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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
104/193

scene .30 魔術瓶

「あっ」


 すると、いとも簡単に砕け散った小瓶は、煌めきながらウェネの拳に吸収されていった。


「これはぬ、薬品瓶を応用した魔術瓶なんだぬ」


 薬品瓶――モンスター除けの結界が世界中の要地に敷かれるより前に流通した、持ち運び用の道具だ。瓶自体が魔術により形成されており、今ウェネがしたように瓶ごと握り潰すことで中に入った薬品の効果を得ることができる代物である。

 ウェネは、その瓶の構造を魔術、つまり陣を入れることができるように応用したと言っているのだが……


「あー、あれ?」


 唖然とする一行に、思っていた反応と違う、ウェネはそう言うかのように頬を掻いた。

 それもそのはずだった。結界の外に出ることがなくなった現代では見かけることがなくなってしまった物品のため、知識は有れど、ロルフ達には何が起きているのか理解が出来なかったのだ。


「こんなところで営業したって何の役にも立たないわよ?」


 と、そこにそう言いながら突然現れたヴィオレッタは、用意されている自分の席に当然のように座ると、何も言わずグラスの水を飲み干した。

 どうやら、老人の元へ一人残りしていた怪しい相談は終わったようだ。


「このヒト達、結界の外の事なんて何も知らないもの」


 ヴィオレッタは、その登場にいち早く気付いたトコがわたわたと持ってきたスープを受け取ると、テーブルの中央に置かれたバスケットから取ったパンを千切り付け流れるように口へ運ぶ。

 その言葉に、ウェネは納得したように頷いた。


「あーなるほど! そっかそっか、そうだよぬ。じゃ、皆に一つずつ渡すからやってみて欲しいだぬ」


 ロルフ達は各々食事の手を止め、ウェネに渡された魔術瓶を手に取る。

 ガラスで出来ていそうな見た目の割に重さはそれほどない。固まった綿を持っているような感覚だ。中をよく見ると、小さく圧縮されており何の陣であるかは分からないものの、魔法陣らしき物体がひらひらと浮いている。


「さ、こう、ぎゅっと」


 そう言いながら先程と同じようにウェネが拳を握る。

 同じようにウェネから魔術瓶を受け取った他の仲間にロルフが視線を向けると、楽し気なウェネに反して、全員緊張の面持ちをしていた。もしガラスのように砕けたら……そう考えているのだろうか。

 ロルフは少しずつ魔術瓶に力を加えてみる。


「お、そうそう、もうちょっとぐっと!」


 ロルフの様子を見ていたらしいウェネがアドバイスを口にする。と、同時に、


「あぁ、もうじれったいわね!」


 ヴィオレッタはそう言うと、隣に座っていたモモの手に瓶を握らせその手ごとぎゅっと力を込めた。


「あっやっひゃぇっ」


 そんな奇声を上げるモモはお構いなしに、ヴィオレッタは「こう使うのよ、さっきの見てなかった訳なの?」そう言い放った。

 モモはヴィオレッタの離した自分の掌を潤んだ瞳で見つめる。そして、


「だ、大丈夫……みたいです」


 そう言って、震える掌を自分に注目する全員に見えるように開いた。


「いやぁ、大丈夫だから渡してるんだけどぬ? ヴィオレッタももうちょっと人に優しくしてあげて欲しいだぬ」


 呆気に取られていたウェネが少しの間の後、困ったようにそう言う。そんなウェネにチラッと視線を向けると、ヴィオレッタはポットに入ったコーヒーを自分のカップに注いだ。


「もたもたしてるのが悪いのよ」

「はぁ……そう言うヴィオレッタだって最初は恐る恐るだったぬ」


 肩をすくめながらそう言うウェネの言葉に、ヴィオレッタはカップを口に付けたまま小さくむせた。


「そ、そんなことココで言わなくてもいいじゃない。それにあの時ワタシはまだ子供だったわ!」


 腕を組みそっぽを向くヴィオレッタに、「そうだったかぬ~?」ウェネはそう言って笑う。


「まぁ、そんな感じで使えるものなんだけど」


 二人の会話中に、モモ以外の全員が瓶を使った事を確認したウェネはそう言って少し真剣そうに笑った。


「明日からの航海では皆にこれを持ってもらおうと思ってるんだぬ」

「船で使うの?」


 シャルロッテの問いに、ウェネは頷く。


「航海中は基本的にモンスターとは出会わないんだけど……たまにいるんだぬ。飛び込んできちゃうヤツが」


 少し呆れたようにそう言いながらも、ウェネは少し楽しそうだ。それほど海に出るのが楽しみなのだろう。


「咄嗟に魔術が口をついて出てくればいいんだけど、なかなかそうはいかない。という事で作ったのがこれなんだぬ」

「――ってことは! わたしでも疑似的に攻撃魔術が使えるってことね!」


 「陣が暴走しないようにするのが中々難しかったぬ」ウェネのそんな言葉を遮るように、この中で唯一、十歳に満たないロロが目を輝かせた。

 魔術は詠唱時、つまり陣を形成する時に魔力が必要となるため、あらかじめ形成されている詠唱陣を使用できるという事は、十歳に満たない子供やシャルロッテのように魔術の扱いが苦手なものでも簡単に魔術を使用できるということになる。


「まぁ、攻撃魔術についてはここで展開する訳にいかないから実戦で教えるぬ。質問があれば随時ボクまで。明日は早朝に出航だぬ!」

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