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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
123/193

scene .13 仕組まれた失敗

「エルラ……」

「え……?」


 どこかを見つめたままランテが呟く。

 薄っすらと聞こえるか聞こえないかのその声に、ロロが顔を覗き込み聞き直そうとしたその時だった。


「エルラ!」


 ランテは大きな声でそう叫ぶと、見つめていた方向へ突然走り出した。

 そしてそのまま、マントのフードを深々と被った一人の女性に抱き着く。


「お待たせ、お待たせ……!」


 そう何度も繰り返すランテの瞳には、今にも零れ落ちそうな程の涙が溜まっていた。

 だが、そんなランテとは相反してその女性の反応は薄い。薄い、と言うより、“何も見えていない”そんな雰囲気だ。


「まずいな、早くここから離れよう」


 どうやら二人の再会を祝うのは後にした方がいいらしい。

 先程のランテの大声のせいか、どの通路からもぞろぞろと監視員であろう者達が集まり始めていた。

 帰りの通路を探すべくロルフは辺りを見回す。だが、一つの問題に気付いた。視界に映るはずの人物の姿がない。


「モモはどこだ?」


 ロロを見失わないよう、その小さな肩に手を置きながらロルフは再度辺りを入念に見渡す。ランテが駆け出す前には近くに居たと思うのだが、いつの間にはぐれたのだろうか。

 二人して辺りを見渡しながらモモの姿を探すが、次々現れる監視員に阻まれ一向に見つけることができない。それどころか、二人は逃げる隙も無くランテ達のいる部屋の中央近くまで押しやられてしまった。

 こんなにいただろうか、と思う程に集まった監視員達は皆ランテ達の方向を虚ろに見ている。いや、見ているのではない。ただ音のした方向に身体を向けているだけと言う方が正しいだろう。方向こそ合っていれど視線がどこにもあっておらず、生気を全く感じられないのだ。それはまるで生ける人形、とでも言えばよいのだろうか。

 そんな奇妙で不気味な集団の間を縫うようにして、何やら大きなものを両腕で抱え上げた一人の男がランテの近くまで進み出る。


「ろ、ロルフ!」


 ロロが小さく指差し、ロルフに向かって視線でそう訴えかけた。その理由は他でもない、男に抱え上げられた女性が紛れもなくモモであったためだ。


「くそ、いつの間に……!」


 そう思うも束の間、パン、パンという手袋をした手を叩き合わせているような籠った音が洞窟内に響いた。すると、その音に反応するように、監視員達が人ひとり通れるほどの隙間を作るようにゆらゆらと動く。

 できた隙間を通ってきたのは、煌びやかに装飾された衣装を身にまとった小太りの男だ。ロロよりも拳一つ分高いか否かという程度の背丈に、余分に蓄えられた腹の脂肪が非常に目立つ。それに加え、洞窟の中は至る所に光る胞子を吐くキノコが生えているとはいえ薄暗いにもかかわらず、サングラスをかけているのも目につく。


「実に素晴らしい。エクセレントですよ、ランテさん」


 拍手のつもりだろうか、両手を叩き合わせることで道を空けた時と同じくぐもった音を出しながら、その小男はランテの方へゆっくりと近づいた。

 そして、不快感を感じるようなねっとりとした話し方で言葉を続ける。


「よく気が付きましたねぇ。どうです? 想定よりも早く再会できたお気持ちは。まぁ、寸刻の違いではありますが」


 丁寧な言葉とは裏腹に、その口元の緩み方から感じられるのは二人を引き離したことへの優越感のように思える。

 少しばかりの沈黙の後、自らの問いかけに答える様子のないランテを一瞥すると、男は後ろで抱え上げられているモモを見てこう言った。


「彼女、で間違いありませんね?」


 男が伸ばされたカイゼル髭を親指と人差し指で撫でつけながらそう問うと、ランテは小さくなずく。

 奴の言う彼女、と言うのはモモのことを言っているのだろうか。


「違いますよ。貴女に聞いているのです、死神よ」

「エルラにその汚い声で話しかけないで! 早く鍵を渡して!」


 男の言葉にランテは異常なまでに反応すると、エルラを庇うように男との間に立ち鋭い眼光で睨みつけた。


「おっと、まぁまぁ、そんなに焦らずに。貴女が嘘をついていない事を証明するためですよ。取引は公平でなくては」


 たじろいだような言葉を口にしつつも、表情を一切変えず男はそう言う。

 下唇を噛みながら、ランテは男を睨みつけ少しだけ立ち位置を横にずれた。死神と呼ばれたエルラは他の監視員達と同じような目をしながらゆらりと前に出ると、モモの頭から足までを一通り眺め、


「種族名、ウサギ族。性別、女。年齢、二十。生命系能力有り。寿命――十分」


 淡々とそう告げた。

 男はその情報に満足げに唇を歪め「ふぅむ、良いでしょう」そう言うと、


「非常に便利なので手放したくはないのですがねぇ、死神の目は。背に腹は変えられぬ、と言うやつですか」


 そう付け加え、ランテに向かってにやりと笑った。

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