scene .7 束の間の
ロルフたちも久しぶりにゆっくりとした朝食をとりつつ、今後の予定を話し合うことにした。
とは言っても、モモの救出のためにできることは一応一通り終えることが出来てしまったため、今日明日はこの街を見て回る事くらいしかすることはないだろう。――まぁ、その前にシャルたちに当日ここで待機するように伝えないといけないが……。ロルフはシャルロッテとロロの方向性の違う不平不満をどういなすか脳内でシミュレーションする。
ちなみに、ヴィオレッタはロルフたちが朝起きた時は既に出掛けて行ったとのことだった。もしかすると、どこかに墜落してしまったらしい自分のモンスターたちの捜索にでも出かけたのかもしれない。頼ってくれれば手伝うことも、そう思いかけたが、仮にヴィオレッタがいない状態で遭遇した場合、それが野生のモンスターなのかヴィオレッタの飼うモンスターなのか見分けがつかない可能性も高い。そのことを考えると、結局ロルフたちには街で聞き込みをするくらいしかできることはないだろう。
「モモ救出の件だが、」
ロルフは全員が食事を終えそうなタイミングを見計らい昨晩決まった作戦をシャルロッテたちに告げた。
案の定シャルロッテとロロは自分たちも参加したいと駄々をこねたが、年齢制限があって自分とエルラも参加できないというランテの嘘に簡単に引っかかってくれた。その制限があまりにもギリギリな二十五歳と言われた時はロルフも少し冷や汗をかいたが。――いや。ロルフは過去にも年齢について同じような気持ちになったことがある事を思い出す。きっともっと年上に見られていたに違いない。
そんな考えが腑に落ちてしまい何とも言えない気持ちになっていると、
「ねねね、ってことは今日明日はフリーってことだよね。うちら二人で出掛けて来てもいいかな?」
すっかり旅行気分のランテが、エルラの腕に自信の腕を絡みつかせながら楽しそうに提案した。
「あぁ、もちろんだ」
「やった! ありがとロルっち!」
許可が出たことで大手を振って遊びに行けるとあり、ランテは嬉しそうに食器を片付け始める。ジャデイにそのままでいいですよ、そう言われながらもご機嫌で積まれた皿をキッチンへ運んでいく。
「あの」
そんなランテを目で追いつつ、エルラは戸惑うような表情で口を開いた。
「本当に良いのでしょうか? あの者の能力に対する策などは……」
「大丈夫だ」
実際、成金男の能力への対抗策は考えておくべき事項ではあるものの、作戦が上手く言った場合は対峙することなくモモを奪還できる算段である。もちろん金という犠牲はあるが……その点についてはヴィオレッタが問題ないと言っているので気にしなくてもよいだろう。それに、
「せっかく外の世界を見られる機会だろ? 今できることはないし、気にしなくていい。俺たちも見て回るつもりだしな」
「エルラ!」
ロルフの言葉が終わるか否か、空いた皿を全てキッチンへ片付け終えたランテが、全身から溢れ出るわくわくを隠すことなく食堂の扉の前で親友の名前を呼んだ。なるべく目立たず出ていくよう注意されているが、今までロルフ達が見た中で一番だと言えるその笑顔は崩れない。
エルラはそんなランテの元に小走りで駆け寄ると、くるりとロルフたちの方へ体を向け、
「感謝します」
そう言って頭を下げた。
「いってらっしゃーい!」
大きく手を振るシャルロッテに、エルラはもう一度小さく頭を下げる。ランテもこちらに振り返りなぜかキリっとした表情で「行ってきます」そう言うと、二人は扉の向こう側へと消えていった。
「さて」
ロルフはコーヒーに砂糖を入れながら残った三人の方に向き直す。
「クロンもロロもこの街を見て回るだろ?」
先程は勝手に見て回るつもり、とは言ってしまったが、念のため本人たちの希望を聞いておくべきだろう。他にやる事もないはずなので恐らく同意してくれるだろうが。
「そうね、マダムリンデはしばらく出てこないみたいだし……」
少しだけ歯切れが悪いのは、昨日のことがあったからだろう。
だが、その件に関してはシャルロッテの発言が原因だったということがわかっているため、気を付ければ問題ない。
「おいしーもの食べよー!」
デザートのスプーンを掲げながらそう言うシャルロッテに、「シャルロッテはホントそればっかりね」そんなロロのツッコミが入る。
「この辺りでは珍しいフルーツが多いみたいだからな。またパフェなんかもあるかもしれないぞ?」
「そ、そうね。まぁ、ロルフがそんなに言うなら行ってあげてもいいわ」
「僕もそれで大丈夫です」
なぜかロルフがどうしてもと言ったみたいになってしまったが、三人共嬉しそうなのでまぁ、よしとしよう。
ロルフは空になったカップや皿をキッチンへ運ぶと、
「という訳で、俺たちも出掛けて来ようと思います。夕方頃には戻るかと」
「はい、行ってらしてください。お夕食をご用意して待ってますね」
簡単に仕度をした後、宿の主に静かに見送られながらロルフたちもアレイガラの街へと繰り出すのであった。