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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
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scene .33 裁きの流星

「ヴィオレッタ! 子供達を頼む!」


 ロルフは、近くにいるはずのヴィオレッタに聞こえるかわからない声を飛ばすと、シャルロッテのいた方向に走り出した。走り出す、と言っても風が強すぎるため普段の徒歩程度の速さだ。

 アイスフィッシュの噴射する睡眠ガスを出来るだけ吸い込まぬよう呼吸を最低限にしつつ、飛び迫って来るアイスフィッシュたちをどうにか捌く。纏まって飛ぶものを能力で吹き飛ばし、単体で向かってくるものを魔術で溶かす。眼鏡に雪が付き視界が遮られるため早々に外したが、お陰でかなり近くまで飛んできたモノしか把握できないのが厄介だ。


「シャル!」


 だが、そんな中どうにかシャルロッテの近くに辿り着いたロルフはシャルロッテの上に乗る雪を払うと、自身が着ていたジャケットを巻き付けるようにして羽織らせた。しばらく全身が雪に触れていたためかかなり体温が下がってしまっている。

 その上、ここまで来たのはいいが全方位から迫るアイスフィッシュをやり過ごすのに精いっぱいで移動できそうにない。


「っく、そ」


 僅かとは言え吸い込んでしまっていた睡眠ガスが効いてきたためか、ロルフの視界が少しずつ霞んでいく。シャルロッテが目覚めさえすれば辺りの雪を溶かすことなど造作も無いのだが、いくら体を揺すっても起きる様子はない。

 このままでは二人してアイスフィッシュの餌となってしまう、そう思った時だった。

 辺りが明るく光ったかと思うと、頭上に周囲の空を埋め尽くすように大きな陣がいくつも現れた。そして、


「悪しきものに、星の裁きを」


 そんな声が脳内に直接響いたかと思うと、陣から数多の隕石が現れ降り注いだ。

 ロルフはとっさにかばう様にしてシャルロッテの上に覆いかぶさると、顔を背ける。だが、痛みなどは特になく、ガラスの割れるような音が何度も聞こえて来るばかりだった。やっとその音が聞こえなくなった頃ロルフが顔を上げると、辺り一面にガラス片……いや、氷の欠片が散らばっていた。

 先程の陣が雪雲も散らしたのか、天気も元の晴天に戻っている。


「やぁー! 間に合ったみたいだね!」


 頭上からした声に見上げると、城門の上に立つ二つの人影があった。一つは声から察するに恐らくランテ。もう一つは……


「っえーい!」


 ランテはそう言うと宙返りをしながら城門から飛び降りた。相当な高さがあるが、ためらいもなく飛び降りたという事は何か対策がなされているのだろう。ランテが「しゅたっ」と言いながら低い姿勢で片手をついて着地する後ろに、ふわふわとゆっくり降りてくるもう一つの影の正体は――エルラだった。


「た、助かりました……」

「今回ばかりはワタシもお礼を言わなければね」

「もう、遅いわよランテ!」

「ごめんごめーん。エルラを連れだすのにちょっと手間取っちゃってさ」


 どうやら三人も無事だったようだ。そんな声が聞こえる中、未だしゃがみ込むようにしているロルフの元へエルラが静かに近づく。そして、シャルロッテに巻かれたロルフのジャケットを片手で優雅に退けると、鎖骨の辺りに手を添えふぅ、と息を吐いた。

 すると、冷たく色の褪せかけていたシャルロッテの肌色が、みるみる回復していく。浅かった呼吸も通常の呼吸に戻ったようだ。


「ありがとう、エルラ。感謝する」


 昨日のこともあり、ぎこちなくロルフがそう言うと、エルラは視線も合わせず立ち上がった。


「裁きの流星……貴方なら名前くらいご存知では?」

「……?」


 先程の技の名前だろうか。初めて耳にした言葉にロルフが反応に困っていると、その雰囲気に気付いたのか焦った様子でランテがこちらに駆け寄って来た。


「ま、まぁまぁエルラ。いくらロルっちでもなんだって知ってる訳じゃないんだよ。ね、ロルっち?」

「あ、あぁ……」


 ランテの言う通りだが、なぜ聞いたことも無い名称を俺が知っているとエルラは言ったのだろうか。

 昨日の件もあり、ロルフが試案を巡らせていると、エルラはロルフを一瞥して小さくため息をつく。そして気を取り直すようにヴィオレッタ達の方に体を向けると、口を開いた。


「貴方方のお仲間が、私と引き換えにかの組織に捕らえられてしまったとランテから聞きました。その上助けて頂いたにもかかわらず大した歓迎もできず」

「本当にね。アナタの母親、どうにかしているわ」


 エルラの言葉を遮るようにそう言うと、ヴィオレッタはつかつかとエルラの元に歩み寄った。

 そして体をびくりと縮こませるエルラの肩を掴むと、ヴィオレッタはその目を覗き込むようにしてこう口にした。


「でもあの女はアナタじゃぁ、無いわ。そのことをアナタが謝る必要はない。そうでしょ?」


 ニッコリ笑いかけるヴィオレッタに、エルラは多少ぎこちなくではあるが微笑み返す。

 恐らくヴィオレッタはエルラの内心を探る為にそんな言動をしたのであろうが、他に何を言う事もなく踵を翻した。多少満足げな表情をしていたような気はするので、問題はなかった、という事なのだろうか。


「それで、ですが」


 エルラは小さく咳ばらいをすると、両手をみぞおちの辺りで美しく揃え頭を下げる。


「どうか私もお仲間を連れ戻す旅路にお供させて頂けないでしょうか」

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