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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
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scene .13 物憂げなロロ

「おかえりロロちゃん、おはよう」

「ん、おはよ」


 ロロが部屋に戻ると、モモが起きていた。部屋の中もすっかり明るい。


「私もお手洗いに行ってこようかな」

「いってらっしゃーい」


 トイレ帰りだと思われたらしい。まぁ、色々と聞かれるかも、ということを考えるとロロにとってそちらの方が都合がよかったので、特に訂正せずモモを見送る。


「さて、と」


 午前の便は十時発と聞いた気がするのでまだ時間はあるのだが、布団を取っちらかして眠っているこの白猫も起こしておいた方がよいのだろう。


「シャルロッテー起きて。もう朝よ」

「んみゃ……もうひと口……」


 そう言いながらシャルロッテは寝返りを打った。よほど食べる事が好きなのか、その表情は何とも幸せそうだ。

 いつでもどこでも食べる事ばかり考えているのではと薄々思っていたロロであったが、夢の中でまで食事をしているとなるとある意味尊敬に値するような気もする。――気がしているだけなのだが。


「ねぇ、シャルロッテ。朝ごはん食べはぐるわよ?」


 朝ごはんという言葉にピクッと耳が動く。だが、まるで起きる気配はない。


「もう……まぁいっか。きっとロルフ達が起こしに来るだろうし」


 ロロはそう呟くと、シャルロッテのベッドの隅に腰かけた。

 ――なんだかなぁ……モモが開けたのだろうか、片側のみカーテンがくくられた窓から見える空を眺めながらロロは考える。

 違う種族の交流は今となっては珍しくもないのだが、異なる種族のこの三人組が、ロロにとってはどうも気になる存在だった。だからこそ、本当ならば違う船に乗って別の大陸へ渡る計画を先行したいところ、別にそれほど行きたい訳でもない世界図書館へついて行こうとも思った。

 “時には直感に頼ることも大事よ”昔母親に言われた言葉を思い出す。


「こういう事じゃないのかなぁ…………ひゃぁ!」


 不意に掴まれた尻尾の感覚に、ロロは思わず悲鳴を上げた。

 勢いよく立ち上がったのだが、尻尾掴みの犯人――シャルロッテはロロの尻尾を離そうとはしない。それどころか尻尾の先をぱくりと咥え始めた。


「ちょっと、な、なにすんのよ! 馬鹿シャルロッテ!」

「むぐむぐ……はっ! いい匂い!」

「きゃぁ!」


 シャルロッテはそう言って突然ロロの尻尾から手を離し起き上がった。それと同時に、何とかシャルロッテを引き剥がそうと力を込めて尻尾を引っ張ったロロは、勢いよく隣のベッド側に尻餅をつく。


「いったぁ……」

「あれ、ロロ? そんなところでどうしたの?」

「どうしたの? じゃないわよ!」


 とぼけているシャルロッテにロロが反論しようとした時だった。

 部屋のドアが開き、モモとロルフ、そしてクロンが部屋に入ってきた。


「ロルフさんが朝ごはん買ってきてくれたって……あれ、ロロちゃん? どうしたの?」

「んーもう!」


 ロロはそう言ってさっと立ち上がると、腕を組んでフイッと窓の外を眺め始めた。心配してそう言ったモモであったが、つい先程のシャルロッテと同じ角度で首を傾げ、同じ台詞を言ってしまったのが癪に障ったらしい。


「私……悪い事聞いちゃったかな……」

「きっと違います、ロロは気まぐれなので……気にしないでください」


 落ち込むモモに、すかさずクロンがフォローを入れる。


「ねーねー、何買ってきたの?」


 そんなこととは露知らず、ロロの不機嫌の原因であるシャルロッテはロルフの持つ朝食に興味津々だ。


「シャル、ロロと喧嘩でもしたのか?」

「ううん、してないよ? そんなことよりお腹すいたぁ!」

「わかったから、座って食べなさい」


 渡されたサンドイッチの袋ををその場で開けて食べ始めようとしたシャルロッテを椅子に座らせると、ロルフは残りのサンドイッチを他の人にも配る。そして自分もベッドに腰かけ、今日の予定を共有する。

 と言っても、今日は十時発の世界図書館行きの船に乗船するだけだ。世界図書館に着くのは日付が変わる頃なので、一日船で過ごすより他はない。


「だから、あまり騒いだりするなよ。特にシャルロッテ」

「ふぁーい」


 ロルフは間延びしたシャルロッテの返事に頷く。そして、先程から窓の外をぼんやり眺めたまま食事の手が止まっているロロに視線を向けた。

 サンドイッチを渡したときは不機嫌な空気を醸し出していたロロだったが、今はそういう訳でもなさそうだ。


「ロロ? どうかしたか?」

「……え?」


 ロロにしては珍しく話を聞いていなかったのか、驚いたかのようにその大きな瞳をぱちくりとさせロルフを見つめる。


「具合でも悪いか?」


 そう言いながらロルフが立ちあがると、ロロは慌てたように


「な、何でもないわ! さ、早く行きましょ!」


 と言って残りのサンドイッチを口いっぱいに押し込んだ。

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