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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
42/194

scene .17 科学帝国と改ざんされた過去

「こんなもんか……」


 ロルフは写し取った記録をまとめると、記録室の中央に立つ水時計を見る。時刻は正午を一時間程過ぎたところだ。――シャル達は昼食をちゃんと取っただろうか。

 モモ一人に子供三……二人とシャルロッテの面倒を頼むのはいささか気が引けたのだが、リージアも同行してくれるというので心置きなく任せてきたつもりだった。が、ロルフの性格上、やはり少しは気になってしまう。


「まぁ、大丈夫だな」


 自分に言い聞かせるように独り言を言うと、まとめた資料を持って記録室から図書館側へと移動する。

 ゴルトに頼まれた調べものはそこそこの量があるものの、いつも見ている本の最新版を何点かチェックすればよいだけなので、この分だと夕方には調べ終わりそうだ。


「その前に昼食にするか」


 ロルフは近くの売店で軽食と飲み物を買うと、近くの椅子に腰をかけ、集めた資料に視線を移す。

 ココット・アルクスの襲撃事件の後、同じような事件が発生したという記録はなかった。取り合えずは安心したロルフだったが、他の気になっていた事象について調べていると、そこまで重要視していなかった二十五年前の疫病による住人全滅事故について、気になる点が多数見つかった。……というより、情報が改ざんされたような形跡があったのだ。

 そもそも疫病によって全滅したと言われている村の存在が、疫病が流行る数年前に突然現れている。それも、村が現れた場所は、直近の記録までは実験施設があったはずの場所であった。

 不審に思ったロルフが他の記録を漁っていると、気になる情報を見つけた。その場所に元々あったとされる実験施設は、現在世界を統括しているヴィッセンツァ・エスティ――通称“科学帝国”の実験施設で、世界中から有能な科学者や魔術者を集め何やら色々と開発させていたらしい。その施設が爆発事故により、大部分を損傷。実験施設としての機能を失ったそうだ。何が引っかかったかというと事故が起きた時期で、小さな村が現れたとされる数日前の出来事だったのだ。

 いくら世界を統べている国だとはいえ、数日で実験施設を撤去し、村を整備することはできないであろう。爆発事故という失態を隠すため記録を改ざんしたというのは概ね間違いなさそうだ。しかし、動物が原因の疫病とする必要はあったのであろうか。何か理由があるとすると……


「まさか、な」


 今頭に浮かんだ考えを否定しつつ、ロルフがカップの飲み物に手を伸ばしたその時だった。


「ロルフみーっけ!」


 突然後ろから馴染みのある声と重みがロルフにのしかかってきた。その拍子でカップに触れかけた指が滑り、中身が大波を打つ。せっかく集めた資料が水の泡と化すところであった。


「シャルロッテ!」


 ロルフは振り返りながら犯人の名前を呼ぶ。


「わー! ロルフが怒った!」


 そう言いながらモモの後ろに隠れるシャルロッテはなんだか楽しそうだ。

 そんなことより、ここはシャルロッテ達の居ると言っていた児童書や参考書の置かれた場所とは正反対のはずだ。二人はどうしてこんなところにいるのだろうか。


「ほんっと落ち着きないわよね、シャルロッテって」


 質問しようとしたロルフの言葉を遮るように、ロロの声がした。よくよく周りを見てみると、全員いるようだ。


「いやぁ、元気で何より! ロロだって子供らしく走り回るくらいでいいんだよ?」

「やだわ、あんなのの一人になるの」


 そう言ってロロは、遠くで駆け回っている自分と同じ位の歳であろう子供たちを白い目で見る。


「ははっ、ロロはませてるねぇ~」


 そんなロロの反応に愉快そうに笑うリージアを見て、「そう言えば」ロルフが思い出した様に口を開く。


「リージアさんの持っている手形はヴィッセンツァ・エスティのものですか?」

「ん? ……あぁ、これ?」


 少しの間の後、リージアは布切れを取り出しロルフに見せた。アルテトに入る際、彼女が門番に見せていた布だ。

 資料を探していた際、ふと目に入った科学帝国の紋章がリージアの持っている手形のものと似ていたため、気になっていたのだが、やはり同じもので間違いないだろう。


「帝国のだけど、何か?」

「あぁ、いや。本でその紋章を見かけたので、そうなのかなと思いまして」


 問いかけてくるリージアの声に、いつもは感じない棘を感じたロルフは慌てて弁解する。

 最近の科学帝国については良くない噂がちらほら流れていることもあってか、少しデリケートな問題ともいえるのだ。リージアの様な性格の人間でも、科学帝国の関係者というだけで心無い言葉を投げかけられることがあるのかもしれない。


「あ~なるほどね! よく覚えてたねぇ!」


 いつも通りのトーンに戻ったリージアの言葉に、ロルフはほっと心をなでおろす。


「さすがに十五年前の内情なんてのは、」

「あぁ! ぜんっぜん! 私は下っ端も下っ端、ただの運び屋だから十五年前どころか今の帝国のことだって全く知らないよ!」


 ロルフが質問し終える前に、リージアは大袈裟に手を振りながら答えた。

 何となくそうだろうとは思っていたが、せっかく帝国関係者がいるというのに新しい情報が得られなかったのは残念だ。だが、恐らくこの話題を早く終わらせたいのだろう。食い気味に答えたリージアの気持ちを汲んだロルフは、


「そうですよね……ところで」


 話題を変えるため、食べ損なっていた軽食に手を伸ばしつつシャルロッテ達と再会した時に聞こうと思ったことを質問しようとした。が、皿の上にあったはずのものが綺麗さっぱりなくなっており、言葉が途中で途切れる。そして皿のすぐ前にいる、口をもごもごとさせた食欲の塊と目が合った。

 ――道理で静かだった訳だ。そう思ったロルフの耳に、くつくつという音が聞こえ視線を戻す。


「ひーぃ! お腹痛い!」


 リージアが涙を浮かべながらお腹を抱えて爆笑していた。先程の大袈裟な反応は笑いを我慢していたがためだったのか。

 他の皆も申し訳なさそうに、気まずそうに、呆れたように、笑ってはいるが、


「……知ってましたね?」


 空腹もあってか、ロルフはなぜか、リージアに対してだけ僅かに怒りを覚えた。

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