表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
184/193

scene .5 小さな報復

「ねぇねぇ、私もそれ欲しい!」


 ロロがはしゃぐ声に目を覚ましたのか、少し前まで船を漕いでいたシャルロッテがロロと一緒に目を輝かせて手を差し出す。


「おうおう、好きなだけ持ってお行き。ボクもどうだい、ほれ。そっちの二人も」


 すっかり他の面々が星映鉱石に気を取られている中、厳重な警備に地下会場と聞いてロルフは思っていたより難儀しそうなモモの救出に一人静かに頭を抱えていた。会場の位置さえわかれば余裕、そう言ったヴィオレッタを問い詰めたい。いや、ここに来るまで色々な出来事があったとはいえ、ヴィオレッタがそういう性格であることを知りながらしっかり聞き取りをしなかった自分を責めるべきなのかもしれない。

 それに、今まで目をそらしていたが、解決できていない問題がもう一つある。あの成金男は厄介な力――恐らく色持ち能力を有している、ということだ。当日に奴が居ない可能性もないとは言えないが、恐らく会場にいると考えて間違いないだろう。精神操作系の、それも、ヴィオレッタとは異なり対象を一体に絞らずに発動できる能力をどうすれば突破できるか、もしくは無効化できるかを考えなくてはならない。


「ほれほれ、そこの?」


 声が自分の方を向いている気がしたロルフが顔を上げると、マダムリンデがこちらを見ながら何かをひらひらと振っていた。考え事をしていたため呼びかけられていることに気付かなかったらしい。

 星映鉱石は研究で用いたこともあり割と身近な存在であったため他の面々で楽しんで貰えれば良い、そう思ったロルフは出来るだけ素っ気なくならないよう断ろうと「あ、俺は結構です」そう言いながら手の平をマダムリンデの方へ向けた。

 だが、マダムリンデは何を言っているのかわからないと言いたげに眉を動かすと、人差し指と中指で挟んで振っていた物を差し出し、


「これなんだが……」


 そう怪訝そうな目でロルフを見た。差し出された物――は小さな紙片で、そこには何かの条件や日付などが書かれていた。

 どうやらロルフの知らぬ間に鉱石の話は終わり、モモ救出の話に戻っていたらしい。

 マダムリンデの後ろで口元に手を当てていかにも笑いを耐えていますという風のヴィオレッタに関しては、触れたら負けな気がするため少なくとも今は見て見ぬふりをしておこう。ロルフはマダムリンデに慌ててお礼を述べると、紙に書かれている文字に視線を落とした。

 オークションに参加する為に必要な費用や合言葉、ドレスコードや出品予定のスケジュールなどが事細やかに書かれている。そしてその開催日は、


「ん……三日後?」


 開催日と書かれている日付は三日後だ。この間ヴィオレッタから聞いた話だと十分に準備期間がある、という話だったはずだが……そう思いロルフがヴィオレッタの方へ視線を向けると、今度はフイッとそっぽを向かれてしまった。だがまぁ、今はそんなことを責めている場合ではないだろう。


「ヴィオレッタ」


 ロルフはいつの日か目にした双子の妹と全く同じ姿勢で爪を見つめる姉の名を呼ぶと、「協力してくれないか」そう言って真剣な眼差しを向けた。

 ヴィオレッタは気まぐれである。気分を害してしまったら協力を仰げないかもしれない、そう思っての行動だったのだが……


「やめてくれない? 気色が悪いわ」


 普段ならば探るように視線を覗いてくるであろう状況だが、ヴィオレッタはロルフの視線を避けるように目を逸らした。そして、コツコツと靴音を鳴らしながらロルフの近くまで来ると、テーブルの上に小切手を二枚置いた。一枚は何も記載されていないままだが、もう一枚には参加費に記載されている金額が記入されている。


「ホントに何も聞いてなかったのね」

「……悪い」


 一連のやり取りを見ていたランテが、突然クスクスと笑い始めた。


「はは、ロルっちしてやられてるぅ!」


 その声に思わず呆気にとられたような表情で顔を上げたロルフであったが、その姿がどこかツボに入ったらしい。今度はお腹を抱えて笑い出した。

 そんなランテの代わりにエルラが口を開く。


「モモ様救出にあたり有用になるであろう情報をリンデ様がまとめて下さっているとのことで、そのメモの内容を共有しようとしたところです。会話はしておりません」

「なっ……!」


 ロルフは慌ててヴィオレッタに視線を向けた。我関せず、と言った様子で毛先をクルクルと指でもてあそんでいるが、その口元は笑っているのが見て取れる。

 普段しっかりしているロルフが面白いように騙されるのは、ヴィオレッタにとってさぞかし滑稽だったであろう。すっかり星映鉱石に夢中なシャルロッテとロロ、クロンが別のテーブルを用意してもらい席を外していたのがロルフにとっては小さな救いだ。


「ロルっちでもぼーっとするなんてことあるんだねぇ」


 涙を拭きながら「いやぁ、面白いものを見せて貰ったよ」そう言うランテに、ロルフは何とも言えない気持ちで「そりゃよかったよ」そう返答すると、すでに頭に入っているマダムリンデのメモに再び視線を戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ