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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .6 挑戦状?

 騒がしいテントの周りから少し離れた場所で、ロルフは一人小さくため息をつく。

 ――やはりしっかりと策を立ててから会いに行くべきだったか……そう思ったが後悔先に立たずというやつだ。

 チャンスは一度きりだと何度も自分に言い聞かせたつもりではあったが、ヴィオレッタを目の前にして、思わず考えてきたものとは違う質問を口走ってしまった。

 と言うよりは、近づいてきた彼女と視線が合った瞬間、何を話せばよいのかわからなくなってしまった、と言うのが感覚としては正しい。しかし、そんな感覚はロルフにとっては言い訳に過ぎなかった。


「どうするかな……」


 せっかく当人に会うことができたというのに、何の情報を得ることも出来なかった。

 唯一反応を得ることのできたのが、最後の「役者になりたいのか」という質問だけでは何の手掛かりにもならない。他の質問には回答どころかなんの反応も見せなかった。まるで本当に自分には関係のない事を問われているかの様に。

 そしてあの様子だと、恐らく要注意人物としてマークされてしまった事だろう。今後情報を収集するにあたって、これが何よりも痛手だ。

 ロルフはふとサーカステントの方へ視線を向けた。公演が終了したのか、テントの周りがやけに騒がしい。

 入場の際と同様の人混みの中会えるかは定かではないが、一旦テントの方へ戻ろうと路地へ視線を戻した時だった。


「ロルフ見つけたぁ!」


 そんな台詞と共に、自分目掛けて走ってきた白い少女にぎゅっと体を拘束される。


「シャル……?」

「えへへー」

「もう! 途中でいなくなるなんてサーカスに失礼だわ!」


 ぷんぷんという効果音を携え、ロロが人混みを掻き分け出てきた。そんな少女にロルフは謝罪の言葉を口にするが、フイッと後ろを向かれてしまった。しばらく機嫌は直りそうにない。


「それにしても……よくここにいるのがわかったな」

「シャルロッテさんがこっちじゃないかって案内してくれたんです」


 独り言のように呟いたロルフの言葉に、ロロと同じように人混みを掻き分け現れたクロンが、申し訳なさそうな顔をして答えた。シャルロッテが居場所を特定できたのはたまたまだとは思うが、人の通らなさそうな路地に案内した辺り、小さい頃から一緒にこの村へ遊びに来ていただけのことはある。

 クロンの後ろからモモがこちらへ来るのを確認すると、ロルフはロロに問いかけた。


「そう言えばヴィオレッタには会ってきたのか? ショーエンド後にまた会えるとか聞いたが」

「ん~もう! ロルフのちんちくりん! こんなところで突っ立って何してたって言うの? こんな事なら並んでおくんだったわ! 行くわよシャルロッテ! さっさと帰って夜ご飯!」

「夜ご飯! 行く~!」

「あっ二人共」


 ――それが不機嫌な理由だったか。少しでも機嫌を戻そうと思い発言したロルフだったが、逆に地雷を踏んでしまったらしい。

 無表情で静かに落ち込んだロルフに、二人を追いかけて人混みに戻ろうとしていたモモが振り返り言う。


「ロロちゃん一番心配してたんですよ。私、ロルフさんのことだから、きっとライザちゃんのところに戻ってるって言ったんですけど。何かがあってからじゃ遅いって」


 そして少し困ったように笑うと、「待って」と言いながら人混みに消えて行った。

 いつものことながら、ロロは幼い割に考え方がませている。自分の楽しみを我慢してまで人を探しにいこうなど、あの年の子供が考えるだろうか。

 何はともあれ、自分のせいで我慢をさせてしまったお詫びに、今度何かお菓子でも買ってやるか。ロルフはそう思いながら、モモの消えて行った方へ歩き出した。


「あ、ロルフさん!」


 突然のクロンの呼びかけに、ロルフは歩みを止めた。するとクロンが焦ったように何やら小さな封筒の様なものをポケットから取り出し、ロルフの方へ差し出した。


「あの、えと……ヴィオレッタ、さん、からロルフさんに渡すようにって言われて」

「ヴィオレッタから?」


 ロルフがしばらく戻っていないことに気づいたクロンがテント内を探し歩いていたところ、この封筒を渡されたそうだ。


『明日、日の出の刻にテント裏にて』


 封筒に入っていたのは、人が書いたとは思えない程に整った文字でそう書かれた何の変哲もないカードだ。封筒やカードの裏面も見てみたが、それ以外には特に何も見当たらない。

 あれほどまでに話すことを拒んでいたヴィオレッタが、自ら何かを話そうというのか。はたまた何かの罠か。ロルフがカードを封筒の中に戻すと、クロンが意を決したように口を開いた。


「僕、ロルフさんからしたらまだ子供だし、こんなだから頼りないかもしれないですけど……少しでも力になりたいです」


 突然の申し出に、ロルフが呆気に取られていると、耐え切れなくなったのかクロンは小さい声で「と、言うように言われました……」と付け足した。

 そう言えばあの時、一緒にいた男の子を連れてこいなどと言っていた気がする。クロンを連れてこいと言う訳か。とそこで、悪い考えがよぎったロルフは、慌ててクロンに問いかけた。


「何かされたりしてないか?」

「……? いえ、何もされてはないです」


 そう答えながら、クロンはキョトンとした顔でロルフを見る。この様子からすると、どうやら何もされていないのは本当らしい。

 ロルフは胸を撫で下ろすと、小さく「良かった」と呟いた。

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