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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .06 *** 落ちゆく夢と渇きし未詳の地
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scene .4 トリックレイ

「この道は行き止まりだったのか?」

「どうしてアンタたちがここにいるのよ」


 ほぼ同時に口を開いたのはロルフとヴィオレッタだ。

 重なって聞こえにくいとはいえ、共に発したのは短い言葉だ。理解するのに対して時間はかからなかった。二人は再びほぼ同時に、しかし今回は首をかしげた。


「どうしてってエルラに三人がこの道に入ったって聞いて追いかけてきたんだが」


 今度は先にロルフが口を開く。だが、そんなロルフの言葉に反論したのはロロだった。


「そんなはずないわ。わたしたち真っ直ぐ進んでたんだもの。反対の道から来たんじゃない?」

「んーでもなぁ、エルラがそんな凡ミスする訳ないしなぁ」


 エルラが間違った道を案内した、そう聞こえたのか、大人気も無くランテはロロにそう言い返す。だが、確かに二本しかない道を見紛うとは思えない。

 もしロロの言った通りヴィオレッタたちが前進し続けており、エルラが案内した道が間違っていないとすると……


「トリックレイ、か」


 ロルフは思いついたモンスターの名前を呟く。シャルロッテを抱えていて出来ないが、本当であったら頭を抱えたい相手だ。


「トリックレイ?」


 初めて名前を聞いたのか、クロンとロロがロルフの言った名前を繰り返し頭上にハテナマークを浮かべる。


「でもさ、ロルっち。トリックレイってあったかくて湿気の多い――あー……」


 そこまで言って何かに気付いたように辺りを見渡しだしたランテに、ロルフは頷いた。


「黄土の大陸と聞いて乾燥している地表を想像してしまっていたが、ここは洞窟の中だ。そのお陰である程の湿度が保たれている。その上フラグメンタ・アストラーリアの転送陣が長く使われていなかった、と言う事はこの洞窟にもそうヒトの出入りがあるとは思えない。乾燥から逃れるために奴らがこの洞窟内に住み着いていても……不思議はないだろうな」

「マ、ジか……」


 二人だけで納得し落胆するロルフとランテに、ロロが声を上げる。


「ちょ、ちょっと! 二人だけで納得してないで、わたしたちにもわかるように説明して!」

「えーとね。トリックレイってのはね、厄介なやつなんだこれが」


 ランテはそう前置きすると、トリックレイについての説明を始めた。

 トリックレイ。姿は辺りの土や砂、粘土などを体にまとわりつけた液体のようなモンスターだ。その性質から、暖かく湿気の多い場所を好んで住処にしているという。特徴と言えばその頭の上から出る小さな植物。トリックレイはその植物の成長度によって自身の能力を向上させているため、植物を成長させるために獣人や他のモンスターの時間を食らうと言われている。その手段として彼等は特殊な往来空間を作り出し、獲物をその中に閉じ込める。


「それがまた厄介でさ、その往来空間って言うのが結構な広さらしいんだよね。ってまぁ、うちも会ったことがないから知らないんだけど」


 この時点では知らぬ間にその空間に取り込まれなければよい、そう思えるかもしれない。だが、何を隠そうその植物と言うのが、空間や時を操る魔術道具作成に欠かせない材料になるそうだ。そのため、トリックレイの植物の摘み取りを目的として出掛けた数多の商人の使いやトレジャーハンターなどが度々行方知らずになるらしい。

 植物学者としての血が騒ぐのか、ランテは自身がその往来空間に囚われているという事を忘れたように、薬草としてのトリックレイの存在について語る。


「でももし会えるなら……一回は摘んでみたいよねぇ、その植物」


 舌なめずりをするランテの表情は、まるで獲物を見つけた空腹の猛獣のようだった。もしこのランテの顔をトリックレイが目撃したのなら、恐らく尻尾を巻いて逃げるだろう。だが、残念なことに近くには居ないらしい。

 静まり返るその場の空気のお陰でランテは自身の置かれている状況を思い出したのか、「あ!」と声を発しながら手をパン! と叩いて話題を元に戻した。


「ここから出るってことはトリックレイを見つけなくちゃいけないって事だ!」


 俄然やる気になった、そう言いたげに目を輝かせるランテに、ロルフ達は少々冷ややかな視線を送る。もちろんエルラを除いてだが。

 ちなみに、トリックレイが空間を作り出している間は本体もその内部にいると伝えられており、一人でも脱出したという記録がいくつか残っているため、この人数で探せば見つけられる可能性は高い。

 ロルフはランテの説明に抜けていた情報を補足する。


「トリックレイはこの空間内にいる。だが、この空間にいる間は体感の五倍程の速さで時が進んでるらしい。出来るだけ早く見つけ出さないと、」

「時間が無くなるって訳ね」


 珍しく話をしっかりと聞いていたのか、ヴィオレッタが食い気味に答えを口にした。

 ランテが話している時からどこか落ち着きのない様子であったため、早く外に出たい理由でもあるのだろう。そう言えばスエーニョ・デ・エストレーラのシトラディオ・パラドでの公演は一昨日までだっただろうか。次は山吹の大陸に向かうと聞いた気がするため、タイミングが合えば顔でも見せたい、そう思っているのかもしれない。

 ロルフはヴィオレッタの言葉に頷くと、


「他のモンスターや何かが紛れ込んでくる可能性も無いとは言い切れないからな……二手に分かれて反対向きに進みながら探すとしよう。チームは――今のままでいいか?」


 そう提案した。

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