表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
107/193

scene .33 危うい着港

「た、大変です! このままじゃ、このままじゃ!」


 魔術瓶の練習を終えてからというもの、大きな問題もなく航海を続けておおよそ丸一日。もうすぐ港に到着する、そんなタイミングで外の空気を吸いに出ていたクロンが慌てて仮眠室の扉を勢いよく開いた。

 時は日の明りがぼんやりと届きだすもまだ薄暗い早朝である。貿易船の発着が多いだろう時間を狙えば船陰に紛れて着港できるのでは、というウェネの考えの通り、他の貿易船に紛れて順調に港に近づいている時だった。


「ん……お兄ちゃん? そんなに慌ててどうしたのよ」


 ただならぬ雰囲気であることは感じとれるものの、クロンが何に焦っているのか全く分からないロロはまだ眠そうに目をこする。

 そんな妹に視線を向けることもなく、クロンは目を細めながら暗い室内を見回し「ウェネさんは?」そう叫んだ。


「ボクならこっちだよ、どうした?」

「ウェネさん! 大変なんです! 直ぐに港から離れてください!」


 今まで見たことがない程に慌てふためくクロンの様子に、ウェネ以外のメンバーの頭には一つの可能性がよぎる。だが、何も知らぬウェネは呑気に首をかしげた。


「まぁまぁ、どうしてなのか教えてくれないかぬ」

「そ、そんな! 急がないと手遅れにっ」


 もどかしさからか、口どもってしまうクロンをフォローするようにロルフが口を開く。


「ウェネさん、クロンに従いましょう! クロンには少し先の未来を予知する力があるんです」


 予知能力。普通であれば信じられないであろうその言葉だが、いつも大人しく心優しいクロンと真面目を具現化したかのようなロルフの二人がこのタイミングで嘘を吐くとは思えない。ふざけている訳ではないと判断したウェネは黙って伝声管を開いた。


「すぐに方向転換! 港以外にどこか着けられる場所を探すんだぬ」

「え、どうして……」

「いいから! 港から離れるんだぬ!」


 理由もなく伝えられる指示に、青年がしぶしぶ了解し船体が少し進行方向を変えた所で、凄まじい轟音と共に船体が大きく揺れた。

 そして、伝声管から青年の声が響く。


「緊急事態! 緊急事態! 砲撃を受けています!」


 ロルフ達が急ぎ甲板にでると、舳先の少し右、すぐ目の鼻の先の海面に魔術弾の痕跡が残っていた。


「クロンのお陰で一撃目は逃れられたみたいだぬ」


 その言葉の通り、船体が向きを変えていなければ弾は見事船に命中していただろう。

 ウェネは冷や汗を手で拭うと、


「取舵一杯!」


 青年にそう言い放った。


「ワタシはシュヴァールを守るわ」


 ロルフ達の後ろから、ヴィオレッタがそう言って駆け出す。


「了解! できるだけ全力で進んでくれるように伝えて欲しいだぬ」

「人使いが荒いわね!」


 船の機動力であるシュヴァールが潰されてしまっては確かに困る。だが、シュヴァールは非常に狂暴な性格なため、背中に乗ろうものならば簡単に海へ放り出されてしまうであろう。そこで身軽かつモンスターとも意思疎通が可能なヴィオレッタの登場という訳だ。

 待ってました、と言わんばかりのしたり顔でそう言うウェネに、ヴィオレッタはため息をつきながらその巧みな動きとバランス力で軽々しく船とシュヴァールを結ぶ鎖へと降り立った。そして、あっという間にシュヴァールの元へ辿り着く。お陰で砲弾に驚き暴走し出しそうであったシュヴァールも正気を取り戻した様子だ。


「……さ、ボクたちは弾と砲台をどうにかするぬ!」


 ウェネはそう言うと魔術瓶を取りだした。それに合わせてロルフ達も各々前後左右に分かれ、こちらに向けて撃たれる砲弾や魔術弾を迎え撃つ。


「これじゃキリがないわ!」

「どこから撃たれてるのかわかりません!」


 この港のある場所が元々円を描く様な形の土地のため、攻撃が四方から飛んでくる。ここまで何事もないかのように振る舞われていたのは、全方位の砲台の射程距離に入り込むのを待たれていたということなのだろう。

 その上、早朝であるためか陸付近には濃い霧が立ち上っておりこちら側から陸の様子が非常に分かりにくい。


「本当に昔から腹の立つ戦法を取る奴らだぬ!」


 ウェネはそう文句を垂れながらも一台の砲台を撃破したか、霧の向こう側で大きな爆発が起きる。

 が、喜びも束の間。魔術弾の物とは異なる大きな音と共に、船が大きく揺れた。


「なになに? 今度は何の音?」

「普通の大砲も出してきたみたいだぬ!」


 衝撃に耐えきれず尻餅をついたシャルロッテを立たせながらウェネがそう言う。遠隔でも操作できる魔術砲台とは違い、人を派遣するのに時間がかかったため遅れての可動となったのだろう。


「まずいな。通常弾は……」


 ウェネが急ぎ張った魔導結界は魔力を持つ物の軌道をある程度逸らせる力はあるものの、魔力を帯びていない物に対しては全く効果をなさない。すなわち、魔力によって発射されていない通常の砲弾には何の効力もないという事だ。その上、魔力の充填とは異なり、弾の補填にあまり時間を要しない通常砲台が可動したという事は、これまで以上の頻度で弾が飛んでくると考えて間違いないだろう。


「お兄ちゃん‼」


 ウェネの不安が的中したか、そう叫ぶロロの視線の先には頭から血を流し倒れるクロンの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ