ごしらえの作戦だったとはいえ、拘束することを目的とした技で敵の動き全てを封じようというところに無理があったのだ。


「ダメだろう、ロロ。村の恩人に向かってそんな事を言ったら」

「パパ……!」


 父親の突然の登場に、ロロは焦って体を起こす。


「今までどこにいたのよ!」


 娘の刺々しい言葉に、父親は困った顔でにはにかむ。身体の弱い父親を心配した言葉だったのだろうが、その態度のお陰で伝わっていない様だ。


「消火作業の手伝いに行った先で指揮を執っていらしたんだ」


 そんな彼の代わりに、ロルフが答える。

 すると、ロロは興味がなさそうに「ふぅん……」と言いながら視線をずらし頬杖をついた。

 と、ずらした視線の先から何やら見知った女性が現れ、流れるような動きで父親に近づいたかと思うと、芝居がかった動きで美しく礼をした。


「アナタがクロンのお父様? 思った通りステキな御方だわ。スエーニョ・デ・エストレーラで猛獣使いをしておりますヴィオレッタと申します。以後お見知り置きを」


 そう言いながら、そのヴィオレッタはさり気なく自身のネームカードを父親のポケットへ差し入れた。そんなヴィオレッタに、ロロの不満が爆発する。


「ちょっと、今更何しに来たわけ? ほんと大変だったんだから!」

「そうみたいね。アナタ達すすまみれだもの」


 ヴィオレッタはそう言いながら、嫌だわ、と言うように手をひらひらさせる。

 何か忘れていると思ったらヴィオレッタの事だったか。言い合いを始める二人を余所に、ロルフはぼんやりとそんなことを思う。


「猛獣使いのくせに、怖くて今の今までどこかに隠れてたんじゃないの?」

「あら、失礼しちゃうわ。ワタシの手に掛かればどんな猛獣だってイチコロよ」

「ほんとかなぁ?」

「当り前じゃない、ワタシを誰だと思っているのかしら。……それで? そのプラントバリケードは?」


 子供の挑発にまんまと乗せられたヴィオレッタがそう聞くと、


「あそこだけど……」


 そう言いながらじっとりとした目でロロはプラントバリケードの方を見る。

 それを確認したヴィオレッタは、首を傾げながら「あれ……?」と呟いたロロに背を向け、マンティコアの入ったプラントバリケードへと近づいていった。

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