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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .06 *** 落ちゆく夢と渇きし未詳の地
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scene .17 思いがけぬ繋がり

 エルラはランテに考えてきた言葉を伝えようと口を開くが、思ったように言葉が出ない。

 謝罪と誤りの訂正、そして自分の気持ちと、何を伝えたいのか頭では理解できているものの、ランテの様子に圧倒され言葉がつかえてしまう。そんなエルラを置いて行くように、ランテは部屋の中を歩き出した。


「独りに、独りになっちゃう……いや……いや、そんなの…………いやぁ!!」


 ランテはそう叫ぶと近くに合った椅子を持ち、エルラに向かって振り上げる。

 エルラはそれを避けることなく無抵抗に受け止めた。痛みと衝撃によって飛びかけた意識を掴むように両手を強く握る。


「え……なんで……どうして避けないの……?」

「私、は、」


 反応できなかったわけではない。

 こうすることでランテに声が届くのなら、ランテの心が少しでも軽くなるのなら、そんな気持ちで受け止めたのだ。


「私は、逃げません」


 エルラは真剣な眼差しでランテを見つめた。

 頭から何か液体が流れ落ちるのを感じながら、エルラはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「あなたの……ランテの気がそれで済むのなら、私は何度でも受け止めます。それが私にできる唯一のことだから」

「え……」


 戸惑いの声を出すランテに、エルラは微笑んだ。


「私にとってランテは、今でもとても大切なお友達だもの」

「あ……やだ……」


 こんなにも酷いことをしたのに、言ったのに、微笑んでいられるなんて信じられない。ゆっくり近づいて来るエルラから逃げるように、ランテは首を横に振りながら後ずさる。


「……あっ」


 足をもつれさせ尻餅をついたランテであったが、その視線はエルラから離すことが出来なかった。ずっと一緒に過ごしてきたはずの彼女の、ずっと隣で見てきたはずの笑顔に、今は少しだけ恐怖すら感じていた。

 だがエルラは、そんなランテを包み込むように抱き締めた。


「だから、大丈夫……大丈夫」


 何かする度にびくりと体を震わせるランテを安心させるように、エルラはその背中をそっとさする。

 そして、


「私が貴女を独りになんてしないわ」


 そう言うと落ち着き始めたランテの頭を優しく撫でた。


「うっく……ふぇ…………」


 しばらくの静寂の後ランテの頬を大粒の涙が流れ始め、その泣き声は徐々に大きくなっていく。まるで赤子の様に泣きじゃくるランテの頭を、エルラは撫で続けた。




*****

****

***




「ん……」


 どうやら泣きつかれて眠ってしまったようだ。やけに重たい瞼を、ランテはどうにか押し開ける。

 部屋の中は薄暗く、いくつかの並べられた蝋燭の明りがゆらゆらと揺らめいている。その中央にはデェーテの亡骸が横たえられていた。


「える、ら……?」


 ぼそぼそと呟くような声が静かな部屋の中ではよく響く。その声を頼りに目を凝らして探しだした親友は、いつものワンピース姿ではなく、儀式に使う正装に身を包んでいた。エルラが親戚の葬儀でこの衣装を纏っているのを、ランテも遠目で一度だけ見たことがある。王族や貴族、権力者などの魂を刈りとる際に使われる物だと聞いていたが……


「目が覚めたのですね」


 その言葉と共に光の中に姿を現したエルラの姿は、美しいという言葉では言い表せない程に艶やかであった。顔にも施されたその化粧と飾りつけによって、元々美しい顔立ちが際立っている。


「その格好……」


 見惚れるような表情で驚くランテに、エルラは優しく微笑んだ。


「然るべき形をとらせて頂きました。おばあ様……いえ、デェーテ大叔母様はそれを望んでいない様でしたが」

「えっ……」


 次は目を大きく見開き驚いたランテに、今度はエルラも少し焦ったように視線を泳がせる。


「すみません、せめてもの償いにと頑張ったのですが……私一人の力ではこの精度が精一杯で」

「ち、違う! 今大叔母様って、言った?」


 覗き込むように真剣な眼差しを向けるランテに、エルラはきょとんとした表情を向ける。

 そして、一拍置いた後にその言葉の意味を理解したのか、「そ、そうでした」そう言って口元に手を当てた。


「あまり時間がないので細かな話は割愛するのですが……」


 そう前置いてから語られた内容は簡単なものだった。

 エルラが生まれて間もない頃、フラグメンタ・アストラーリアはエルラの祖母が統治していた。だが、祖母が病に倒れたことで、跡継ぎ問題が発生する。継承権の順で言えば本来デェーテが次期女王となるはずであったが、どの国の者やどんな身分の者であろうと助けられる命を拾おうと考えるデェーテと、死神としての能力を国力保持のための商売道具として考える祖母とで常に対立していたこともあり、祖母は次期女王に自らの娘であるエルラの母を指名した。それによって、デェーテは今まで以上に肩身の狭い生活を強いられることになった。

 そして、何かにつけてデェーテに罰則を与えてはその行動を制限し、最終的には破門という形で一族を追放されたという。皮肉なことに、一族の中でも上位につける魔力と知識を持っていたため、国に置くかわりにと高山植物の育成と定期的な納品を命じられ利用され続けていた様だ。

 エルラもこの話を聞いたのは、つい数時間前。せめて正装でと思い衣装を取りに戻った際に、ルウィから告げられたらしい。


「そっ、か」

「はい……」


 このタイミングで明かされるにしては暗すぎる話に、二人して沈黙する。

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