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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
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scene .9 死神一族

「皆も一度は聞いたことがあると思う。うちら獣人が生命を終えるとき、“魂の運び人”がやってきて魂を刈りとっていく、って話」


 “魂の運び人”ランテの言う通り、肉体の活動が停止した獣人達の魂を刈りとり天に還す――いわゆる死神の使いだと語られている存在だ。だが、実在するなどという話はあまり聞いたことがない。

 使われ方といえば、夜更かしをしようとする子供を早く床に就かせるための脅し文句くらいだろうか。早く寝ないと魂の運び人に魂を持って行かれるぞ、なんていう風に。


「え、待ってよ。魂の運び人って空想上の存在じゃ……」


 この中で唯一その脅し文句を使われたことのありそうなロロの顔が、サッと青くなる。迷信だと思っていたものが実在すると言われて命の危機でも感じたのだろうか。


「それがねぇ、いるんだな」


 ロロの表情を見て、いい獲物を見つけたといわんばかりにランテの表情が少しニヤつく。が、すぐに「はぁ」と息を吐くと真顔に戻った。

 それ程ランテにとって気の滅入る話なのだろう。


「でもまぁ、安心してよ。誰彼構わず魂を刈る訳じゃないし、生命活動が停止してても寿命を超えてないと刈りとれないって話だから」


 エルラのことを思い出しているのか、その瞳は少しばかり潤んでいる。

 わずかな間の後、ランテは再度口を開いた。


「でね、エルラはその一族の末裔……にあたるのかな。難しい事はうちも良くわからないんだけどさ」


 遠い昔、死神に言葉を授かったエルラの先祖は、魂の運び人として生涯を全うすることを誓ったという。

 それからというもの、エルラ達純血のヒツジ族は死神との繋がりと魔力を保持するため、この国の長として君臨し、できる限り外界との交流を絶ったそうだ。

 だが、現在は純血族の全体数及び魂の運び人としての力を持つ者が減ってきているらしい。それもそのはず、全世界の種族の魂を一種族でどうにかしようという時点で無理があったのだ。力を持つ者は常に世界を飛び回り、子をなすタイミングなど無に等しかった。


「そんな訳でエルラんちはあんな大きいけど、今はもぬけの殻。今住んでるのはほぼ使用人だけなんじゃないかな。エルラの親もここ五年は帰って来てないみたいだし」

「ん…? ってことは、エルラさんってお子さんなんですか?」

「え?」


 モモの質問に、ランテの目が点になる。

 という事は、エルラは子供ではないのだろうが、そう言えばエルラについての情報を全然聞いていなかった。


「あ、あれ……えと、だって大人ならこの国を出ているのかな、って」


 ランテの反応に、モモは少し慌てた様にそう補足する。


「あぁ!」


 忘れてた、そう言うようにランテは左の掌に右の握りこぶしをポンと叩きつけると、「エルラはね」そう言いながら立ち上がる。


「こう、ボンキュッボンってしてて、すらっとしながらも程よい肉付きでね。ウェーブがかった長くてふわふわな髪にパッチリおめめ、血色と形のいい唇に薄っすらとピンクがかった頬。それはもう絶世の美女……いや、越えて天使の生まれ変わりかも」


 あれこれとジェスチャーを取り入れながらそういうランテは、ロルフ達の不思議なものを見るような視線に気付いてコホン、と咳払いした。


「まぁ、これは本人に言ったことないんだけど」


 そう言いながら椅子に座る。そして、ニッと笑いながら口の前で指を立て「だから内緒ね」そう言った。


「で、何だっけ……あぁ、エルラの年齢か。うちの一つ上で二十三。気立てが良くて礼儀正しい子だよ」


 初めからそれだけを言えばよかったのでは……? そう思う一行を余所に、ランテは少し嬉しそうに笑う。

 美女と言うからにはエルラは女性なのだろうが、ランテの様子を見るとまるで恋人の話でもしているかのような印象だ。だがランテも女性、そんなことは……いや、何事も否定していてはいけないな、そんなことを考え始めたロルフの耳に、きゅるるるる……と何か気の抜けるような音が聞こえた。


「はっ!」


 自らが発したその音が聞こえたのか、空腹に気付いたのか、話の途中からうたた寝をしていたシャルロッテが目を覚ます。そしてぼそりと


「お腹空いた……」


 そう呟いた。

 長話を察知すると所構わず眠気スイッチが入るのか、シャルロッテが大事な話の最中に眠らなかったことは一度としてない。まぁ、聞いていたところで逆に混乱する可能性が高いため別に良いのだが。

 そんなシャルロッテでも、いや、だからこそなのか、食欲には敵わなかったらしい。


「おーけーおーけー」


 先程の友人自慢でご機嫌のランテは、さっと立ち上がると笑いながらキッチンの方へと向かった。

 といっても小さなワンルーム。壁際に水道と魔術コンロがあるだけなので二、三歩の距離ではある。


「ありものでいーね?」


 そう言いながらランテは冷蔵庫を開く。

 その様子を見たモモが手伝おうと慌てて立ち上がるが、


「いいよ、お客さんは座ってて」


 そう言ってランテに肩を押さえられ、再度座らせられてしまった。

 ランテはそのままくるりとキッチンの方へ体を向けると、手際よく料理の準備を始める。


「そのかわりって言っちゃぁなんだけど」


 ランテはキッチンの方を向いたままロルフ達に話しかける。


「食べたら作戦開始、ってことで」

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