scene .6 外の世界
ロロとクロンの案内で、二人の住む村へ行くことになったロルフ達は、会計を済ませモクポルトから出るための門へ向かっていた。
どうやら二人はモクポルトへ歩いてやってきたらしい。――とんだ度胸だな……ロルフは関心と呆れの入り混じった感想を抱きながら、ロロ達の会話に耳を傾ける。
「で、村の外にはモンスターがいるわけ!」
「へぇ、モンスターなんて、本当にいるのね」
「それってかわいい? 連れて帰れるのかな」
「ん~もう! だから、ついて来るのはいいけど、足、引っ張んないでよね」
そう、それが先ほどロルフがロロ達に“とんだ度胸”だと思った理由の一つである。
この世界には、所謂モンスターと呼ばれる生物が存在する。存在する、というより、古く昔に動物はおらず、モンスターのみが存在していたという方が正しいであろう。モンスターは、好戦的であったり、悪戯などをする種が多く、獣人達には古くから忌み嫌われる存在であった。そのため、基本的に人の生活区や、管理人の居る森にはモンスターが近寄らない様結界が張られるようになったのだ。それ故に、今の時代、ごく一般的な生活を送る分にはモンスターを目にすることなどない。その上、世界が統一されてからと言うもの、世界のあらゆる地域で土地開発が行われ、多くのモンスターが絶滅の危機に瀕しているとも聞く。
一方動物は、大昔に起きた地殻変動が原因で紛れ込むようになったと言われている。それまで目撃されたことのなかったその生き物たちは、モンスターのように獣人を襲うことが少なく、動き回るだけである種が多かったため、動物と名付けられた。そして、モンスターとの決定的な違いと言えば、魔力を全く持たないという事だ。
「マジか、ついてねぇな……」
「まぁまぁ、明日出直そうぜ」
「お前が寝坊したからだろうが! おごりで飯だ、飯!」
少し前を歩いていた二人組が、何やら言いながら町の方へ戻っていった。その様子を横目で見つつ、ロルフが馬車のチケット売り場を覗き込もうとすると、
「ちょっと! 馬車になんか乗らないわよ!」
ロロが少し怒った様子で、ロルフの袖を強く引っ張った。
「なんでだ? 馬車の方が早いし安全だろ?」
「そんなの……お金がもったいないわ! すぐ近くだもの!」
「いやぁ、よかったねぇお嬢ちゃん!」
なぜか馬車に乗りたくないロロがロルフに文句を言っていると、チケット売り場から陽気そうなおじさんが顔を出してそう言った。そして門の方へ視線を送ると、
「さっき丁度最後の馬車がでちまってねぇ」
そう言って髪の無い頭をポリポリと掻く。
それを聞いたロロは嬉しそうに両手を腰に当てドヤ顔をすると、
「ほら、カミサマも歩けって言ってるのよ! さ、歩いて行きましょ!」
さっさと門の方へ歩いて行ってしまった。
「はぁ……仕方ないか」
「悪いねぇ、お客さん!」
ロルフはしぶしぶ諦めると、ロロの後ろ姿を追うように歩き出した。
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門番に見送られ外に出たロルフ達は、ロロの案内で広い草原を歩いていた。
馬車に乗る気満々になっていたシャルロッテがしばらく文句を言っていたが、モモがうまくあやしたらしい。すっかり本当の姉妹のようだ。
「ところで、アルテトまでは歩いてどれくらいなんだ?」
「えっ? どうして村の名前……」
ロルフが聞くと、ロロは目を見開いてその場に立ち尽くしてしまった。
リス族の村であるアルテトが、モクポルトの近くにあることは本で読んで知っていたので村名を出しただけなのだが、こんなにも驚かれるとは思わなかった。何かまずいことでもあるのだろうか。
「う、ううん。なんでもない」
ロルフが振り返ると、ロロはふるふると首を揺らし、再び歩き出した。
まぁ、子供が歩いてたどり着くことができる程度の距離なのだから、心配する程のことではないであろう。前科もあるので、ロロの反応は少し不審な気もするが、たまに木や茂みがある程度のこの場所では、逃げるなどということも出来まい。
それよりも心配なのはモモだ。さっきから何かを見つけ急に走り出すシャルロッテはいつも通りとして、呼ばれてあちこち追いかけるモモはかなり疲弊しているように見える。シャルロッテもモモも能力が使えるとはいえ、使いこなせている訳ではない上に、実際にモンスターと対峙したことなどないため、とっさの判断で行動を起こせるとは思えない。疲弊していたら尚更だ。
「シャル! あんまり離れると危険だぞ!」
「はぁ~い!」
「あぁっ、待ってシャルちゃん……!」
「はぁ……ったく。モンスターが出るかもしれないっていうのに能天気だな……」
シャルロッテはロルフに注意されると、素直に走って戻ってきた。その後ろをモモはやっとのことでついてくると、膝に手をあて、はぁはぁと息を整える。その手には小さな植物の様なものが握られていた。何か気になるものでも見つけたのだろうか。
「シャルちゃん……早い……」
「えへへ~」
「褒められてないだろ……」
クロンは、そんな三人の様子を窺うようにしてロロに近づくと、なにやら小声で話しかけた。
「ねぇ、ロロ。そっちは……」
「何よ、向かってるでしょ? アルテトに」
「う、うん……」
ロロに睨まれたクロンは首をすくめて再び黙々と歩き出す。すると、
「ひ、ひゃあ!」
どこからか悲鳴が上がった。