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scene .20 ×××
騒がしい酒場の隅の席、煙草をくゆらせながら一人の女が携帯用の小型魔術水晶を取り出した。
そして慣れた様子で水晶を口元に近づけ呟くように呪文を唱える。すると、間もなくして水晶に深くフードを被った男が映し出された。
女は周りの人間の動きを観察しながら、淡々と何かを伝えていく。そして、ふぅっと長めに白い煙を吐き出すと、
「たまたまだって何だっていいじゃないか、情報は伝えたんだからさ」
そう言って女は脚を組み替え、灰皿に煙草を押し付けた。
「これからも報告はするさ。ただ約束通り、その時になったら私はやりたいようにやらせてもらう。それだけのこと」
女は通信を切ると、水晶をしまいにやりと笑う。
「やっとチャンスがきたんだ。絶対に仇を討ってやる。……お姉さん、勘定!」
軽く手を上げ近くにいたウェイトレスを呼び、テーブルにお代とチップを置くと、女は酒場を後にした。
旅の始まりと時の狭間 end ***