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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .01 *** うさぎと薬草と蛇
17/194

scene .7 辣腕術師とその家族

「ふぁ……寒い……」


 風がモモのショートカットの髪をなびかせる。


「そろそろ戻ろうかな……」


 上着を着ているとはいえ、初冬の森から吹いてくる風は、病み上がりのモモには少し冷たかったようだ。

 この街に来てから、もう一週間と一日の時が過ぎていた。ゴルト曰く、本来であれば三日程で完治するものだが、モモにはニュンフェが三体憑いているため少し長めの時間を要するとのことだった。

 最初はどうなることか、ハラハラしていたモモだったが、ゴルトの腕は確かだった。――少し雑だったような気もするけれど……話を聞きながら、繊細であるはずの陣を雑に書きなぐっていくゴルトの様子を思い出し、ふるふると首を横に振る。

 「帰ろっか」モモが元気を取り戻したニュンフェ達の入ったポケットに向かって話しかけると、後ろから聞きなれた男性の声がした。


「もう体調は大丈夫そうなのか?」

「あ、はい、おかげさまで大分気分は良くなりました」


 モモがくるっと振り返りながら言うと、買い物帰りなのか、いくつか荷物を抱えたロルフが少し心配そうにモモを見ていた。


「そういえば、ゴルトさんは……?」

「多分だが、今日の夕方には戻るんじゃないかと」


 ゴルトは三日前から外出していた。先日保護した、少年を襲った動物についてロルフとあれこれ話した後、どこへ行くなどと言って出て行ったのだが、モモにはよくわからなかった。シャルロッテの頭の上にも「?」が浮かんでいた――というよりほとんど聞いていなかったので、モモも聞き流すことにしたのだ。


「店が心配だよな……帰れるまで時間がかかってすまない」

「あ、それは大丈夫です。ロルフさん達に張り紙をしてきてもらいましたし」


 そう、完治するまで一週間はかかるとゴルトに言い渡されたので、ロルフに頼んでお店のドアに「しばらくお休みします」という張り紙をしてきてもらったのだ。常連さんは心配するかもしれないが、帰ってから説明でもすれば大丈夫だろう。


「へくちっ」


 少し強い風が吹き、モモは寒かったことを思い出した。


「ああ……引き留めてすまないな。シャルも退屈しているだろうし、早いところ戻ろうか」


 ロルフはそう言いながら荷物を下に置き、自分のジャケットをモモに掛ける。さっきまで着ていたロルフの温もりが伝わってきて、じんわり暖かい。モモがお礼の言葉を口にすると、二人は足早にゴルトの店へと戻っていった。




*****

****

***




「ああー! ずるーい! 二人で遊んでたんでしょー!」


 モモとロルフが店に戻ると、二人が中に入るが早いか、シャルロッテの怒声が飛んだ。


「私だけ店番させて! ロルフのばかぁー!」

「まぁまぁ落ち着けって……」


 ぽかすかとロルフの胸を叩きながら、シャルロッテは自分だけ店番をさせられていた不満をぶつけている。

 ――ふふ、なんだかやっぱり楽しいな。そんなことを思いながら、ほっこりしたモモが二人を眺めていると、


「モモもそう思わない⁉」

「えっ? あ、うん……」


 唐突に質問を投げかけられ、思わず「うん」と答えてしまった。「ほら! モモだってそうだって言ってるー!」と言いながらシャルロッテの文句がヒートアップする。

 「あーはいはい」などと言いながら、買ってきた物を片付けるロルフの後を追いかけ、器用にも叩くことを止めないシャルロッテを見ながら――私のせい、かな? とモモが口を開こうとした時だった。


「なんだい、ずいぶん賑やかじゃないか。わしも混ざろうか」


 カランというドアベルの音と共にゴルトの嬉しそうな声がした。

 「ゴルトー! きいてよぉ!」と話し出したシャルロッテに、帰ってきたばかりのゴルトは「そうかい、そうかい」と相槌を打ちながら笑っている。シャルロッテの追尾から解放されたロルフは「ふぅ……」とため息をついた。

 ちなみにゴルトはロルフとシャルロッテの育ての親なのだそうだ。詳しいことは聞きずらかったため質問しなかったが、この何日間か共に過ごして、三人が仲良く暮らしてきたということはよくわかった。ほとんどウサギ族としか関わったことのないモモからすると、種族の違う三人が仲睦まじくしている姿は、感興をそそられる程だった。

 ――そう、今だって本当の家族みたい。私も久しぶりに両親のところに顔を出そうかな。モモは最近会っていない両親の顔を思い浮かべる。


「そうじゃモモ」


 突然ゴルトに話しかけられ、ビクッとモモの背筋が伸びた。いつの間にかシャルロッテの話は終わっていたようだ。


「は、はいっ」


 ドキドキしながらゴルトの方へ体を向けると、ゴルトの細く長い指がスッと頬から首を撫でた。


「ひっ……」

「……もう大丈夫そうだの。気分はどうじゃ?」

「あ、え、はい、えとっ……大丈夫です……」

「ふむ」


 満足そうに相槌を打つと、ゴルトは部屋の奥へと向かっていく。


「ロルフ、明日にでもモモに街を案内したらどうじゃ? モモはコンメル・フェルシュタットが初めての様だしの」


 部屋の入り口で立ち止まり、軽く首をこちらに向けロルフにそう伝えると、部屋の奥へゆるりと消えていった。


「ん……そうだな、モモはどうしたい?」

「ぜ、ぜひっ」

「私も行くー!」

「それじゃあ明日は軽く街案内と店巡りでもするか」


 ――な、なんだったんだろう……モモは先程ゴルトに撫でられた部分に触れる。そして少し感じた違和感に首を傾ける。


「楽しみだね、モモ!」

「うん、そうだね」


 違和感の正体は分からなかった。だが、せっかくの誘いに、とりあえずは明日を楽しもう、そう思うモモであった。

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