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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .31 出航

 翌朝早朝――というのも早すぎる午前三時頃。

 まだ辺りは暗く日の光が登る方向もわからない時間だ。

 そんな時間にもかかわらず、船着き場には多くの村人達が見送りに来ており、静かながらもそれなりの賑わいを見せていた。


「まぁまぁ、三、四日もすれば戻ってくるだぬ、心配するなだぬ」


 そう言ってウェネは半泣きですり寄る六つ子の頭を撫でる。


「こんなことで泣くだなんて……なんて子供……なの……」


 それを見たロロがそんなことを口にするが、その瞼は今にも閉じてしまいそうだ。さりげなくクロンのベストの裾を握っているところを見ると、しっかりと寝ぼけていることが分かる。


「ねぇ、早く出ましょ、もう待ってられないわ。シュヴァールも待ちくたびれたみたいよ」


 その声に共感するように、船の前方からブシュッブシュッと何かを吹き出すような音が聞こえる。声がした方へ顔を上げると、ヴィオレッタが甲板辺りの木枠に腰をかけこちらを見ていた。

 ウェネ曰く小さい船、とは言え、長さ二十メートル程はある船なのだが……一体どこから登ったのだろうか。


「あーはいはい。さ、乗り込むぬ!」


 ウェネの声に、乗員としてついて来るらしい一人のトゥアタラ族の青年が乗船口を開いた。彼は過去に何度かウェネと船旅を共にしたことのある人物らしい。とは言え、この大きさの船を二人で操縦するというのだから驚きだ。

 ちなみに、シャルロッテはいくら起こそうとしても起きなかったので、仕方なくロルフが抱きかかえている。少しはロロを見習ってほしいところだ。


「「「皆さんお気をつけてー」」」


 全員が乗り込み、乗船口が閉まると共に聞こえた六つ子の元気な声に見送られ、船は白水の大陸へ向けて出港した。




*****

****

***




「姫様! 進路に“魚”の大群が……あっ」

「……っ!」


 カチャという音と共に伝声管から聞こえてきた声に、ウェネはビクッと背筋を伸ばした。ちなみに今は、出航後ひと眠りしたロルフ達と共に食事中であったりする。

 先程まで聞いていた話によると、船旅で言う“魚”というのは、基本的に魚型モンスターのことを指すらしい。が、そんなことよりもロルフ達の関心を引いたのは他でもない、


「姫様?」


 その呼称だった。


「すすすす、すみません! ウェネ様!」


 伝声管の向こうで、声の主が焦り倒しているのがよく伝わってくる。だが、そんなことは気にしていない様子でウェネは伝声管の方へ指令を送る。


「進路はそのままで!」

「しょ、承知しました!」


 カポッと伝声管の蓋を閉めると、ウェネはふぅ、と息を吐いてロルフ達の方へ体を戻す。そして、


「――食事中だけど、いい機会だから魔術瓶の使い方を練習するぬ!」


 そう言うと、返事も待たずに船室から出て行った。

 いつもであれば丁寧に説明をするだろう状況だと思うのだが、それほど呼称について問い詰められたくなかったのだろうか。一瞬静まり返った場に、扉の閉まる音が響く。


「えぇ~っ」

「えぇ~じゃないの、あんたのためにやるようなものなんだから! 行くわよ!」


 ワンテンポ遅れてウェネの言葉を理解したらしいシャルロッテに叱り口調でそう言いながらも、ロロはわくわくとした様子でその手を引き我先にとウェネの後に続いて外へ出て行った。

 とりあえず今は呼称についてよりも攻撃魔術への興味の方が勝ったのだろう。この時代、大人でもほとんどの者が使用できないであろう攻撃魔術を体験できるのだからその気持ちもわからなくもない。


「ふふ、ロロちゃんたら楽しそう」

「ですね」


 モモの言葉にクロンも嬉しそうに相槌を打ったところで、ロルフ達も立ち上がる。


「じゃぁ俺達も行……」

「ねぇ、クロン? 魔術瓶の使い方なんかよりワタシはもっとクロンのことが知りたいわ」


 ロルフの言葉を遮りそう言いながら、一人座ったままのヴィオレッタは通り過ぎようとしたクロンの手を握った。


「え、あ、えと……」

「もちろんアナタのことはワタシが守ってあ、げ、る」


 まるで演劇の一場面のような台詞と仕草だが、その握られた手の先に視線を向ければ話は違う。殺人鬼に背後を取られたかのように固まるクロンに、ロルフは思わず溜息をもらす。

 だが、思っているほどの心配は無用だったようだ。


「ぼ、僕行きます!」


 クロンはそう言うと、優しく手を振り解き部屋の外へと急ぎ出て行った。

 ヴィオレッタは驚いたように目を見開くと、振りほどかれた手を凝視する。そして、


「……なによ、ツレナイわね」


 口を突き出し不貞腐れているかのような表情をしながらも、少し嬉しそうにそう言った。

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