scene .35 ×××
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「黙れ‼ お前が我欲に負けただけだろ‼」
その言葉と共に床に投げつけ、粉々に砕け散った連絡用水晶を一瞥すると、男は玉座にどさりと座った。
「クソが……力をくれてやってもこれか。役立たずしか居ねぇ……どいつもこいつもオレをバカにしやがって……チッ」
「焦ったらダメですわぁ」
男はそう言う銀髪の女……だろうか、女性にしては少しばかり太めの声の美女を睨みつけると肘をついて目を閉じる。
仮面で右半分が隠れているが、その顔が憎悪に満ちている事は誰が見ても明白だ。
「ブラッド、こわいかお……」
真っ黒な衣装を纏った少女が、先程睨みつけられた美女の後ろからひょっこり出てきてそう呟く。
ブラッドと呼ばれたその男はその声に驚いたように目を開くと、声の方向へと視線を動かした。ブラッドの方を見つめる少女は、美女に隠れるようにして恐る恐るこちらを見ている。
「はぁ……わかったよ。悪かったな」
ブラッドは少女に向かってそう言うと、マントのフードを外して大袈裟に頭を掻いた。
「クスクス……安心してくださいな。想定通り奴らは大陸を離れようとしているとの報告が入っておりますわ」
「フン、それで? そんな事言う為に来たのか? ……わざわざリュビまで連れて」
「いえいえ、作戦が着実に進んでおります報告です」
「そんなの当たり前だ。……他に用がないならさっさとどっかへ行け」
自分に対しての相変わらずの当たりの強さに、美女は自身の体を自分で抱えるようにして身震いする。
そして、ギザギザとした鋭い歯並びが見えるようににやりと口元を歪ませた。
「承知いたしましたわ、ブラッド様」
「お前その姿……いや、何でもない」
ブラッドはふと何かが引っかかったかのように一瞬彼女達の方へ顔を向けたが、すぐに視線を外し聞きかけた言葉を飲み込んだ。
そんな上司の様子に疑問を抱くこともなく、返しかけた踵を直し軽く頭を垂れると、美女は少女を連れ部屋を後にした。
忍び寄る影、崩れ去る日常 end ***