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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
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scene .18 凶悪モンスターとヴィオレッタ

「アナタたちが上陸している間……」


 シュヴァールの身体に負傷などが無いかを確認しつつ、港とは反対側の海を遊泳していたという。すると、上がってきた気温のお陰で晴れた霧の奥に巨大な山――フラグメンタ・アストラーリアのある山がそびえ立っているのに見えた。もちろんその時は山の上に国があることも知らなかっただけでなく、ロルフ達がこの山にいるとは微塵にも思っていなかったが、いい暇つぶしが出来ると思い、シュヴァールにウェネたちの所へ帰るように指示し上陸することにしたそうだ。


「なんだって暇つぶしなんてしようと思ったのよ……」


 ロロの呟きに敏感に反応したヴィオレッタは話を中断すると、声の主へと視線を向ける。

 そして小馬鹿にした様にヴィオレッタは片手をひらりと振って、さも当たり前といった様子でこう言い放った。


「港に上陸できなかったってことは、面倒な偵察やなんやらで無駄な時間を過ごすことになるじゃない」


 その言葉に誰もが呆れ顔をしているのを知ってか知らずか、「そう言うの耐えられないのよね、ワタシ」そう付け足す。

 この旅の目的はローシャ捜索の為でもあるのだが、気概はないのだろうか。そう思いため息をつくロルフの方にちらりと視線を向けると、ヴィオレッタは再び口を開いた。


「そのお陰でアナタたち生きてこの場にいるのだけれど? それとも仲良くお陀仏したかったのかしら?」

「だからお前……」


 人の心を読むなって。そう言おうとしたロルフだったが、ランテと言う敵か味方かわからない存在がいる今、その情報は明かさない方が良いだろう。そう思い言葉を飲み込む。

 それを反論無し、と捉えたのか、ヴィオレッタは話の続きを始めた。


「山を登ってたら鳴き声が聞こえたのよ。そう、この子達のね」


 ヴィオレッタは“鳴き声”と表現しているが、恐らく唸り声や吠え声であったのだろう。彼等は洞穴の中に隠すように置かれた檻をこじ開けようと躍起になっていたそうだ。その中にはここにいるリオートロークよりも大きな個体が捉えられていた。

 その個体はヴィオレッタの乗って来た母親と二匹の子供たちの家族、つまりは父親だった。


「必死な姿にワタシは心を打たれたわ。これは助けないといけないじゃない?」


 本来であればモンスターであるリオートロークが捕まっていたとてそれを助けようという発想には至らないのだが、その点はさすがヴィオレッタである。

 何はともあれ、警戒する彼等と話をつけたヴィオレッタは、落ちていた針金で鍵を解錠し彼を解放した。しかし、魔術罠にはまり捉えられたためか、致命傷は無いにしろかなり身体が弱っていたという。その場にとどまる訳にはいかないため何とかして彼を巣穴まで送り届けたのはいいが、ぐったりする父親に心を痛めていた。

 そこで母親から提案があったらしい。近くにある魔術一族が治める国にとても良い薬屋があるらしいが、モンスターである我々には近づくことができない。代わりに薬を入手してきてはくれないか、と。


「もちろんワタシは快諾したわ。だってカワイソウなこの子達の為だもの」


 そう言いながらヴィオレッタは自身の身体に頭を押し付けてくる子リオートロークを撫でる。


「それでここの近くまで登ってきたのだけれど、突然地面が大きく揺れ出したのよ」


 初めは地震や雪崩かと思い慌てて見晴らしの良い場所へ向かおうとしたが、何やら母リオートロークの様子がおかしかった。

 母曰く、確信は持てないが夫の捉えられていた檻の周辺についた匂いと同じ匂いが近くから漂ってくる、と。ヴィオレッタとしても、彼等にこんなひどい仕打ちをした者に喝を入れたかった為、当初の予定とは異なるが匂いの元を探すことにした。

 それで見つけたのがこの洞窟だったそうだ。


「そうしたらワタシの大切なクロンとアナタたちが居るじゃない? その上さっきの揺れのせいか洞窟は崩れかけ。もう、どうしてくれようかと思ったわよ」

「あはは……」


 ね、クロン? と言いたげに視線を送るヴィオレッタに、クロンは気まずそうに苦笑する。


「ふぅん……」


 そんな二人の様子が、いや、ヴィオレッタが気にくわないためか、ロロは何か言いたげにヴィオレッタを可能な限り見下す。


「お兄ちゃんの一大事に海で遊んでたくせにね。良く言うわ」

「なんですって?」


 聞き捨てならない、そう言いたげに片眉を上げたヴィオレッタから、全員が視線を逸らす。

 ヴィオレッタにあのことが知られないようにするため、思い浮かべたことを読み取られないようにするためだ。


「お兄ちゃんはね! あの砲撃で怪我したの!」


 そんな空気をかき乱すように、ロロは言葉を続ける。


「それにランテとふぁーすんむっ! んーっ!」


 今の会話で、そのことがヴィオレッタにバレると自分がリオートロークの餌にされかれないことを察したのか、ランテが慌ててロロの口を塞いだ。

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