scene .5 ロロの目的
「何、あの子! あんなにおっきな声出しちゃって。ばっかじゃないの、子供みたい!」
ロロはテーブルに落としてしまった赤い果実を紙ナプキンで掴み取ると、キッと声の主を遠目でにらみつける。
何事かとざわつく店内の客たちの声に、ロルフはこめかみに手を当て目を伏せた。こればかりはロロの言う通りである。声の主は他でもない、シャルロッテだった。
シャルロッテは、他の客の視線などものともせずに店に入ってくると、ロルフの方へずんずんと歩いてくる。その後ろを縮こまりながら歩くモモの姿は何とも不憫だ。そして、シャルロッテはロルフの前にたどり着くと、
「ずるいずるいずるいー! ロルフのばかー!」
そう言い放った。
「え、何? おじさんの知り合い?」
ロロはそう言いながらロルフに白い目を向ける。クロンはと言うと、引きつった顔で現れた二人を見つめていた。
シャルロッテの後ろでは、ロロの言葉を聞いたモモが、
「おじさん? ロルフさんって兄弟がいらっしゃったんですね!」
と言いながら、まぁ! というように手を胸の前で合わせ「私は一人っ子なので兄弟とても憧れです~」と目を輝かせたり、「あ、でもシャルちゃんも妹か! あれ? でも二人はリス族?」と頭の上にハテナマークを浮かべたりしている。こちらはこちらで何やら暴走を始めたようだ。
「おい、待った待った。とりあえずシャル、ストップ」
ロルフは、自分の肩を掴んで大きくゆすり始めたシャルロッテの手を離しながら言った。
「好きなもの頼んでいいから、な?」
「わーい! ありがとうロルフー! すみませーん!」
ロルフの言葉に、シャルロッテはコロっと態度を変えて席につく。今までの駄々っ子具合が嘘のようだ。
そしてロルフは、ロロとクロンを不思議そうに見比べているモモをシャルロッテの隣の椅子に座らせ、二人と出会った経緯を小さな声で説明した。
「二人を親御さんの元へ送り届けようと思うんだが……」
「なかなか口を割ってくれない、と」
モモは顎に手をあてて「う~ん」と小さく唸る。小さな子供の扱いに慣れていそうなモモでも良案は浮かばないようだ。
すると、パフェを食べ終わり暇になったのか、ロロが二人に突っかかってきた。
「二人でこそこそしちゃて嫌な感じだわ! わたし達の口を割らせようったってそうはいかないんだから!」
「いや、二人が親戚ではないって話をだな……」
「ふぅん、それで? じゃぁもう行っていいのかしら! わたし達は忙しいの!」
相変わらず威勢のよいロロの言葉に、少したじろぎながらもロルフは質問を投げかけた。
「ロロは世界図書館に行きたかったんだよな。その後はどうするつもりだったんだ?」
「どうって、別のたいり……」
騒ぎのお陰か、パフェのお陰か、両親の話題ではないことに気が緩んだのか、「別の大陸」という言葉を途中まで口にしてしまい、ロロはハッとして口を手で押さえた。
飛び出してきた単語が、考えもしなかったものであったことに驚いたが、ロルフはそのまま畳み掛けることにした。これは両親の居場所を聞き出すチャンスかもしれない。
「世界図書館へ行ったって、ここに戻ってくる船しか出ていないんだぞ?」
「そ、そんなの知ってるもの。わたしは別に、調べもの……そう、わたしは調べたいことがあるから世界図書館に行きたかったのよ!」
「なるほど……そうか、わかった。それなら、俺が親御さんに許可をもらった上で連れていく。それならいいな?」
「う……」
「クロンもそれでいいか?」
「あ、はい! そうします。ね、ロロ?」
虚勢を張っていても子供は子供らしい。逃げ場がないとわかると、ロロは小さな頬をいっぱいに膨らませてむくれながらも、
「わかった……」
と小さな声で頷いた。