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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
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scene .19 自由とその代償

「夕日を見に行かれるんですか?」


 自分の言葉にきょとんとしたロロを見てふっとジャデイは顔を綻ばせると、ロロの返事を待たずそのまま続ける。


「この街の夕焼け空は綺麗ですからね。是非堪能して来てください」


 子どもが好きなのか、にこにこと優しい顔を崩さないまま奥の部屋の前まで進み扉に手を掛けた。そして、少しだけ振り向くと「あぁ、暗くなる前にはお戻りくださいね」とそう付け加えて、特に言及する訳でもなく奥の部屋へと入っていった。

 遠くへ行くな、などと言わないあたり、ロロが賢い子どもであることを恐らくわかっているのだろう。

 だが、ジャデイが思っているよりもロロは子どもだった。いや、他の同年代の子どもより賢くませていることに違いはないが、今回だけは知りたいという衝動を止められなかった。この問題はそれだけロロにとって重大なものなのだ。


「ふぅ……」


 ロロはジャデイが消えていった扉がしっかりと閉まっていることを目で確認すると、今度こそ玄関を開いた。

 ジャデイの言っていた通り綺麗な夕日を横目で見つつ、昼間より大分過ごしやすい気温になった街中を小走りで進んでいく。


「えっと、たしか……」


 一度通っただけの道だが、観光地であることもあって看板も多く目的の場所には迷わずに辿り着けた。どちらかと言うと問題は帰りである。だが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 ロロは辿り着いた目的地――教会の敷地に立ち入ると、その扉をそっと開いた。


「だれも……いないのかしら」


 つい先日来た時とは大違いの雰囲気に、ロロは小首をかしげる。

 公開時間が過ぎてしまったのか、敷地内にも教会内にも人は全くおらず、しんと静まり返っていた。

 ――ちょっと確かめたいだけだし、すぐに確認して出ればいいわよね。ロロはそう決めると、一人頷きゆっくりと扉の中に入り込んだ。

 誰もいない教会は、思っていたよりも断然広かった。もちろん中央に建てられた像は異様に大きく不相応ではあるものの、それさえなければとても美しく厳かな雰囲気の普通の教会である。


「えっと」


 ロロはその、この場に不相応である像に近づく。

 明りはついているため遠くからでもよく見えるのだが、どんな人が、何のために建てた像なのか知りたかったのだ。


「やっぱり……似てるわよね」


 その顔の造形をまじまじと見ながら、ロロはそう呟く。そしてその足元に刻まれている文字を読み取った。


「しぴにあさま……ん? ――っ!」


 ロロがその文字を口にした時だった。教会の入り口が開き二人組の男が入ってきた。


「ん、なんだ? 今何か動かなかったか?」


 気配に気づいてすぐに近くの椅子の影に隠れたロロだったが、一人に姿を見られてしまったらしい。


「扉だって閉まってたし、きっと気のせいだろ。そんな事より機嫌を損ねられる前にさっさといかねぇと」

「……そうだな」


 が、呑気なもう一人のお陰で問題なさそうだ。


「なぁ、俺たちが呼ばれたってことは失敗したってことだろ? シピニア様でも計画通りいかないなんてことあるんだな」

「おいおい、そんなこと他じゃ絶対言うなよ? 俺まで首切り食らっちまう」


 そんな会話をしながらすぐ横をのんびりと通り過ぎていく男たちを横目で見つつ、その言動の噛み合わなさに呆れて出そうになるため息を飲み込む。

 そんなことより、――今、シピニアって言ってたわよね? ロロは、ガハハと笑いながら奥の方へと呑気に歩く二人の後をそっと追いかけた。

 扉の前で男のうちの一人、まだまともそうな方が鍵をポケットから取り出し、施錠を解除してポケットに戻す。と、そこで、ロロが隠れている講壇の方に首を向けた。


「どうした?」

「ん、いや、やっぱ何かいる気がすんだよな」


 首をかしげながらロロの方へ来ようとする男を、呑気な方の男が呼び止める。


「ペケリかなんかじゃね? んなことよりさっさといかねぇと本当に目玉食らっちまうぜ」


 ペケリ――モンスター除けの結界を通り抜けるほど魔力が弱い、大人の手の平半分程のサイズのモンスターだ。他のモンスターと渡り合う能力がないため、家屋などに住み繁殖することを選んだ。一般的には見つかれば駆除されることが多いが、彼らにとって今はペケリが居るかどうかは“そんなこと”らしい。


「……そうだな」


 ロロの方を見ていた男は、既に扉の中に半分入っているもう一人の男の後を追いかけ扉の中に消えていった。

 ガチャリと音を立てて閉まった扉を見てロロはふぅ、と息を吐く。そして、つい先程男のポケットから拝借した鍵を見つめた。


「まったく、おどろかさないで欲しいわね」


 ――それに、一人でも全然平気だわ。何度も目にした、一人では危ないからといつも必ずついてくる兄の心配そうなまなざしを振り払うように頭を振ると、震える手で鍵をギュッと握りしめた。


「……よしっ」


 そう声を出して覚悟を決めると、男たちが入っていった扉の鍵穴に鍵を差し込み回す。

 カシャンといい音の鳴った扉を、ロロはそっと開いた。

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