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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
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scene .12 胞子の洞窟

「あっれぇ? もしかしてロルっちキノコにが……ってちょっと待った!」


 ランテはニヤつきながら言いかけた言葉を自ら遮ると、キノコの周りをふわふわと浮く発光体に手を伸ばそうとしたシャルロッテの肩を軽く引いた。


「何でもかんでも触っちゃダメ。いーい? そのキノコの胞子には神経毒が入ってて、死に至るほどではないにしても暫く動けなくなるからね」


 ランテは人差し指を立て、そう言ってシャルロッテを叱る。

 さすがは高山植物家。このキノコは高山植物ではないと思うが、近くに生息する生き物であれば菌類の事まで良く知見があるのか。ロルフが一人そう納得し、歩を進めようとした時だった。


「なんでそんなことわかるのよ?」


 自分も触ってみたいためか、発光体を恨めしそうに見つめながらロロがそう聞く。

 ランテはロロの方へ視線を向けると、シャルロッテの眼前に立てていた人差し指をそのまま自分の顔に近づけ、いつかも見たような動きで左右に振った。そして、


「うちで実証済み」


 そう言ってしたり顔をした。そんなランテに、ロロは冷たい視線を送る。

 だが、全くもって自慢になっていないのは恐らく本人も分かっているのだろう。


「いやぁ、植物家の性ってやつ?」


 そう付け加えて、恥ずかしそうに笑いながら頭の後ろに手を添えた。

 だが、ロロの視線の冷たさに耐え切れなかったのか、「ロロたんは厳しいなぁ」数秒の沈黙の後にそう口にすると、ランテは声色を少し真面目な雰囲気に変え更に付け加える。


「調べた所によると、このキノコは黄土の大陸が原産みたいだね。どうしてこんなところに生えてるのかはわからないけど。もしかしたらあいつら、ここに来る以前はそっちの方に居たのかも」

「ふぅん……」


 自らの発言にうんうんと納得するように首を動かすランテとキノコとを怪しむような眼で交互に見ると、ロロは諦めがついたようにスッとキノコから離れた。

 そんなやり取りがあってから数分、いや、数十分程は経ったかもしれない。キノコの明りに照らされながら洞窟を進み続けると、ようやく部屋らしき広い空間に出た。部屋と言っても今までの通路に比べて部屋に近い、というだけで広い通路と呼んだ方がしっくりくる。ちなみに、ここに来るまで数人の監視員らしき者達とすれ違ったが、訝しげな視線を向けてくるものどころか、むしろ顔を合わせようとすらしない者が多かった。この場所で働く者達は何か訳有りなのかもしれない。ランテが言っていた通り、堂々としていれば問題ないという点は大変助かった訳だが。

 ランテはちらりと監視室のある方に視線を向けると、それと反対側の監視室から見えづらくなっている位置へ移動した。そして、辺りに誰もいないことを確認し、


「じゃぁ、ここは二人に任せたよ」


 そう囁くように口にした。その声にシャルロッテとクロンが小さく頷く。

 そんな二人に向かってランテは親指をグッと立てると、一本の通路の方へ進むよう残る三人――ロルフとモモ、ロロに指示する。通路へ入る間際、ロルフがさりげなく二人の方を振り返ると、シャルロッテが大きく手を振ろうとしたところをクロンが必死になって止めているのが見えた。本当にあの二人で問題なかっただろうか。

 ロルフの不安を余所に、ランテは一人監視室の階段を慣れたあしどりで軽快に登ってく。そして開きっぱなしのドアから中を覗くと、ロルフ達に見えるように何かを指差し笑うような仕草をした。それも束の間、ランテは身体を一瞬硬直させると、その場にしゃがみ込む。そして様子をうかがうようにして中を覗き込むと、今度はふざける様子もなくゆっくりと身体を中へ滑り込ませていった。しばらくして出てきたランテは振り返る事もなくその場を後にする。お目当ての石を入手できたのだろう。


「ややや、寝てると思って油断しちゃったよ」


 ランテはロルフ達の居る通路へそそくさと、だが静かに、入手したらしい緑色の石を軽く振りながら近づいてきた。

 石はランテの持つ青色のものと同じように、少し透け感のある暗めの緑色の石といったところだろうか。


「いつ盗んだのがバレるかわかんないから、ここからはスピード勝負。ちょっと急ぐけどちゃんとついてきてね」


 ランテはそう囁くと、宣言した通り今までよりも早足で次々と通路を曲がり奥へと突き進んでいった。

 どこも同じような通路が四方八方に枝分かれしており、まるで迷路のような作りだ。今放り出されたら確実に戻ることはできないだろう。相も変わらず顔を合わせたがらない監視員達の脇を通り過ぎながら、こちらも相も変わらず元気に光り輝くキノコにロルフが眉根を寄せ歩いていると、「ふぎゃ」という初めて聞く鳴き声のようなものが聞こえた。


「ちょ、ちょっとランテ! 急に立ち止まらないでよ!」


 ランテのすぐ後ろを歩いていたロロが、鼻をさすりながら囁き声でそう言う。どうやらランテが急に立ち止まったらしい。

 当のランテはと言うと、次に入ろうとしていた部屋のどこか一点を見つめ静止していた。

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