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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .01 *** うさぎと薬草と蛇
18/194

scene .8 魔術と色持ちと

 翌日、ロルフ達はモモにコンメル・フェルシュタットを案内した。案内といっても、観光地ではないのでモモの興味がありそうなお店を巡ったり、この街ができた頃の歴史的建造物を紹介した程度だ。モモよりも、何度も来ているはずのシャルロッテの方が楽しんでいたような気がするが、まぁ、それはよいだろう。


「今日は、ありがとうございました」


 外出から戻り、夕食を取るべく店舗奥のリビングにある食卓に座ると、モモがお礼を口にする。それを口切に、今日の出来事についての会話が始まった。




*****

****

***




 夕方、三人がゴルトの店に戻ると、珍しくゴルトが夕食の準備をしていた。普段は、時間がもったいないと、ゴルトはまともな食事をしようとしないため、基本的にはロルフが食事の準備をしているのだ。そもそも、ゴルトは基本自分の興味のないこと以外には時間を割こうとしない。元々の性格なのか、何か嫌な思い出があるが故なのかは知らないが、物事に深入りするのが苦手なようだった。育てられていたロルフやシャルロッテも、ゴルトの過去についてはあまり聞かされたことがない。小さい頃は、好奇心から色々と聞きだそうとしたことのあるロルフだったが、その度にはぐらかされていた気すらする。

 そんなゴルトが、モモとの最後の夕食の支度を自分で行おうなんて、モモに対して最初に放った言葉を彼女なりに悪いと思っていたのだろうか。――まぁ、気まぐれが代名詞みたいな人物だからな、深く考えることもないだろう。そんなことを考えながら、ロルフは料理を口に運ぶ。


「そうじゃの。粗方正解じゃ」


 突然ゴルトが何かに相槌を打った。他の二人を見ると、モモが「あ、あれ?」という風におたおたしている。

 呆れたロルフは思わず頭を抱えた。


「はぁ……ゴルト。客人の心を読むのはやめろって……」


 そう、ゴルトは人の心を読むことができる。読むことができる、というと大袈裟だが、店の至る所に読心陣が仕掛けられているため、陣の主であるゴルトには、店の中にいる人間の考えがだだ洩れという訳だ。

 ちなみに、この世界には陣の展開方法が大きく分けて二種類あるのだが、今はその話は置いておくとしよう。


「まぁいいじゃないか。興味があるというのはよいことであろう。のう、モモ?」

「えっ、あと、えと……」


 明らかにモモは戸惑っていた。ゴルトとしては気でも遣っているつもりだろうが、ゴルトと同じ空間にいることの緊張がやっと解けてきたモモの反応としては当たり前というものだ。ましてや心を読まれたとあっては尚のこと警戒心を強めるだけな気がする。


「なになにー? 何の話ー?」


 話題が変わったことに気づいたのか、食べることに集中していたシャルロッテが質問する。


「えっとね、私が、ちょっと、気になってることがあって……あっ、気になっているって言っても、大したことじゃないんだけど……」


 会話の対象がゴルトからシャルロッテに変わったことで話しやすくなったのか、少しずつだがモモが話し始めた。

 ゴルトが少し機嫌を損ねたような気もするが、気にしていたら話が進まないのでスルーしてよいだろう。


「森で二人が使っていたのは、能力なのか、魔術なのかなって考えてて」

「ああ……説明していなかったな」


 ロルフはそう言うと、自分のグラスに手をかざした。すると、手を触れていないのに、グラスが宙に浮く。

 モモは口に手をあて、驚いた表情をした。そしてなぜか、いつも目にしているはずのシャルロッテも「おぉー」と目を輝かせている。


「俺は一応色持ちで、重力を少し操れるんだ」

「色持ち……初めてお会いしました。本当にいるものなんですね」


 色持ちとは、生まれながらに能力を持った人物を指す言葉だ。

 この世界には、誰でも使える魔術、種族によって持てる族能力、生まれながらにして持てる色持ち能力という三つの力がある。

 魔術は、その精度が魔力や純血度に準じるとはいえ、歳が十を超えていればフェティシュや陣などを用いて誰でも扱うことができる、いわば道具のようなものだ。族能力は、例えば、ウサギ族やシカ族がニュンフェを通じて植物と話せるというように、種族によって持つ能力である。色持ちの能力は、物などを使わず、気力や集中力のみを消耗し魔術のような能力を使うことができる力だ。世界に一~五%程存在すると言われ、その存在は、種族や性別などに囚われず、ランダムに付与されるとされている。なお、未だにどのような基準で色持ちとなるかは解明されていない。


「ちなみに、その蛇も色持ちだ」

「ふぇ……!」


 ゴルトは驚いたモモの方をちらりと見ると、「ふふん」という様に舌をチロチロと出して自慢げな表情をする。


「シャルは厳密には色持ちじゃぁないんだが、色持ちと同等の能力があるとだけ言っておこう」

「そうなんだ……」

「えっへへぇ」


 別に褒められた訳ではないのだが、シャルロッテが嬉しそうに笑う。

 ――珍しいはずの色持ちが三人集まって生活している。すごい人たちと出会ってしまった……モモがそう思った時、


「そなたもであろう?」


 ゴルトはそう言うと、目を見開くモモを見つめ、チロリと唇を舐めた。

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