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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
135/193

scene .25 追及

「そんな話は今は良いのです。ゴルト様より」

「そうだ、今ゴルトがどこにいるのか知らないか?」


 ゴルト、その名前を聞き戻ってきた思考に、ロルフはエルラの両腕を押さえるようにしてそう問いかけた。

 ゴルトが神である事を認めた訳ではないが、神々の動向を気に掛けている彼等であればその行き先を知ったり、感じたりすることができるかもしれない。


「えっ……」

「あ、えと、悪い」


 と、突然変わったエルラの表情に、ロルフはそそくさとエルラの腕から手を離す。

 そして、同じ問いかけを繰り返した。


「えっと、ゴルトが今どこにいるか……わからない、よな」

「どういう事です?」


 エルラは少し混乱するように目を瞬かせると、怪訝な顔でロルフを見た。


「貴方はゴルト様の遣いで来られたのではないのですか? 事情の説明を求めます」


 そのか弱で優しそうな雰囲気からは想像できない、どこから出てくるのかわからない気迫に、ロルフは思わず口を滑らせる。


「いなくなったんだ、忽然と店ごと……」


 ロルフはそこまで口にして、ゴルトがただの色持ちではなく神である、その可能性が高いことを誰よりも知っていることに気付いた。店を丸ごとなかった事にする、そんなのは創造神であれば朝飯前だ。あの場にいた多数の機械も何の気もなしに一掃することができるだろう。最難易度と言われる記憶操作を街単位……いや、世界単位で行う事も、獣人とは比べ物にならない量の魔力を持つ神であれば成すことが出来るのかもしれない。


「……店ごと? それはどういう……」


 何を言っているのか理解できない、そんな表情をするエルラに、ロルフは初めから事情を説明することにした。ゴルトに育てられたことから、この大陸に来ることになった経緯まで全て。

 もしかしたらエルラであればゴルトの居場所や、帝国の行おうとしている事の詳細に繋がる情報を何か知っているかもしれない。

 ところが、そんなものは淡い期待でしか無かったようだ。エルラはロルフの話が進むにつれ徐々に表情を強ばらせると、声を震わせて一つだけ質問を口にした。


「彼女は……ゴルト様から預かったのですよね?」


 何故かその声色からは何かを期待しているような、そんな雰囲気を感じ取れる。

 ロルフがその質問の意味とタイミングの理由を考えようと一瞬視線をエルラから外すと、エルラは何を思ったか焦った様子でロルフを壁際に押しやるように前に進みながらこう付け足した。


「シャルロッテ、と言いましたか。彼女のことです。自我があるように見えましたが……彼女はゴルト様が生み出された“器”、なのですよね?」


 肯定以外の返答は聞きたくない、そんな気持ちが言葉の端々から伝わってくる。


「え、と……」


 エルラの必死さに、ロルフは後退りながら息を飲んだ。

 今ロルフが答えることの出来る返答が、彼女の望むものの逆であるためだ。ただ、理由がそれだけならば答えを告げれば良い。それが出来ないのには理由があった。

 本当のことを伝えることで彼女が傷つく、そんな気がするのである。嘘をつく事もできるが、一時の安堵のためにそんなことをして良いのだろうか。後に真実を知って、もっと傷つくことになるのではないだろうか。

 自分に向けられるエルラの真剣そうな視線に、嘘をつくべきでは無い、そう結論を出したロルフは真実を告げることにした。

 つい最近まで自らも忘れて、いや、ゴルトによって封じられていた記憶を思い出す。


「シャルは……」




*****

****

***




 ――十五年前。

 降りしきる雨の中、当時九歳だったロルフは警察にかけられた電話の情報を頼りに森の中を歩いていた。誕生日まであと四日。この機会を逃したら次はないだろう。

 半月程前からゴルトから借りた……訳ではなく勝手に持ち出した魔道具を使って警察の電話を盗聴していた。

 動物のペット化が禁止されてから、世界に現れた動物は全て世界を統一する科学帝国の管轄下である警察により捕獲されることになっており、簡単に入手することが困難になってしまった。だが、ロルフにはどうしても動物が必要だった。しかし、ここ十日程で提供された目撃情報は二、三件。しかも、今回の情報に比べ曖昧な情報ばかりで結局動物を見つけることは出来なかった。


「これでやっと」


 初めて使う魔術が“あの”魔術であったら、きっとゴルトはおれを認めてくれる。

 幼いながらにゴルトの余所余所しさを感じていたロルフは、自らの十歳の誕生日へ向け秘密裏に計画を練っていた。

 それは初めての魔術で“高難易度の魔術”を成功させること。そのために勉強も沢山したし、手順も何度も確認した。

 一年半ほど前にゴルトが見せてくれたあの魔術が“あまり良くない”ものであろうことは薄々感じてはいるが、“凄いもの”であることは間違いない。だからあの魔術を選んだ。


「ふふ」


 いくらあのゴルトでもきっと驚くだろう。その時のゴルトの顔を想像して思わず頬が緩む。


――ガサガサッ


 雨による水音と自分の足音以外の突然の物音に、ロルフは背筋をピンとさせその場に立ち止まる。通報の有った動物の物音だろうか。ロルフは物音がした暗闇をじっと見つめた。

 警察に見つかるとまずい――と言うのは屋敷に連れ帰られるとゴルトに計画のことがバレそうで嫌なため明りをつけておらず、辺りは真っ暗闇。こんなところで夜行性のモンスターに出会うなんてことは……

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