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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .01 *** うさぎと薬草と蛇
22/194

scene .12 襲撃

 のどかな景色が一転、ココット・アルクスは逃げ惑う人々の声と獣の鳴き声が混ざり合い、混沌としていた。道には人々が落としていったであろう物が無数に散らばっている。

 そして、ゴルトが言っていた通り、村を襲っているのはフクロモモンガで間違いなさそうだった。しかも、厄介なことに、どの個体も理性を失っており、狂暴化している。――が、今は考えている暇はなさそうだ。


「シャル! フリージング!」

「はぁい!」

「外は危険だ! 早く家の中へ!」

「皆、地下室に逃げてください!」


 とにかく今は村人の安全を確保するべきだろう。ロルフ達は村人に声をかけつつ、村中を奔走した。

 その合間、誰彼構わず襲い掛かっているフクロモモンガに、ロルフがリストレイントをかけて空中に停滞させ、シャルロッテがフリージングで凍結させていく。

 それにしても、フクロモモンガの数が想像していたよりもはるかに多い。数百……いや、数千はくだらないかもしれない。


「くそ、埒が明かない! 数が多すぎる!」


 ――俺はともかく、シャルの気力が持つだろうか……どちらにしても、全てのフクロモモンガを凍結させることはできないだろう。

 リストレイントでも対象を拘束することは可能だが、拘束時は気を離せないため、数が多すぎる今は現実的ではない。

 他の技で致命傷などを与えることもできるのだが、相手が動物で、且つ何者かに操られているであろうことを考えると、傷つけたくないというのが本心だ。それに、村の損壊にもつながる可能性がある。助けに来ておいて、それは避けたい。

 ゴルトはというと、ココット・アルクスにつくや否や、長老の無事を確かめたいと言って、ロルフ達とは違う方向へ行ってしまったため、どうしているのかわからない。ただ、考え方はロルフと同様なはずなので、フクロモモンガを傷つけるような技は使わないであろう。ちなみに、ゴルトの能力は原子操りだ。傷つけない技と言えば、対象を酸化し、錆びさせることなどだろうか。その技ならば後々元に戻すことができる。

 ――何かいい方法は……そもそも原因は何なんだ? それさえわかれば……

 ロルフはフクロモモンガの大群を観察する。一見不規則に飛び回っているように見える……が、とある位置を飛ぶフクロモモンガのみ一方向に進んでいるようだ。


「あそこか……! シャル! モモ! 残りの人たちの避難誘導を頼む!」

「はぁい!」

「わかりました!」


 ロルフは二人に他の村人の避難を託し、先ほど見つけたフクロモモンガが排出されているであろう場所へ向かった。




*****

****

***




「あらぁ? 見つかっちゃったぁ?」


 ロルフが茂みの中を隠れるように進むと、空間転送陣に似た魔法陣から、フクロモモンガの大群をココット・アルクスに向かって放っている女がいた。


「そんなところでこそこそしてないで、出てきなさいよ」

「チッ……」


 相手に気づかれぬよう、物音などを立てず近づいたつもりだったが、ばれてしまったようだ。

 女はトラ族の様で、髪色は赤みがかった紫、キツめだが美人の分類に入るであろう。どこかで見たことのあるような顔だ。


「そこで何してる?」

「いやだわぁ、怖い顔しちゃって。見ればわかるでしょう? 暇つぶしよ、ひ・ま・つ・ぶ・し」


 そう言いながら女は自身の爪を見つめると、「あ、やだ、ささくれちゃってる」と呟いた。

 ――俺なんか眼中にないって感じだな……ロルフは、暇つぶしと言いながら暇を持て余していそうな女を睨みつける。目的はともかく、暇つぶしなんかで何も悪くない人々を困らせるような人間を放っておくわけにはいかない。

 ロルフは女を捉えるため、リストレイントをかけるべく掌を相手に向けようとした。と、その刹那。


「……っ!」


 ピシッという乾いた音と共に、ロルフの手に痛みが走った。危険を感じて手を引いたが、手の平が少し焼き付いている。


「あら、汚い手で女性に触るもんじゃぁないわよ。あんたが色持ちね? ふぅん……」


 女は何かを考えるかのように指を顎に当て、ロルフを見つめた。

 ――くそ、こいつも能力使いか……想定外の事態にロルフが対策を考えようとした時だった。


「ロルフー、皆お家の中に避難したよ!」

「止まれ!」


 避難誘導を終えたシャルロッテとモモが、ロルフを見つけ駆け寄ってきた。ロルフはとっさに手の平を二人に向け、制止する。


「ん~そう。皆お家の中に隠れちゃったのねぇ。それじゃぁつまらないし、そろそろお暇しようかしら~」


 やっと終わったと言わんばかりに大きく伸びをすると、女は指をパチンと鳴らした。すると、今まであった魔法陣が、組み変わるかのように蠢きだす。そして、その姿が他の魔法陣へと変化すると、今までココット・アルクスに混乱をもたらしていたフクロモモンガ達が、勢いよくこちらへ飛んできた。

 突然の出来事にロルフ達は思わず身構えるが、三人のことなどまるで見えていないかの様に、次々と魔法陣に吸い込まれていく。


「ま、とりあえず今日はお稽古だから。本番を楽しみにし……」

「こわいよぉ! おかさぁん! どこぉ!」


 フクロモモンガ達が立てる騒音の中、少女の叫び声がした。声がした方向を見ると、小さな女の子が家の影で泣きじゃくっている。

 女は少女の姿を見つけると、先程までの余裕さはどこへ行ったのか、目を見開きイラついた様子で、


「私の台詞を遮るなんて百万年早いのよ! このクソガキがぁ!」


 と吐き捨て、指を鳴らした。すると、再び魔法陣からフクロモモンガが姿を現し、少女の方へと威嚇しながら飛んでいく。

 ロルフはとっさに身を翻し、奴らの動きを止めようと手を少女の方へ向けるが、突然の出来事であったため遅れをとってしまった。

 ――くそ、間に合うか……⁉ そう思った時、少女の近くにいたモモが、少女の元に駆け寄り、


「だめぇ‼」


 そう叫んで、少女を抱きしめた。

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