scene .4 星映鉱石
「わかったわ! お宝を探していたのね!」
目を輝かせて自分を見つめるロロの言葉に、マダムリンデは豆鉄砲を食ったような表情をした。
いくらマダムリンデが有名なデザイナーだとは言え、子供であるロロは知らなかったらしい。全身を彩る宝石や装飾を見て、トレジャーハンターのような仕事をしていると思ったのだろう。
「おおっと」
何かおかしなことを言ったかしら、そう言いたげに首を傾げるロロを見て思考を取り戻したマダムリンデは、「そんな輩と一緒にされちゃぁたまらないね」そう笑いながら、テーブルの向いから身を乗り出すロロの頬をペンの先とは反対側でつつく。そしてそのままの流れで、地図の一ヶ所へと星印を書き込んだ。
「この教会だが、ここはもう廃れてて誰がどうみても祭儀なんてやっちゃなさそうな場所なんだ。でもなぜか最近……って言ってもお前さんやそこのボクなんかが生まれるよりは前だがね、常に見張りがいるって噂が耳に入ったのさ。不思議に思うだろう?」
会話の対象に子どもがいることを意識したからか、マダムリンデは先程までよりも優し気な口調で話を続ける。
「そこで中はどんなもんか確認しようと思ってね。一度祭壇に花を供えに来た婆の振りして侵入してやろうと思ったんだ。だが突っぱねられちまったのさ」
やれやれという風に両方の手の平を上に向けると、「だがまぁここまでは想定通りだね」そう言って先程地図に書き加えた星印にペン先を向ける。
「しばらく観察していても見張りが途切れる様子がなくてね、その日は仕方なしに戻ろうかと思った矢先だった。何やら怪しげな洞窟を見つけたのさ」
その洞窟は、大人では通れないような小さな入り口で、中を覗くと木箱などが雑多に置かれていたそうだ。通気窓のようなものだと思ったか、はたまた存在に気付いてすらいないのか、一味はその小さな入り口を塞いでいなかったらしい。
マダムリンデは自身の小さな身体と、その積み上げられた木箱を利用して中へ入り込んだ。だが、中は一本道で突き当りにやたらと大きな扉があるのみ。一味に遭遇する訳にもいかないと思ったマダムリンデは木箱に隠れるようにしてその場から扉を観察していた。他には特に何もなく部屋の中からも物音はしなかったという。見張りの交代で何度か扉が開かれた際に中を覗き見ようとはしたものの、暗く良くは見えなかったらしい。ただ、音の反響などからしてそこそこの広い空間があるのだろうと思ったそうだ。
説明を終えたマダムリンデはペンを地図の上に置くと、「縮んじまったのがこんなところで役に立つとはね」そう皮肉交じりに笑った。
「ふぅん」
マダムリンデがトレジャーハンターではなかったことがわかり、ロロは少し落胆した様子で椅子に座り直す。
そんなロロを見て子どもの夢を壊した気にでもなったのか、
「まぁ、ここが孤立していることを確かめるために、強者たちを雇って探索をしたことはあるがね」
そう言って、マダムリンデは荷物の中から布に包まれた黒っぽい石を取り出し地図の上に広げた。
「もう散々荒らされた後で、宝っちゅう宝はほとんどなかったが。これはモンスターか何かが集めたガラクタの中から見つけたらしい。潜った記念にとかなんとか言って貰ったんだが……お前さんにくれてやろう」
マダムリンデはロロに手を出すよう指をちょいちょいと動かすと、大きめの石を二、三摘まんでその手に乗せた。ロロの小さな手でもすっぽりと握れそうなその石は、ゴツゴツと少しいびつな形をしているものの、その辺に落ちているものと変わりないように見える。
「んー……おばあちゃん、悪いんだけどさすがにただの石で遊ぶ歳じゃ」
「まぁまぁ、ちょっとお待ち」
ロロの言葉を遮りにやりと笑うと、マダムリンデは布の上に残った石の一つを手に取り卵を割るようにテーブルに叩きつけた。
すると、元々割れやすい性質でもあるのか、石の中央付近には大きなひびが入っていた。そしてそのひびを開くように石を割ると、
「ど、どういうこと!」
石の中は青色と水色のグラデーションをベースに、青緑色や薄い桃色がオーロラ模様のようになっており、光が当たると少しだけ煌めく。その見た目はさながら星空だ。
それを見て再び目を輝かせるロロに、マダムリンデは嬉しそうに説明を始める。
「この模様から星映鉱石って呼ばれている石さ。昔は削って飲めば魂の強化に繋がるとも言われていたりしてそこそこの値段で売買されてたんだが、」
「え! そうなの!」
「はは、残念ながらそれは迷信さね。今はただの安価な石に成り下がっちまった」
マダムリンデは星映鉱石を見つめると、「だがまぁ、綺麗なもんは綺麗だろう?」そう行ってロロに笑いかけた。
「うん、とってもきれいだわ! そして不思議! ……でも、どうして売れないのかしら?」
「あぁ、それは」
マダムリンデがそう言いながら石の断面を爪でこすると、ぽろぽろと粉が零れ落ちていく。
「あまりにも脆いのさ」
確かにこの脆さではアクセサリーなどに加工して身につけるには心もとないだろう。
「逆に、こいつを水で溶かして絵を描く、なんちゅう奴はいるらしいがね」
「へぇ! それは素敵!」