scene .23 残された謎と惨事
「はぁ……」
ヴィオレッタが落とした紙幣を拾い、同じものが沢山散らばっていることに今更気付いたランテが何やら騒いでいるのを聞き流しつつ、ロルフはその場で脱力する。想定外の展開が連続して起きたせいか、緊張から解放されたのがあまりにも急だったせいか、やけに体が重たい。
一方、自分にもたれかかっているモモは、穏やかな表情で規則的に呼吸をしていた。見て取れる箇所には怪我などもなく、先程ヴィオレッタが確認した限り精神的にも大きな傷などはない。誘拐されてから酷い仕打ちを受けていないかを心配していたが、思っていたより被害は小さく済んだのかもしれない。それにしても。
ロルフはモモが大事そうに胸に抱える筒に視線を向けた。――まさか色持ちの能力を実体化させ使用する道具だったとは。身を守る術、とは聞いていたが、ここまでの威力を出せるものだとは思ってもいなかった。それに。
ロルフがチラッとランテの後ろの方へ視線を向けると、エルラが焦ったように視線を泳がせた。見られている気はしていたが、ここまであからさまな反応をされるとさすがにさすがに少し傷つく……が、今はその話は置いておくとしよう。この大陸に来る際に見覚えがあると思ったエルラの魂鎌の持ち手の柄が、モモの筒の柄、つまり長老から譲り受けた物と同じだったのである。
「ねぇってば!」
突然目の前に現れた顔にロルフが目を丸くすると、声の主――ロロは腰に手を当てたまま呆れたように首を振った。
そう言えばなぜロロがここにいるのかも解明しなくてはいけない謎である。だが今は思考を巡らせることよりも先に帰路につくのが先決だろう。そう考えたロルフは現状を把握するべく一度辺りを見渡した。
片側の壁には扉二つ分程の穴が開き、その向かいの壁はクドゥがぶつかったため大きなへこみが出来ている。その間の壁にかけられていた装飾品や棚に置かれていた物はクドゥと共に吹き飛ばされたため全てクドゥの周辺に散らばっており、瓦礫と混じって至る所に紙幣や果物も散乱していた。これを今から片付ける、そんなことを考えたくもない惨状だ。
そしてそんな中紙幣を拾い集めているランテと、それを微笑ましく見ながらこちらにチラチラと視線を送ってくるエルラ、自分に寄りかかり静かに寝息を立てるモモ……
「あれ? そう言えば」
ロルフが状況を確認するのと一緒に辺りを見回していたロロは、何かに気付いたように口を開いた。
そして瓦礫を踏まないように大きく開いた穴の方へ近づくと、外側を覗き込む。
「ね、そう言えばここにいた人たちは?」
その様子をまじまじと見ていたランテは不思議そうに目を瞬かせた後、思い出したように拳の小指側をポンッと反対の手の平にくっつけた。手に持っていた紙幣がくしゃりと音を立てて握られたが、使えればよいのだろう。そんなことはお構いなしといった様子で、
「今頃世界のどこかに旅行中だね!」
そう言ってケラケラと笑った。そして、いやぁ人数が多いから仕方なかったんだよねぇ! と付け足す。
要するに、ロロやランテたちの侵入に気付きやってきた者たちをランダムワープで世界のどこかに飛ばした。そう言っているのだろう。ということは。
「そっちの道には障害がないってことか」
ロルフはそう一人呟いた。
言われてみれば、あれだけ大きな音がした上壁が崩れているにも関わらず誰も駆け付けてこないのもおかしな話だ。そもそも誰もいなかった、と言われれば納得できる。一方ロルフたちが入ってきた扉側は、正式に呼ばれるまでは入室するな、などと指示を受け待機しているだけの可能性もあるため安全とは言い切れない。
ロルフはモモを支えながら立ち上がると、そのまま抱き上げで半壊しかけているソファに横たわらせた。そしてランテの名を呼びポーチを差し出した。
「この山になってる束をこの中にしまってもらえるか?」
「おっけー」
軽い調子でそう口にしながら瓦礫の間を渡ってくるランテに、束以外は好きなだけ持って帰っていい、そう付け加える。すると、目を輝かせて「ロルっち太っ腹ぁ!」そう言いながらロルフからポーチを受け取った。この金はヴィオレッタのものである上、彼女が適当でよいと言ったためにそう伝えたのだが……まぁ、別に気にもしないだろう。
ポーチの中に未だ山をなしている紙幣の束を入れ始め――と言っても、ワープを使えるランテにとってはほぼ一瞬で済む仕事であるが、いつもに増してご機嫌に作業を開始するランテの様子を見つつ、ロルフはクドゥに近づくと傍に屈んだ。
殺されかけたとはいえ、このまま見過ごして死なれても寝覚めが悪い。
「メディス」
騒動のお陰で全く消費することなく済んだ魔力を使いクドゥを回復する。布のお陰でどれくらい回復したのかよくわからないが、全回復はしなくとも、死なずには済むであろう程度魔力を消費したところでロルフは立ちあがった。
そしてモモを横抱きにすると三人に声をかける。
「よし、そろそろ戻ろう」




