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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
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scene .2 占い

「と、言う訳さ」


 マダムリンデは、なぜ自分がここにいてロルフたちが来ることを知っていたのかを一通り話し終えると食後の暖かいお茶をすすった。

 簡単に要約すると、最近趣味として始めた占いで『近いうちに幼き頃を知る若い娘とその六人の友を、見知ったものが商売する土地で助けることになる』そんな結果が視えたそうだ。


「ママが占いねぇ」


 実力でここまでやって来た彼女が“運”要素の強い占いによって行動を決めた、そのことに納得できないのか、ヴィオレッタはマダムリンデに疑いの目を向ける。


「私にゃこんな能力もあるのかって驚いちまったよ」


 ヴィオレッタの視線を掻き消すように手のひらを左右にヒラヒラと振ると、「こんなにも神に愛されちまって」マダムリンデはそう付け加えてケタケタと笑う。

 占いとは、その土地の霊脈やヒトから流れる気を感じ取ることで未来にどんなことが起きるのかを予測するものである。その予測が当たるか否かは、霊脈などを如何に強く感じられるかと、その個人の運の要素などが関係する。霊脈や気を感じ取る事が出来なければ占う事は出来ないし、霊脈を強く感じることが出来ても運のない者では正しい未来を予測することが出来ない。未来を知る術として古くから用いられてきたものではあるが、その確実性の低さから今では娯楽として扱われる存在になりつつある。


「まぁもし外れても、息子の元に顔を出すくらいたまにゃいいかと思ったんだ」


 「そしたらよぉ」そう言ってグイっと残りのお茶を飲み干すと、マダムリンデは杖で息子――ジャデイが座る椅子の脚をカンカンと叩いた。


「妙な宗教に入りかけてやがって」

「べ、別に宗教って訳じゃ……」


 まだ言うかいこの愚息めが。そう言われ、ジャデイは大きな体を小さくする。

 入りかけて、という事は入らずに済んだという事なのだろうが、どうやらそう簡単な問題でもないようだ。


「ねぇねぇ、そう言えばさっき、ここに入ってくる前? なんで皆こっち見たんだろ?」


 話の流れを知ってか知らずか、丁度静かになったタイミングでデザートを食べ終えたシャルロッテが思い出したかのようにそう聞く。

 その時の感覚を思い出したのか、ロロが自分の体を抱きしめ身震いした。


「いくらシャルロッテがうるさいからって、あんなに睨まなくてもいいのに。あそこまでの視線を感じたのは初めてだわ」

「あれは流石のうちもビビったよ」

「敵意すら感じましたね……」


 ロロの言葉に、ランテとエルラも頷きながらそう感想を漏らす。何も口にしないながら、小さく頷いているクロンも同じような視線を感じていたのだろう。


「それもその宗教のせいだね」


 マダムリンデは考えるように腕を組むと、背もたれに寄りかかった。


「ここ最近になって、奇跡だなんだって人々の気を引いてる輩がいるんだとかでね」


 カップに新しいお茶を注ぐため席を立っていたジャデイは、母の視線を感じたのかばつが悪そうな表情を浮かべる。


「街の様子を見ただろう? 街中の派手な飾りに軒並み休業の飲食店と宿屋。いくら何でもおかしいじゃないかい」


 「ここは砂漠の直中だってことを忘れちまったのかね」そう言いながら注がれたお茶を再び飲み干すと、誰に向けてよいのかわからない怒りをぶつけるように大きな音を立ててカップをテーブルへ置いた。

 ただの無駄である派手な飾りつけを資源が豊富ではないこの地でするという愚かさと、砂漠を超え街に辿り着いた者たちのための施設が営業をしていないという問題、どちらも自分たちのためにならない行為だ。そう言いたいのだろう。

 マダムリンデの言っていることはもっともだが、そこまで影響を与えることのできる奇跡というのもどんなものなのか気になるものではある。


「と、まぁそんな話はいい」


 カップから離した手をテーブルに置くと、気分を落ち着けるように人差し指を上下させトントンと音を鳴らす。


「アンタたちの、何に手を貸せばいいのかって話さ」


 ここに来てやっと本題に入ったマダムリンデは、パイプを懐から取り出し口に咥えた。だが、クロンとロロの方へちらりと視線を向けると、諦めたように視線を落としパイプを元の場所に仕舞い込む。


「……何で誰も言わないんだい?」


 話を聞く体勢を整えられず少し悲し気にも見える表情で全員の顔を見渡すが、誰も話し出そうとはしない。

 ロロやシャルロッテが言ってもいいの? そんな雰囲気でロルフを見つめてはいるが、ロルフは考え込んでいた。直近で困っている事と言えばモモの救出についてだが、マダムリンデに助力してもらうようなことではないだろう。そして何より、ヴィオレッタの知り合いとは言え、よく知らぬ人を簡単に巻き込んでよいとも思えない。


「ちょっと関係ないかもしれないんだけどさ」


 そんなロルフの考えを知らず、手をあげながらそう口を開いたのはランテだった。


「この辺りで人身売買が横行してるって噂に聞いたんだけど。それって、本当なの?」

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