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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .11 しっかり者の幼馴染

「おかえりーってなんだかお疲れの様子だね? やっぱりヴィオレッタやばい奴だった?」

「いや……まぁ……」


 リェフの店に戻ると、昨日と同様、店の前で売り子をしていたライザが元気よく迎えてくれた。が、今のロルフには、先程までに起きた事を説明する気力すら残っていなかった。

 だが、ヴィオレッタが少なからずやばい奴であることは、先の出来事のお陰で確認できたと言っていいだろう。次に会うときは必ず文句を言ってやる、普段そんなことを考えるタイプではないロルフがそう思う程には。


「ロルフ以外の能力と魔術はちっとも役に立たなかったものね。……わたしが魔術を使える年齢だったらよかったのに」

「でもほら、みんなで無事に戻ってこられたんだし、」

「それ、お兄ちゃんが言う?」


 身を縮こませたモモをフォローすべく口を開いたクロンだったが、食い気味に鋭いツッコミを食らってしまった。幼いが故の素直さなのかもしれないが、ロロの辛辣な意見は心優しいモモやクロンの心に地味にダメージを与えていた。

 そんな一行が店に入っていくのをしばらく呆気に取られて見ていたライザだったが、


「えーなになに? 私にもわかるように話してよ!」


 そそくさと品物に布を被せると、一番後ろについて店の中へと入っていった。


「おいライザ、店番は?」


 ロルフ達と共に店の中へ入ってきたライザにリェフは思わずそう口にする。そんな父に、ライザは楽しそうに「ちょっと休憩!」と笑いかけると、何やら店舗内の商談用テーブルと椅子を引きずりだした。そして、それらを手際よくロルフの元へと運ぶと、


「座った座った!」


 ぽんぽんと椅子の座面を叩きそう言った。


「悪いなライザ」


 得意気に笑うライザに、ロルフは力なく微笑むと、椅子とテーブルに倒れ込むようにして座り込んだ。テーブルと一体化しそうな程の脱力の仕方はそう、まるで昨日のお腹が空いたときのシャルロッテだ。

 そんなロルフの手を広げると、ライザは慣れた手つきで小瓶から空色の飴玉のようなものを取り出し、その手に軽く握らせた。


「さ、飲んで。と言うかよくその状態で店まで戻ってこれたね」


 色持ち達が身を潜めるようになり、薬が必要となる程に気力を消費することがなくなった現在、あまり市場には出回らなくなった気力回復薬だ。その上、気力は少し使ったところで自然に回復していくため、効果の割に値段が高い薬である。

 ロルフは気力回復薬をやっとの思いで口へ入れると、思い切り噛み砕く。


「それって気力回復薬? わたし初めて見たわ!」

「おっとダメダメ、こんな顔になっちゃうよー?」


 初めて見る薬に興味津々のロロが瓶に手を伸ばすも、横からひょいっとライザに取り上げられてしまった。

 一瞬ムッとしたロロであったが、ロルフの顔を見て眉根を寄せた。

 回復した気力のお陰か、先程とは違って普通に座ることのできるようになったロルフであったが、なぜか顔を歪ませている。苦虫を噛み潰したような顔というのは、こんな表情のことを言うのだろう。


「どうしてそんな顔してるのよ、気力を回復したんじゃないの?」

「私は飲んだことないからわかんないんだけど、めーっちゃ苦いらしいんだよね。前に飲んだときなんて次の日までこの顔してたっけ」


 そう言いながらライザはケラケラ笑っている。

 ロルフからすると笑い事ではないのだが、ライザの言うように気力回復薬はやたらと苦いのだ。

 ちなみに前回、ロルフが気力回復薬を飲むことになった原因は、今のロルフからは想像もつかない下らない出来事だった訳だが、その時に“二度と気力回復薬の世話にはならない”と心に誓ったのを覚えている。ただ、その出来事のお陰で、当時小さいながらも危険を感じ取ったライザが気力回復薬を常備するようになったのだから、若かりし日の自分に感謝すべきなのかもしれない。

 ロルフが低気力の中、そんなことをぼんやりと考えていると、


「ライザぁ私はお腹が空いてしんじゃいそうー」

「はいはい、シャルは美味しいの食べようね」


 シャルロッテがまとわりつくようにして、ライザに抱き着いていた。

 そんなシャルロッテの頭を撫でながら、ライザはリェフに軽食を作るよう指示をしている。毎度のことながら、どちらが年上なのかわからなくなりそうだ。


「ライザちゃんてなんだかお母さんみたい」


 一部始終を微笑ましく見ていたモモがふとそう呟く。その言葉にライザはニコッと笑うと、


「ロルフってしっかりしてそうで、たまに抜けてるんだよね」


 何かを思い出しているのか、目を瞑りながらうんうんと首を動かしている。


「まだ何日かしか一緒にいないけど、それは何となくわかる気がするわ」

「だよね、シャルにはそのフォローはできないだろうし、幼馴染の私がしっかりしないとって思って」


 そこまで言った後、ちらっとロルフに視線を送る。そして、「ま、最近はめっきり会いに来てくれなくなっちゃったんだけど」と誰にも聞こえない程の消え入るような声で呟いた。


「おいライザ、こっちで食うだろ? それと、移動したもん元に戻しとけよ」


 店舗の奥から聞こえるリェフの声が、店内に響き渡る。


「はーい、後でロルフが戻しとくー」


 ライザは、リェフの声がけにそう答えると、


「さ、お茶の時間だよ~」


 そう言って全員を店の奥へと誘導した。

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