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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .06 *** 落ちゆく夢と渇きし未詳の地
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scene .21 事の正体

 ロルフとヴィオレッタがトリックレイの本体捜索に出かけている間、エルラは静かに奔走していた。奔走、といっても、実際に駆け回っていた訳ではなく、ランテやシャルロッテたちに様々な魔術を掛けて回っていたのだ。

 確かにこの空間内であれば、敵が出現する可能性は極めて低い。だが、ランテのトリックレイ討伐が成功した時、外の空間にモンスターがいないとは限らない。その時にロルフやヴィオレッタが近くにいれば話は別だが、自らを守る事が出来ない四人の面倒をまとめて見る、なんてことはさすがに難しい。そこで予め防御効果や能力向上の魔術を……と、いくつかの魔術を掛け終わった時だった。


「ぐっ……かはっ」

「ランテ!」


 ランテは突然体を跳ね上げると、口から大量の血液を吐き出した。

 駆け付けたエルラを虚ろな眼差しで見上げるランテは、弱々しい声で何かを伝えようと口をパクパクと動かす。


「ダメですランテ。話しては。今回復を」


 回復魔術を掛けようとするエルラの手を、ランテは力なく制した。そして首をゆっくりと横に振りながら、「ち……が、う」そう言った。


「違う?」


 エルラの声に小さく頷きながら、ランテは言葉を続ける。


「トリッ……ク、レイ、じゃ、な」

「ちょっと!」


 トリックレイじゃない、その言葉を最後に、ランテの体からは力が抜ける。そしてそれと同時に、何やら異変を感じたらしいヴィオレッタが走ってエルラ達のいる場所へ戻ってきていた。


「なっ……」


 静かに横たわっていたはずのランテが血まみれになっているのを見て一瞬止まったヴィオレッタだが、伝えるべきと判断したか、言葉を続ける。


「何があったのかわからないけれど、こっちも多分急を要するから伝えるわ。この空間、崩れ始めてるわよ」

「みたいだな」


 ヴィオレッタの言葉に、反対側から戻って来ていたロルフが相槌を打つ。


「実は、ランテもこの空間がトリックレイによるものではないと……いずれにしても早くこの場から抜け出て治療しなくては。ランテの体がもちません!」


 何とかしてと言わんばかりに慌てた様子でランテを抱き寄せて取り乱すエルラを見て、ロルフはヴィオレッタに視線を送った。ランテにしてもエルラにしても、互いのこととなると感情を制御できなくなるらしい。

 視線からロルフの考えを読み取ったヴィオレッタは、一瞬驚いた表情をしたがすぐに「わかったわ」そう言ってランテの近くにしゃがみこんだ。そして驚くエルラからランテを奪い取るように自分の元へ引き寄せると、額を付け合わせる。


「意識が混濁しているからハッキリは見えないけど、恐らく何らかの陣、を消してきたみたいね。そのせいで傷を負ったみたい。何かしら……呪詛、みたいな」


 と、その言葉を聞いたエルラがびくりと背中を震わせた。そして何かを思い出したかのように「それはどんな陣ですか!」そうヴィオレッタに上半身を詰め寄らせる。


「な、なによ」

「教えてください!」

「だからハッキリは見えないのよ」


 ヴィオレッタの言葉を聞き終えるより先に、エルラは腰につけたポーチをごそごそと漁り出した。そして、転送の時に使った手形を取り出すと、地面を削るように何かを描きだした。


「こんな、こんな紋様が描かれておりませんでしたか!」


 描かれた紋様は、四角形が二つ重なったものや目玉のようなもの、三つの三角形が連なったものなどで、いずれも中央に短い線と長い線が時計の針のように書き入れられている。


「んーコレ、あとコレもあった気がするわ」


 ヴィオレッタが指さす紋様を見て、エルラの顔色が少しずつ悪くなっていく。


「その陣布は恐らく、子供の頃に私も作らされたものです。お客様を長らくお待たせしないようにと待合室用に大量に……それがこんな場所にも使われていたなんて」


 陣布――陣が書き写された布のことだ。その陣は、魔力を通しやすいインクで記されていたり、魔力の宿った糸で刺繍されたりしている。書き出すのが難しく時間のかかる陣を使用したいタイミングでできるだけ素早く使用するかつ持ち運びやすいように古くから使われている手法だ。最近では書き写すのがより簡単な魔紙を用いることも多いが、それに比べて製造がしにくい代わりに劣化もしにくいため、長く使う事が想定されている場合はこの陣布を使う事も多い。

 そして、エルラの言っている待合室、というのは、ロルフ達がエルラを救出した日に夕食までの時間を待たされた部屋のことを言っているのだろう。室内にいたロルフとクロン、外に出ていたシャルロッテとロロとで体感時間が異なっていたのはそれが理由だったのだ。

 エルラは申し訳なさそうに俯くと、両手で顔を押さえた。だがすぐに首を横に振ると、「でも、だとしたら」そう言って顔を前に向ける。


「必ずどこかに外に繋がる扉があるはずです。そうしなければ陣が成り立たないはず」

「わかった、扉だな」

「でも悠長なこと言ってらんないわよ? もう半分くらい崩れて……無空間まで発生し始めてるわ!」


 ロルフ達が辺りを見渡すと、洞窟の姿をしていた辺りの様子は一転、壁や床は溶けて崩れ落ち、所々漆黒の空間が顔を見せていた。

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