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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
39/193

scene .14 世界図書館へ

 ――世界図書館。

 そこはこの世界のありとあらゆる情報が集まり、書物として記録され、保存される場所。

 そして――――――




*****

****

***




「わぁ、大きな船……!」


 時刻は午前八時を少し過ぎた頃。船着き場へ着いたロルフ達は、世界図書館行きの船乗り場へと向かっていた。


「そうか、モモはまだ船を近くで見ていなかったな」

「はい! 昨日駅から見えていたよりもずっと大きく見えます!」


 船はおろか、海を近くで見たのも初めてのモモは、これでもかという位に目を輝かせている。


「本当にモモって村から出た事ないのね……ってあれ? クロンは?」


 いつも自分のすぐ後ろをついて歩いている兄の姿がないことに気づいたロロは、辺りをきょろきょろと見渡した。

 世界図書館へ向かう人々に加え、サーカス目当てにシトラディオ・パラドへ向かうであろう人々もこのモクポルトへやってきているため、船着き場はいつも以上に人が溢れかえっている。


「クロンたらほんとどんくさいんだから……」

「まだ時間はあるな、俺が探してくる。モモ、二人を頼めるか?」

「ね! ね! あれ! クロンくんじゃない?」


 探しに行くべくロルフがモモに二人の目付け役を頼もうとすると、シャルロッテが来た道の方向を指さしてぴょこぴょこと跳ね始めた。

 指の先を見ると、隣の船の荷積み用階段近くでクロンが柄の悪そうな二人組に絡まれていた。その内、大柄な男の服にはコーヒーでもこぼしたのだろうか、茶色のシミが広がっている。


「少し待っててくれ」


 そう言ってロルフは人込みを掻き分けクロンの居る方向へと向かって行った。

 周りのざわつきのせいで声までは聞こえないが、いつも下がり気味な耳がこれ以上下がらないという程に下がりきっているクロンを見ると、友好的な奴らでないことは確かだろう。

 すると、小柄な方の男がクロンの胸倉を掴み、そのまま突飛ばした。よろけたクロンは思わずその場に尻餅をつく。


「まずいな……」


 その様子を見て、ロルフが歩みを速めた時だった。


「ちょっとあんたねぇ、小さい子いじめて楽しいわけ?」


 何やら見覚えのある女がクロンと男の間に割って入ってきた。


「あぁん? てめぇには関係ないだろ、このガキがぶつかって兄貴にコーヒーぶっかかったんだよ」

「ふぅん、で? 謝ったんだろ? この子は」

「ちっ……いちいちうるせぇな、ちゃんとしたケジメのつけ方教えてやろうってんだ。どけよ」


 そう言いながら男は女に詰め寄った。小柄とはいえ、それなりに鍛えられているためか、女よりも一回りも二回りも大きく見える。そんな男に睨みつけられながらも女は微動だにしない。

 すると、睨み合いを続ける男と女にしびれを切らしたのか、見ているだけだった大柄な男が進み出て、小さく「どけ」と言い小柄な男を横へ移動させた。


「なに? 和解する気にでも――」


 女の言葉は途中で途切れ、勢いよく横向きに倒れ込んだ。


「威勢の割に大したことねぇ女だな。大人しくどいてりゃぁ痛い目見なくて済んだのによ」


 その言葉に、女は赤く腫れた頬に手を当て大男をキッと睨みつける。


「なんだ? やるってのかよ」


 そう言って大男が女の胸倉に手を伸ばした――はずだった。突然大男と小柄な男の身体が引っ付くと、バランスを崩してその場に倒れ込んだ。

 急に自由の利かなくなった自分の身体に、男達は目を丸くしながら、どうにかこの状況を抜け出そうと手足をばたつかせている。

 すると、人込みの中から一人の男が出てきて、眼鏡越しに凍りつきそうな程冷めた視線を二人へ向けた。


「ロ、ロルフさん……!」

「な、んだてめぇ! こいつらの仲間か!」

「……悪いが女子供に手を上げるような奴に俺は容赦をしない」


 男達の問いに答える事もなく、ロルフは二人に見せつけるように軽く握っていた手を強く握る。


「う……ぐぁあ!」

「握りつぶされたくなかったらどこかへ消えるんだな」


 そう言ってロルフが手を開いた。すると、身体に自由が戻ってきたのか、男達は「クソが!」「覚えてやがれ!」などと叫びながらそそくさと人込みへ消えていった。


「悪かったな、怖い思いさせて。人が多くてなかなか近づけなかったんだ」


 二人が見えなくなったことを確認すると、ロルフはスッといつもの顔に戻りクロンの前にしゃがみ込んだ。


「怪我はないか?」

「はい、僕は大丈夫です。でも……」


 そう言いながら立ち上がったクロンは、パンツをはたいていた女に視線を向ける。

 すると視線に気づいたのか、女は二人の方へくるりと身体を回転させると、力こぶをつくるようなポーズをして言った。


「あんなのなんてことないさ! とにかくボクが無事でよかったよ! ね、お兄さん?」

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