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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .02 *** 旅の始まりと時の狭間
35/194

scene .10 シアワセの形

「どうも~」


 クモ族だろうか、腕の他に左右二本ずつ黄色い細い腕のようなものが出ている女が手をぱたつかせて門番へ近づいて行った。

 女の後ろからは、何やら大きな荷車を引いたリス族の若い男がこちらに向かってきている。焦げ茶色の布が掛けられた荷車は、やたら角ばっている箇所が多く、大きさもあってか威圧感があった。


「申請は……あぁ、いつもご苦労様です。お通りください」

「は~いご苦労さ~ん」


 女は何やら紋章が描かれた布のようなものを門番に見せつける。入村申請の有無を確認しようとした門番であったが、たちまちにこやかな笑顔に変わり首を垂れた。


「んなっ! なんなのよあいつ! わたし達の時とまるで態度が違うじゃない!」

「ごめんねお兄さんたち~ちょっとどいててね~」


 大きな声で文句を言うロロの横を、女は何事もないかのように通り過ぎると、ロルフ達に声をかけ荷車の後ろに向かう。


「あれ……お兄さんそのペンダント……」


 ロルフの横を通り過ぎかけた女は、立ち止まってロルフの首から下がっている銀色のロケットペンダントを凝視した。


「なぁ、リージア。早く終わらせちまおうぜ」

「あぁ、いや、悪いね。何でもないや。……はいはーい、ちょっと待ち~」


 リス族の男の声に女はそう言うと、小走りで荷車の後ろへ向かう。

 しばらくして荷車はガラガラと大きな音を立てて動き出し、二人と共にアルテトに入っていった。


「ん~もう! どうするのよ~」


 女達が門の中へ消えていくのをぼうっと見届けたロロは、我に返ったかのように再び頭を抱え始めた。と、その時だった。女がひょっこり門から顔を出し、門番に何やら耳打ちし始めた。そして伝え終えたかと思うと、ロロに向かって一瞬片目をつむり、ひらひらと手を振って再び門の中へと消えていった。


「な、なんなの? 頭に来ちゃうわ! 入れないわたし達を馬鹿にしてるのかしら!」


 ロロが小さな頬をいっぱいに膨らませていると、近づいてきた門番が口を開く。


「お前達の入村を許可する。今回は特別だ。次からはちゃんと申請を通すように」


 門番はそう告げると元の位置へ戻り門の見張りを再開した。ロロはキョトンとした顔になると、ロルフ達の方を見て目を瞬かせた。

 そして全員の顔を見比べると、うんうん、というように首を縦に振りながら


「……やったわ! きっと日頃の行いがいいお陰ね! うん、きっとそう!」


 そう言い放った。




*****

****

***




「それで家に連れてきた、と」


 クロンがそのまま大人になったかのような男性――クロンとロロの父親は、二人の話を聞き終えると小さくため息をついた。


「ごめんなさい、お父さん……僕……」

「いいのよクロン、謝らなくて! わたし達がしてること自体は、全然悪い事なんかじゃないんだから!」


 ロロはそう言い放つと、フイッと父親と反対へ顔を向け、口をとがらせた。

 その様子に再び小さなため息をつくと、父親はロルフ達の方へ向き直り口を開く。


「……皆さん無事にここへ来ることができてよかったです。ですがロルフさん、ロロの勝手で怪我をさせてしまって大変申し訳ない」

「あ、いえ。これは自分の行動によるものですから気になさらないでください」


 どうにかアルテトに入ることのできた一行は、クロンとロロの家へ来ていた。

 息子達以外に大人が、しかも他種族の者が三人もいることに、初めは驚いた顔をしていた父親であったが、ロロの話を聞くや否やすぐに回復薬を準備してくれた。


「それで、いかがでしたか、アルテトは。興味がおありだったようで」

「思っていたよりもずっと素敵な村ですね。閉鎖的と聞いていたのでもう少し昔ながらの町並みを想像していたのですが、全くそんなことはなかったです」


 ロルフの言葉に、二人の父親は優しそうな顔をくしゃりと歪ませ笑う。

 アルテトは外観の通り、緑でいっぱいの村であった。村の上部は枝や木の葉で埋め尽くされているが、その隙間から入る自然光のお陰で村の中はとても明るい。そして村の外側だけではなく、家や店、どれも木をくり抜くようにしてできているようで、まさに木でできた村という印象だ。クロンとロロの家も例外ではなく、更に家具などは基本的に木で拵えられており、温かみを感じるデザインとなっていた。どの家もこんな雰囲気なのだろうか。

 村そのものはかなり昔から存在し、あまり外交はないと言われているが、古臭さは全く感じない。むしろコンメル・フェルシュタットよりも文明的に進んでいる気すらする。


「私これもらおー!」

「あ! ちょっと待ちなさいよっ! わたしの一番好きなやつ!」

「好きなの取って良いって言ったもーん!」

「こんなに種類がある中からそれを選ぶとは思わなかったの!」


 部屋の中央にある食卓用テーブルで話をしていたロルフと父親のすぐ後ろのキッチンから、シャルロッテとロロの声が聞こえた。

 どうやら一つしかないお菓子の取り合いを始めた様だ。そんな二人の様子に、モモとクロンが苦笑しながら顔を見合わせている。


「こら、シャルロッテ、お前の方が年上なんだから我慢しろ」

「待ちなさいロロ。また買っておくから、今日は我慢しなさい」


 家の中を駆け始めた二人を、ロルフと父親はそれぞれ捕まえるとそう言い聞かせる。

 何気なく立ち上がったロルフの様子に、モモは両手を胸の前で合わせ首をかしげながら問いかけた。


「あれ、ロルフさん。もう足は大丈夫なんですか?」

「そう言えば……」


 傷の深さから考えるともう少しかかると想定していたが、思っていたよりも早く回復薬が効いたらしい。傷があった箇所を触ってみると、少しの違和感は残っているものの、すっかり治っていた。

 できれば今日中にモクポルトへ戻り、明日朝の便で出発したかったので助かるというものだ。


「若さとは良いですね。実にうらやましい限りです」

「わーい! ロルフ治ったー!」


 シャルロッテに腕をぶんぶんと横に振り回されるロルフを見ながら、ロロはほっと胸をなでおろす。

 ――これでとりあえず世界図書館には連れて行ってもらえるはずだわ。


「ところでロロ」

「ふぇ?」


 ロルフの突然の呼びかけに、モモのような声が出てしまったロロであったが、気を取り直して聞き返す。


「……な、なによ」

「やっぱりロロ達はアルテトにいた方がいい。知りたいことは調べてきてやるから」

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