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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .03 *** 貧窮化した村と世界的猛獣使い
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scene .2 不思議な本

「間違いねぇ、受け取ったぜ」


 荷物と資料をロルフから受け取ると、リェフは中身と内容を確認し、うんうんと頷いた。


「そういやぁおめぇ達しばらくここにいんのか?」

「ええ、まぁ……徒歩でもないと村の外にも出られないと聞いたので」

「そりゃぁいい! で、どこに泊まるんだ? ちょっと頼みてぇことがあってよ」

「……!」


 ――しまった。ロルフは口元を手で押さえると、しばらく硬直した。

 元々シトラディオ・パラドには数時間の滞在予定であったため、宿泊についてすっかり失念していたのだ。


「なんだ? 俺には教えられねぇってか」


 宿泊先を答えないロルフに少しムッとした表情をすると、リェフはロルフの首に腕を回す。

 そんなリェフにちらりと視線を送ると、


「いや、えと……忘れてました」

「なんだ、そういうこった! なら家に泊まりゃぁいいじゃねぇか! 空いてる部屋ならいくらでもあるしな」


 忘れていたと答えたロルフに、リェフはいつもの様にガハハと笑うとそう言った。

 最近こそ日帰りで荷物を届ける程度だが、昔はよく泊まっていったものだ。とはいえ今回の滞在期間はおおよそ二週間。しかも二人ではなく五人だ。いくら昔からの知り合いだとは言え、長期間大人数でお世話になるというのは少し虫の良すぎる話では……どうしたものか考え始めたロルフの思考をリェフの発言が遮る。


「さぁて、飯にすっか。おめぇらもどうせ食ってないだろ?」

「いや、リェフさん。そんな……」

「気にすんな! そんな堅っ苦しい関係じゃねぇだろうよ」


 そう言ってリェフは緩んでいた腕に再度力を入れると、クルッと体の向きを外へ向けた。


「外はあの様子だぜぇ? 俺達住民ですら買い物もままならねぇ位だ。……それにほら」


 リェフが顎で示した先を見ると、店の隅にある商談用のテーブルの上に白い物体――シャルロッテが今にも溶け出しそうな程にぐったりと寄りかかっていた。隣に座っているモモが背中を撫でながら慰めている様だが、まるで耳に入っていない様子だ。


「わ……かりました」

「よっし決まりだ! ライザを呼んできてくれ」


 しぶしぶ了承したロルフの背中をバンッと叩くと、リェフはそう言った。




*****

****

***




「んで、その本が出てきたっちゅう訳よ」


 食事が済み、細長い木の枝の様なものを咥えたリェフが何やら重厚感のある本をロルフの前に置いた。

 サーカスが来団するとのことで、売れもしないのならとしまいこんでいた武具などを引っ張り出すべく、倉庫を整理していたところ出てきたそうだ。


「そういやぁと思ってな。ゴルトが探してる本っちゅうのはこういう本のことなんじゃねぇかなと」

「貰ってしまっていいんですか? 綺麗に保管されていたような雰囲気ですけど」


 倉庫にずっとしまってあったというだけあって全体的に埃っぽさはあるが、擦れや傷などもほとんどなく状態はよさそうだ。


「開けねぇんじゃな、使いようもないしな。どうせ爺さんが溜めこんだガラクタの一つだろうよ」


 ――開けない本。世の中には、何をしても開くことができない本というものが多数存在するらしい。開けないというのは、鍵がついている云々の話ではなく、ページ同士がぴったりと糊付けでもされているかのように張り付いているということである。

 なぜかゴルトはそんな本を集めているらしく、知り合いに見つけたら譲ってもらえるよう話をして回っている。


「開けもしない本なんてどうするつもりなの?」

「さぁ……」


 ゴルトのしている研究内容や集めている物は多岐にわたり過ぎていてロルフでも理解できない。この開けない本集めもそのうちの一つだ。

 興味津々という様に手を差し出してくるロロに、ロルフは本を渡した。ロロは本をどうにか開こうと表紙と裏表紙を持って引っ張ったり、表紙のみを持って振ってみたりしている。


「ほんとだわ、びくともしない……」


 しばらくすると諦めたのか、本をテーブルに放り出した。隣に座っていたクロンも遠慮がちに表紙の端っこをつまんで上に持ち上げようとしているが、本の全体が持ち上がり開くことはなかった。


「私にもやらせてよ!」


 と、そこへひょいっとライザがやってくると、本を持ち、ロロがやっていたのと同じように表紙と裏表紙を持って引っ張った。


「わぁ、ほんとだったんだ。私には貸してくんないし、てっきりパパが冗談でやってるのかと思ってたよ!」


 そう言いうとライザは更に力を込め始める。「ふぐぐぐぐ」「うりゃぁあああ」などと言いながら全力で引っ張っているが、本はびくともしない。

 そんなライザの様子を見て、このままだと開く開かないの問題ではなくなると思ったロルフは、ライザに声をかけた。


「もういいだろ? その辺でやめておけって」

「で、も……読めないんじゃ……意味、ない、んじゃぁない」

「お、おい、ライザ……」


 顔を赤くして力づくで本を開こうとするライザから本を取り返そうと、ロルフの手が触れた時だった。

 本の中心辺りのページが一瞬光り、ライザの手から飛び出すかの様に床に落下した。


「え……ロルフ今なんかした?」

「いいや」


 ロルフは眼鏡の位置を直すと、落ちた本を拾い上げようと手を伸ばす。そして違和感に気づいた。それと同時に、


「開いてる!」


 ライザが驚いたように声を上げた。

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