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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
203/204

scene .24 油断と緊張

「えーっまだ回収がっ」

「ランテ、私も拾ったので今は行きましょう」


 不満そうに口を尖らせるランテに、エルラが十数枚の紙幣を見せ宥める。そんな二人を見てロロも近くの紙幣を一枚拾うと、わたしも一枚もらっとこ。そう言って折りたたんでポケットに仕舞った。

 先程までの緊張感はどこへ行ったのか、そう思えるほど和やかな空気が漂っている。


「ね、ランテのワープで帰れたりしないの?」


 エルラにお礼を言いながら抱き着いていたランテに向かって、ロロがそんな言葉を口にした。

 確かに、そう思ったロルフはロロと同じようにランテの方に顔を向ける。行きは徒歩でこの場所までやって来たため失念していた。その理由が行ったことのない場所にはワープできない、というものだったため、帰りは可能なはずである。ジャデイの宿屋までワープできるのならば最も安全で楽ではないか。そんな小さな期待は、返事の前の「あー……」という間延びした声に掻き消された。


「さっきので最後だったりして」


 ランテはそう言って、片手を頭の後ろに当て舌を出す。

 何人もランダムワープで世界中に送り届けた後という話を聞いた後である。気力を使い果たしている、その予想もつかなかった訳ではない。


「じゃぁ、まぁ、歩いて帰るか」


 ロルフはモモをしっかりと抱き直すと、ロロたちがやって来た方の道に足を踏み入れた。元々そのつもりではあったが、一瞬だけでも簡単に帰れるかもしれないという期待を抱いてしまったが故に、なんだかもやっとした疲れが足にまとわりついている気がする。

 はーいと珍しくどこか気だるそうな返事をしたロロも同じ気持ちなのだろう。さっきの、と言うのが札束を指している所が何とも絶妙に気分を落としてくる。


「あ!」


 長い階段をいくつか登ったところでロロが突然立ち止まった。


「カギ、置いてきちゃったんだった……」


 なぜ、また、どのようにしてロロがここに来たのかは宿に戻ってから聴取するつもりで何も聞いていなかったが、何か問題が発生したらしい。

 ロロは少しばつが悪そうな表情でロルフをチラチラ見た後、「この道、あの変な教会に繋がってるんだけど」ぼそりとそう口にすると、入った後、拾ったカギを扉の前に置いてきちゃったからもしかすると出られないかもしれない。そう続けた。

 ロルフが“拾った”そんな単語に疑問を覚えると同時に、後ろを歩いていたランテが、


「まぁまぁまぁ!」


 そう言いながら軽やかに階段を登る。そしてロロの肩を叩くと、


「そしたらうちらが入ってきたとこから出よっか。森の中戻んないとだけど、大した魔物はいなかったしどうにかなるっしょ!」


 そう明るく言い放った。その意見に反対する理由もなく、同意したロルフたちが階段を降りようとした時だった。

 どう見ても人ではない四つ這いの影が複数、最下段の横道から現れた。その影はまだロルフたちの存在に気付いてはいないのか、辺りに積まれた荷物などを物色し始める。

 そんな突然の訪問者に、全員その場で足を止めた。緩み切っていた緊張の糸が張り詰めるのを感じる。


「あ、あちゃぁ……」


 言葉自体はいつも通りの語感ながらも、ランテの台詞からは普段のおどけた空気感は感じられない。

 駆け降りようとした体制のまま静かにゆっくりと振り返り、ランテは、どうする? そう言いたげな表情をロルフに向けた。

 ロロとランテは気力をほぼ使い果たしており、ロルフはモモを抱えているため思うようには動けない。エルラはその立場からなのか、命をとるような攻撃をしたところをあまり見たことがないためどれほど戦力として考えてよいのかわからない。

 そして敵はと言うと、今の所見えているのは三体。少し距離があり鮮明には見えないが、特徴的には恐らくヴェロベスティだろう。奴らは群れで狩りをすると聞く。だが三体という数は群れと言うには少ないため、はぐれでもしたのか、はたまた一部しか見えていないのか……

 とにかく、速さでは確実に敵わないため、戦うことができるか怪しい今、見つからないようにするのが最善策である。そう考えたロルフは少し階段を上がった地点にある踊り場にも横道がある事を確認する。そして、そこに向かおう。そう伝えるために口を開いた時だった。


――カランカラン。


 静まり返った場に軽く響いたその音に、全員が表情を引きつらせる。

 モモの体が傾いてしまっていたせいで筒が腕から滑り落ちたらしい。幸い次の段に転がり落ちる前にすぐ近くにいたロロが拾い上げはしたが……ヴェロベスティたちの興味を引くのには充分すぎた様だ。

 獲物を見つけたと言わんばかりに目を光らせたヴェロベスティの視線は真っ直ぐにこちらに向いていた。だが、なぜか少し後ずさるように身を下げていく。


「な、にあれ……」


 この状況でも声を出せるのはランテの良い所と言ってよいのだろうか。

 ヴェロベスティたちが空けた隙間に悠然と現れたのは、ヴェロベスティとは比較にならない程大きなモンスター――レイロカだった。大型の肉食モンスターで、頭部にはくるりと巻いた立派な巻き角と、その内側に少し小さめで真っ直ぐな直立角を持つ。角の生え際から首元にかけては岩でできた鱗のような皮膚で覆われており、非常に頑丈で硬い。また、口元は肉食獣らしく鋭い牙を備えている。そして、この個体についてそれ以上の懸念材料は――

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