表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .05 *** 秘められし魔術村と死神一族
115/194

scene .5 目覚めの

 ランテは何もためらうことなく現れたその空間へと身体を半分ほど入れると、ごそごそと何かを探し出した。


「んーと、これと……こっちだったかな」


 ロルフはランテとその空間を観察する。

 恐らく先程ランテの掌から発された波紋によって、空間と空間を繋ぎ合わせたのだろう。その形は波紋によって作り出されたと言われて納得の綺麗な正円で、直径は四、五十センチ程。細身のランテならば軽々、男のロルフでも通り抜けられそうな大きさだ。何より驚くべきは、この場からランテの意図した場所へ空間を繋げているという事だ。その上数秒も保っていられるときた。

 反対側からは、蜃気楼がかかったように少しもやがかかっているようではあるが、穴があるはずの場所には何もなくそのまま奥の景色が見えている。向こう側に入れられているランテの上半身のみが見えないため少しばかりホラーだ。


「いやぁ、そんなにまじまじと見られると恥ずかしいなぁ……っと」


 探し物を終えたのか、ランテが空間から身体を引き抜く。すると、今まで繋がっていた空間部分がシャボン玉の様に一瞬で弾け消えた。

 消える瞬間にこちらとあちらを跨っているものはどうなってしまうのだろうか、とロルフの心に小さな好奇心が芽生える。が、今はそれどころではない。ロルフはランテの持つ三種類の小瓶に視線を向けた。


「それは?」


 すると、ランテは得意気にニッと笑う。そして三つの内一番大きな小瓶をロルフへ向かって放り投げた。


「それが万能回復薬。傷だけじゃなくて、魔術ダメージとか毒とか麻痺とか、なんでも治せて体力満タンって言われてる薬だね」


 万能回復薬。先程ランテが土に戻していたクレイデザイナーの樹液と薬草とを調合した薬だ。治癒系のフェティシュの中では、最も価値があると言っても過言ではない物の一つだろう。外傷などを直すことの出来る回復薬と、クレイデザイナーの樹液から作られる万能薬が融合したフェティシュであり、その回復量は上回復薬にも勝るという。それ故とても高価であることは言うまでもない。

 ロルフは手に持った小瓶を軽く振る。普通の水のようにちゃぷちゃぷと音を立てるその液体は、通常店などに置かれている一回分の量より遥かに多かった。十数回分にもなろう量の万能回復薬。そんな高価な物を放り投げるとは……ロルフはキャッチできなかったことを考えて一人背筋を凍らせる。


「あとは気付け薬と痛み止め。これとそれは飲んでもらわなくちゃいけないからね。とりあえず目を覚ましてもらわないと」


 ランテはそう言って痛み止めが入っているであろう小瓶を振ると、扉を開いた。

 先程のこともあってか、自分が外に出るとすぐにロルフに向かって手をパタパタと素早く動かす。ロルフはその動きにつられるように急ぎ門の外へ出た。そしてそのまま二人小走りでクロンの元へと向かう。

 すると、正面から珍しく焦った様子のシャルロッテがこちらへ走って来た。向かって来た方向から察するに、クロンを発見したのだろう。


「ロルフ! 大変なの、クロンがね、苦しそうなのに寝たまま動かなくて……倒れてるの!」


 二人の姿を見つけ大袈裟な身振りでそう叫ぶシャルロッテにロルフは頷く。


「ああ、ランテから今薬を貰ったところだ。すぐ向かおう」


 それから数分もしないうちに辿り着いたクロンの元には、モモとロロが心配するようについていた。正しくはクロンの容態を確認するモモをロロが心配そうに見守っている、という感じだろうか。

 三人の足音に気付いたのか、ロロは振り返るとロルフに駆け寄った。


「ロルフ助けて! お兄ちゃんが!」


 ロロのその言葉に頷くと、ロルフはランテの方に視線を向けた。

 ランテは二ッと笑うとモモの横にしゃがみ込む。そして、気付け薬の入った瓶の栓を開けるとクロンの鼻の近くで軽く振った。


「う……ん……」


 数秒もしないうちに目を覚ましたクロンは、虚ろながらも苦痛の表情を浮かべる。痛みによって気絶したのだから無理もないだろう。

 そんなクロンの手に、ランテは痛み止めが入った小瓶を握らせた。そして栓を開けると、クロンの膝を軽く叩き飲み物を飲むようなジェスチャーをした。


「んー……難しいか。ちょっとのんびりし過ぎたかもしれないな」


 視線の定まらぬクロンにはランテがしっかりとは見えていないのか、一向に痛み止めを飲む気配はない。それどころか、瓶を握っている手にも力が入っている様子はなかった。

 ランテがクロンの手ごと小瓶を握り口元へ傾けてもみても、内用液は口の端からこぼれ落ちていくばかりだ。

 思っていたよりも状況が良くないためか、ランテは地面に視線を向ける。そしてしばらくして「仕方ないか」と呟くと、


「許せよ少年!」


 そう言って、クロンの手から小瓶を奪い取りその中身を一気に口に含んだ。

 呆気にとられる周りの視線を余所に、ランテはそのままクロンの唇に自分の唇を重ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ