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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .06 *** 落ちゆく夢と渇きし未詳の地
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scene .3 黄土色のまやかし

 ロルフのそんな気持ちを知ってか知らずか、エルラはスッと扉の前へ移動するとロルフに背を向け小さく息を吐いた。

 そして、ゆっくりと言葉を綴る。


「貴方は何も知らないご様子ですが、辻褄を合わせる事がどれほど難しい事かいずれ必ず己が身を以って知る事になるでしょう。その時の貴方の選択に、私は期待することに致します」


 ここまで言って、エルラは一度言葉を切る。そして少しだけ顔を後ろに向けると、


「……過ぎ去りし時は戻せない。これは神であってもしかり。覚えておいて下さい」


 そう言い加え、転送陣を発動させた。徐々に消えゆくエルラの姿に、ロルフは何が起こったのか理解できないままその場に立ち尽くした。

 が、自身が置いて行かれたことに気付くと慌てて部屋の扉を確認した。幸い扉は開け放されたままだ。ひとまずは安堵したロルフであったが、エルラの言葉を思い返すと気は重い。


「辻褄、か」


 ロルフはよく眠るシャルロッテの顔を覗き込む。

 時は戻せない、と言ったのはシャルロッテのことだろう。だが、その辻褄を合わせる、ということについて思い当たる節はない。もしかすると、以前にゴルトが言っていたいつか話す、という話にもかかわることなのかもしれない。

 よく分からぬ夢にゴルトが神であるかもしれないという事、エルラの話……ロルフはここ最近すっかり変わってしまった身の回りの様子に、思わずため息をついた。だが、今はモモの救出が優先だ。

 ロルフはシャルロッテを落とさぬように転送手形を足元に置くと、気を引き締めるように短く息を吐くと真剣な面持ちで手形を踏んだ。




*****

****

***




「あー! やっときたねロルっち! まさかエルラが先に来るとは思ってなくってびっくりしちゃったよ!」


 ロルフより先にエルラが転送されてくることはランテにとっても想定外だったらしい。

 ケタケタと笑いながら扉を開けてくれるランテにお礼を言いながら、ロルフはその後ろに立つエルラに視線を向ける。だが、二人の視線が交わることはなかった。ロルフが視線を向けようとした瞬間に、エルラがフイッと横を向いたためだ。

 始めて顔を合わせた時から薄々感じていたことだが、エルラはロルフのことがどうも気にくわないらしい。何故これほどまで嫌われるに至ったのか、もちろんロルフには何の自覚もなかった。僅かな心当たりと言えば、シャルロッテを獣人化したのがロルフであるということだが、その話をするよりも前からぎくしゃくした空気を感じていたためそれが起因しているとは考えにくい。何か話してくれれば改善の余地があるのだが……ロルフははぁ、と心の中でため息をつくと辺りを見渡した。


「クロンとロロは?」


 そう問いかけられたランテは、ロルフの後に続くように辺りを見渡す。そして「あれ!」そう言ってエルラの方を見た。


「お三方ならちょっと先の方を見てくるとあちらの通路を進んで行かれましたよ」


 エルラはそう言って二つに分かれているうちの左の通路を手で指し示した。

 フラグメンタ・アストラーリアの洞窟は一本道の突き当りに転送陣があるだけであったが、この洞窟はいくつか道が枝分かれしているらしい。壁や天井などの様子も大分違っており、こちらは土や粘土を固めて作られているのか、波打つような凹凸が目立つ。


「俺たちもそっちに進んでみよう」

「おっけー」

「はい」


 二人も異論はないようなので、ロルフはエルラが指し示した方の道へ歩を進めることにする。

 ヴィオレッタが付いているのであれば大抵の事は問題ないだろうが、何かがあった場合人数は多い方が良いだろう。ロルフは三人に追いつくべく早足で道を進んで行く。


「そいえばさ」


 ロルフの後ろをついて歩くランテがそう口を開いた。


「どうしてエルラが先に転送されて来たの? 最後って言ってなかったっけ?」


 口調は優しいものの、どこかとげとげしさを感じるその言葉には、エルラが嘘をついた、もしくはロルフに対するけん制のどちらかの意味が含まれて――いや、これは後者で間違いないだろう。ロルフは背中に何か良くない視線を感じ言い訳を考え始める。別にやましい事は何もないためそのまま伝えても良いのだが……


「ランテ」


 そんなロルフのその考えを止めたのはエルラだった。

 「ん?」そう反応したランテを、エルラは朗らかにだが少々恥ずかし気に諭す。


「私がお願いしたのですよ。……その、ランテのことが心配で」

「そっ……そっかぁ! なら仕方ないね」


 エルラの言葉が余程嬉しかったのか、ランテは頬を赤らめながらまんざらでもない様子でそう答えた。ロルフに対しての敵対心はすっかり無くなったようだ。


「あれ?」


 と、前方から見知った顔が三人こちらへ向かってくるのが見えた。あちらの三人もこちらに気付き、どうしてここに、そう言いたげな顔をしている。

 戻ってきた、と言う事は恐らく行き止まりか何かだったのだろう。そう思うロルフ達をよそに、クロンとロロ、ヴィオレッタは怪訝な表情でその場に立ち止まった。

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