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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
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scene .24 神話と現世界

「ん?」


 シャルロッテはエルラの視線を追うように自分の頭上を見上げる。だが、そこには何もない。

 首をかしげるシャルロッテの横で、ランテが何かを閃いたように楽し気に口を開いた。


「え、何なに? 何か」

「シャルロッテ様と言いましたね? 貴方はどちらから?」


 だがそんなランテの言葉を遮るように、エルラはシャルロッテに質問を投げかける。


「ん? んー?」


 質問の意味が解らないのか、何と答えればよいのかが分からないのか、シャルロッテは助けを求めるようにロルフの方を見た。

 そんなシャルロッテの様子にエルラは少し怪訝な顔をすると、シャルロッテの視線の向かう方向へ体ごと向ける。そして、ロルフが座る椅子の正面に立つと、


「貴方がこの方の保護管理者ですか?」


 そう質問した。


「保護管……いや、保護者と言うか……まぁ、そんな感じか」


 ただの保護者、ではなく、管理という言葉がついていたことに少々引っかかる所があるものの、この国ではそう呼んでいるのかもしれない、そう思ったロルフはそう言ってはにかむ。

 だが、エルラはシャルロッテの時と同じようにロルフの頭上を見つめたまま、衝撃を隠せないといった様子で立ち尽くしていた。

 しばらくして何かを考えるように視線を下げると、少しの間の後再び口を開く。


「少し、お時間よろしいですか」


 丁寧な言葉で伺いを立てているようにも聞こえるが、そこには有無を言わせぬ威圧感があった。変化のないその表情にも、何か怒りのようなそんな感情が含まれていそうだ。

 ロルフは考えることも無く頷く。


「では、こちらへ」


 そう言って部屋の外へと消えて行くロルフとエルラを、他の四人は不思議そうに眺め黙って見送るのであった。




*****

****

***




 部屋を出た後、ロルフは訳も分からぬままエルラに背中を押され廊下を進んでいた。その間、二人の間に会話など無く、ただひたすらに歩いていく。

 いくつもいくつもの部屋を通り過ぎ辿り着いたのは、他の扉と大差ない一室の扉の前だった。


「お入りください」


 嫌な予感がしたロルフは、その言葉に従わずエルラの方へ振り返る。


「話があるんだろ? ここじゃだめなのか?」


 そう聞くロルフに、エルラは表情も変えず「お入りください」その言葉のみを繰り返した。

 初めエルラはシャルロッテに着目していた。そして彼女は死神の一族。それが意味することは……


「お入りください」


 部屋の前で考え込み始めるロルフに、エルラは再び同じ言葉を繰り返した。

 エルラ救出作戦決行前にランテが言っていた通り、死神一族は誰彼構わず命を刈りとらない。すなわち、命を取られるようなことはないだろう。そして本で読んだことはある。命ある者には平等に接すると。

 この状況を考えて、本で読んだ情報に些か疑問を抱きつつも、ロルフは渋々ドアノブに手を掛けた。

 古びた扉を開けた時のギィ……という音と共に現れたのは、暗闇だった。あまりの暗さに一瞬入ることを躊躇ったが、何を聞こうと結局は同じ言葉を繰り返されるだけなのだろう。そう考えたロルフはそのまま部屋に足を踏み入れた。

 すると、“部屋の内部”にロルフが触れた箇所から、輝く星々に照らされるように部屋の内装が徐々に明らかになっていく。


「これは……」


 扉の間隔からは想像できない程の広さの部屋に、ロルフは思わず声を漏らした。恐らくロルフ達の住む屋敷の地下と同じ空間拡張魔術の類が使われているのだろう。

 内部は金や多くの宝石で彩られた壁や柱が特徴的だが、それよりもまず目に入るのが、壁一面に並べられた神話の一節や大切そうに陳列された神具や神宝のレプリカの数々だ。


「何か見覚えは?」


 エルラのその言葉に、ただ茫然と立ち尽くしていたロルフは我に返ると慌てて棚の近くまで歩みを進める。

 神具や神宝。それはもちろん神話の中で言い伝えられているもので、実在するとは考え難い代物だ。信仰を否定する訳ではないが、ロルフはそのような存在を信じてはいなかった。

 だが、ロルフは一つの神宝の前で立ち止まる。

 低めの四角錐と高めの四角錐が底面を重ね合って連なった金色のピアス……まさか、な。ロルフがそう思った時だった。エルラの発した言葉にロルフは身を震わせた。


「なるほど、創造神ゴルト様の……」

「ゴルトの事を知ってるのか!」


 驚いた様子のロルフに対し、エルラはそれが何か? そう言いたげな表情をする。


「確かに一般的な神話に登場する神々の姿かたちは様々で、名前も明記されておりません。それは神々のお姿や呼び名に定まった物がないためです」


 エルラはそこで一度言葉を区切ると、ちらりとロルフの方へ視線を送った。ロルフがどのような反応をしているのかを観察している、そんな眼差しだ。

 一方ロルフはと言うと、初めて耳にする情報に探求心がくすぐられつつも、戸惑いを隠せないでいた。エルラの言いようでは、神は“実在する”そう聞き取れる。しかもゴルトが“神の一員である”、と。


「ですがその時代時代で一般的、とされるお姿と呼称は有ります。もちろん私たち一族も全ての神に相見えたことがある訳ではありません。生神であるリア様はかなり長い間お眠りになっておられるとか」


 生神の神話が飾られた壁を見つめながら、エルラは淡々と言葉を並べる。

 生神――世界に知性を持った獣人が生まれると共に死神の対として生まれた神の一人だ。主に肉体を司る神だが、その心優しすぎる性格が故に死んだ者を魂無く蘇らせることで混沌を生んだとして、その場を収める為に自らをどこかの遺跡に封印したと言われている。

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