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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
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scene .20 夢にまで見た

「誰も……いないわね」


 男たちの姿は既になく、薄暗い廊下が長々と続いていた。と言っても、地下に繋がる道なのか、階段が何層にも設置されており実際に長さを確認することは出来ない。たまに奥から響いてくる声はあの男たちのものだろうか。

 ロロは閉めた扉が、内側から鍵を使わずに解錠できることを確認すると、先程拝借した鍵を床に静かに置いた。これで見つかりさえしなければここに入ったことはバレないだろう。


「シピニア、シピニア」


 その名前を呟くように口にすると、ロロは素早く階段を降りていく。


「――っ!」


 と、踊り場に繋がる通路からふらっと人影が現れたように見えたロロは、近くの大きな箱に身を隠した。

 入口すぐには無かったが、徐々に幅が広くなるにつれ階段にも踊り場にも、数多くの箱や檻などが置かれるようになっていた。時々布がかけられた檻の中から、何やら泣き声か鳴き声かわからない音が聞こえる気がする――が、子どもながらに何が入っているのかを確かめるべきではないと感じたロロは、布に触れることはやめておいた。とりあえず、今は助かるので良かったと思っておこう。


「あの人……」


 現れたと思った人物は、何をするでもなく、どこへ向かうでもなくふらふらとその場に立ち尽くしているようだった。そう言えば、その虚ろな目はどこかで見たような気がする。少しだけ観察した後、ロロは意を決してその人物の視界に入るように影から身体を出してみた。

 ――思ったとおりだわ。

 その人物は堂々と横を通り過ぎるロロの姿を見るどころか、存在すら確認せず無反応そのものだった。これはきっと、エルラを救出する際に洞窟で見た監視員たちと同じような状態と言えるだろう。ということは。


「堂々と、だったわね」


 ロロはランテが言っていた言葉を思い出すと、ふらふらと現れる人影はあまり気にせずぐんぐんと中に進んでいった。時折普通の、自我のある人もいることがあり、その時はひやりとしながらも能力を使ってどうにか切り抜ける。本当は、ロルフたちの邪魔になるかもしれないという紐づけが出来ていない訳ではない。帰るべき、その思いが頭の隅にチラついてもいる。だが、探し求めたものがすぐ近くにある可能性を考えると、居ても立っても居られなかったのだ。

 そうこう考えながら進んでいるうちに、ロロは階段のない階へと辿り着いていた。

 男たちがどこへ行ったのかはもう分からない。しかし、こんな所まで来ておいて手ぶらで戻るなどという選択肢はロロの中にはなかった。

 だが、現実は思っているよりも厳しいらしい。虚ろでは無い目をした者が増え、バレないように進むのが難しくなってしまっていた。戻る時のためにも能力は何回か使える気力を残しておいた方が良いだろうが、来た時と同じだけ使えるか既にわからない。

 戻るも進むもリスクが大きい、そんな状況に置かれたロロがどうするべきか悩み始めた時だった。


「シピニア様! おやめ下さい……!」


 何度も繰り替えして覚えた名前が聞こえ、ロロはその声がした方向を覗き見る。

 後ろ姿しか見えないため定かではないが、一人の女性を一人の男性が追いかけ何やら説得している様子だった。だが、女は歩を止めるでも、話を聞くでもなく、ただ手をひらひらと振って男性を追い払おうとしている。

 そして一つの扉の前で止まると、男性の静止を振り切り勢いよく扉の中に入っていった。


「お、おかあさん……!」


 部屋に入る瞬間、一瞬見えた横顔をロロは見逃さなかった。

 その部屋の前では、先程女性を追いかけていた男性と待機していたのであろう人たちがそわそわと小声で話をしている。だが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。幾年と言うには短い時ではあるが、ロロにとっては長い長い時間、思い焦がれていた人物がすぐそこにいるのだ。

 今まで何をしていたのか、なぜ手紙を送ってくれなくなってしまったのか、なぜアルテトに戻ってこないのか、そしてなぜ帝国ではなくこんなところに居て、何をしているのか。聞きたいことは山ほどある。

 ――それにお母さんは……いや、今は確かめることが先決だ。ロロはしばらく扉の前で右往左往する人たちの動きを観察し、突入するタイミングを計らう。


「今だわ!」


 そして、人がまばらになったところでロロはその隙間を縫うようにして扉の前まで駆け抜けた。


「何だ?」

「なんで子どもがこんなところに!」

「見つかったらまずい!」

「捕まえろ!」


 その姿に気付いた者たちが、ロロを捕まえようと躍起になっている。

 クロンの能力では“まだ起きていない事”を見ることができるため違和感を覚えられにくいが、ロロの能力では“一度起きたことを巻き戻す”ため、高確率で違和感を覚えられてしまう。それに今のロロの実力では数秒戻すのが関の山だった。

 ――あともうちょっとでお母さんに会えるのに! ロロは捕まりそうになる度にその人物の時間を戻しながら少しずつ扉に近づくものの、ついに数名に取り押さえられてしまった。体をよじって抜け出そうとするが、大人の力に敵うはずもなくすぐそこにまで見えている扉のシルエットがぐにゃりと歪む。

 何者なんだ、どこから入り込んだんだ、何しに来たのか、などと色々聞かれているような気がするが、ロロには全く届かなかった。こんな事ならお兄ちゃんを連れてくれば、そう思いかけたのも束の間。突然身体の拘束が解かれロロは勢いよく前に転がった。

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