表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
187/194

scene .8 パフェと休息

 ロルフたちは近くの開いている土産物店などをいくつか覗いて回った後、アレイガラの水源でもあるという湖の近くのカフェで休憩していた。

 少し高所になっているこの辺りから見渡すと、長いこと森の中を歩いたつもりになっていたが、やって来た方向以外に木々はなくこの街が砂漠の中央にあるということがよくわかる。モクポルトが海と崖の街であれば、アレイガラは湖と砂の街と言ったところだろうか。それにしてもさすが砂漠。街の中といっても日の当たる場所は非常に暑い。洞窟から羽織ってきたぼろ切れで良いので持ってくるべきだったかもしれない。


「ぷわー生き返るー」


 運ばれてきたばかりの特産フルーツのスムージーを一息で飲み切らんばかりの勢いで飲み始めるシャルロッテのコップを、ロルフはスッとテーブルの中央に寄せる。


「あんまり勢いよく飲むと腹壊すぞ。ゆっくり飲め」

「えー!」


 そんな二人のやり取りを横目で見つつ、ロロもストローから口を離した。


「めずらしくシャルロッテの気持ちもわかる気がするわ……」


 ロロと同じく飲むのを止めたクロンも小恥ずかしそうに頷く。


「それにしても……」


 じっとりとした視線を店の外へ向けたロロは、再びストローに口をつけるとスムージーと一緒に言いかけた言葉を飲み込む。視線の先では、ジリジリと焼け付くように日差しが照りつける中、街の人々があちらへこちらへ元気に駆け回り街を飾り付けていた。

 続けたかった言葉は、こんな暑い中ご苦労なこっただわ、とそんなところだろう。

 空気が乾燥しているため日陰に入ればそれなりに体感気温は下がるものの、街の全ての場所が日陰になどなっている訳もなく、店から店――つまり影から影へ移動するだけでも身体が蒸発してしまうのではないかと思えるほどの暑さである。そんな中、せっせと動き回る彼等は異常なように思えた。宗教というのはそれ程までに身を捧げたくなるものなのだろうか。


「おい、聞いたかよ」


 と、近くの席で休憩している男二人組がひそひそと噂話を始めた。


「隣ん家のばぁさんがよ、この間帰ってきたらしいぜ」

「あ? お前ん家の隣っていやぁ最近葬式あげてなかったか?」

「あぁ、それがよ、この間……が…………って話だぜ?」

「まじかよ。オレは……なんて御免だな」

「いくら娘のためっつってもなぁ。それもよ、」


 どこかその話題が気になったロルフがさりげなく耳を傾けていると、隣からズズズ! という大きな音が鳴り響いた。

 慌ててシャルロッテの方を見るとコップが空になっている。


「あ、こら。言ったそばから……!」


 満足そうに笑うシャルロッテの手から空になったコップを取り上げつつ、ロルフは小さくため息をついた。

 その間に男たちの話題も別のものに切り替わってしまったようだ。喧騒で少々聞き取り辛かったものの、死んだ者が蘇った。そんな話をしていたように思える。

 ――まぁ、そんな訳ない、か。ロルフは聞き間違えたのだと自分に言い聞かせると、新しく届いたパフェを食べ始めるシャルロッテの世話を焼き始めた。


「モモが居なくなっちゃったからロルフは大変ね」


 シャルロッテの前に置かれたものと中身が少しだけ違うパフェを頬張りつつ、ロロが言う。

 確かに、昔は食事中のシャルロッテから目を離す、なんてことはできなかった。最近はモモがシャルロッテの世話をよく焼いてくれていたため、ロルフも少し気を抜くようになってきていたのだ。――いや、ちょっと待て。


「なんだか出会ったばかりの頃よりも豪快になってきているような……」


 ロルフが思ったのと同じ事を口にしたクロンが、ハッとしたように手を口元に添えた。

 昔はもう少しちゃんとマナーがなっていたような気がする。というより、少しずつ教え、できるようになったことが出来なくなっているような……じっと見つめてくるロルフに気付いたシャルロッテは、スプーンを咥えたまま首を傾げた。そして、感想を求められたと思ったのか、


「おいしーよ!」


 そう屈託のない笑顔を向けるシャルロッテの鼻の頭には柔らかそうなクリームがついている。モモが戻ってきたら甘やかしすぎないよう伝えるべきかもしれない。ロルフはそう思いつつ、呆れたように紙ナプキンでそのクリームを拭き取った。


「あれー奇遇だね! ロルっちたちも休憩ー?」


 奇遇だね、とはよく言えたもので、少し前に窓の外を歩く二人がこちらに気付いて入店してきたことをロルフは知っている。


「どこも混んでるから助かったや!空いてるお店が少ないからかな? あ、一緒していい?」


 既に近くのテーブルから空いている椅子を拝借してロルフたちと同じテーブルを囲んでいるランテは、隣で戸惑うエルラにもう一脚の方の椅子に座るように言って笑う。

 お邪魔します、小さい声でそう言いながら椅子に座るエルラの横で、一人自分のペースでことを進めるランテは大きく手を振って店員を呼び付けるとドリンクを注文した。


「いやぁ、しっかしどこもかしこもあっついね! フラグメンタ・アストラーリアの寒さが恋しいよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ