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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .28 託された手紙

「どうしてあんたたちが……」


 そう言いながら自分達に向けられたヴィオレッタの視線に、三人は「そうだった!」そう言いたげな表情でロルフの後ろに隠れた。

 どうやらコノ達がこの店を案内し忘れた訳ではなく、ヴィオレッタがロルフ達を連れて来ないように言っていたらしい。


「ち、ちがうんだぬ」

「たまたまなんだぬ」

「ぼくたち連れてきてないぬ」


 三人の焦った様子に、恐らくコノ達の言うじい様――つまりこの店の店主だろう、車椅子に座る老人が「ふぁっふぁっふぁ」と楽しそうに笑う。


「まぁまぁ、子供のしたことじゃぬ。許してやっ……」


 とそこで言葉を切ったかと思うと、老人はロルフの顔に視線を向けたまましばらく静止した。


「そなたはもしや……」

「おじいちゃん⁉」

「じいさま⁉」


 そう言って急に立ち上がろうとする老人に、三人とヴィオレッタの声が重なる。

 再度座らせようとするヴィオレッタを制止すると、そのまま真っ直ぐとロルフの元へ歩み寄った。


「そうか……そうかそうか……ついにその時が……」


 老人はロルフの手を取るとそう言い、辺りを見渡す。


「他には……他にも……連れがおるのだぬ?」


 そして、そう言いながら手を離し、すぐ後ろまでヴィオレッタが移動してきた車椅子に腰掛けた。


「はい? ……ああ、ええ、まぁ……」


 突然の出来事について行けないロルフが何やらわからぬままそう答えると、老人は静かながらも何か感極まったような様子で何度か頷く。


「その者達を連れては来てくれぬかぬ」




*****

****

***




 老人に言われるがままモモとクロン、ロロの三人を連れロルフが陣屋へと戻ると、先程とはどこか違う、少し緊張した空気がその場に漂っていた。どうやらシャルロッテを含め全員が、何もせずロルフ達が戻るのを静かに待っていたようだ。

 その空気を感じ取ったのか、理由も詳しく聞かされぬまま連れてこられた三人も店に入った途端口を噤む。

 老人は全員が揃ったのを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。


「わしの最後の……最後の大仕事なのじゃぬ」


 そう言って手を貸そうとしたヴィオレッタを制すると、近くの棚の一番隅の扉に手を掛けた。

 そして、いくつも付いている突起を手際よく順に動かしていく。すると、しばらくしてカチッと何かが外れた音がした。


「あれ、その扉って開け方を忘れたんじゃ……」

「そんな事も言うたかもしれぬぬ……そこの……植物使いよ」


 ツアの呟きにくつくつと小さく笑うと、引き出しから何かを取りだしモモの方を見て手をちょいちょいと動かす。


「えっ、わ、私ですか?」


 きょろきょろと辺りを見回しそう言うモモに、老人は静かに頷く。

 ――植物使い。色持ちである事を明かしていないどころか、初めて出会ったモモの能力を言い当てることができたのは、偶然ではないのだろう。


「これは……?」


 老人から手渡されたものを見て、モモは不思議そうに首をかしげる。

 掌から少しはみ出る程度の大きさのそれは、ぱっと見ステッキか何かの握り手の様に見える。だが、長い棒などはついておらず、側面に小さな突起がありそこが開閉するようになっていた。開けてみると小さな空間があり、小指の爪ほどの物ならば入れることが出来そうだ。


「はて、詳しくはわしにもわからないんだぬ。じゃが、それをそこの男が連れた植物使いへとの言伝じゃ。……身を守るための術となる、と聞いたかぬ」


 身を守るための術。武器や防具であると考えるのが普通だろうか。だが、モモに手渡されたその品にはそんな印象はあまりない。

 老人はクロンとロロも順に呼びつけると、モモと同様それぞれ何かわからぬようなものを手渡していく。クロンには中央がくびれた透明の小瓶のような物、ロロにはモモの物に似たステッキの握り手のようなものの先端に小さな金具が付いた物だった。


「これって一体……?」


 頭にハテナを沢山浮かべながら渡されたものを観察するロロの横から、ちょいちょいと老人の手が誰かを呼ぶ。

 ロロが振り返ったことで姿が見えるようになった老人と目が合ったロルフは、ロロと入れ替わるように老人の前へ進み出た。老人は中央で二本のリングを結ぶように折られた一枚の紙と二つ折りにされた棒のような物をロルフに渡す。


「そなたの事を知る、わしの古き友人からの玉梓じゃ」

「これは…」


 その紙の片側にはひどく整った字で「我が最愛の息子へ」そう書かれていた。


「は、母を知って……!」


 思いがけないタイミングで目にしたその言葉に、ロルフは思わず老人に詰め寄る。だが、期待とは裏腹に、老人は静かに首を振った。


「いいや……わしも会ったことはあらぬのだぬ」


 この玉梓を含めた文は、十数年前に突然届き始めたそうだ。初めは何かの間違いだと思ったらしい。だが、何度も何度も同じ筆跡の文が届き、更には使い道の良くわからぬ道具が大事そうに同封されていたりしたため、これも何かの縁、そう思い取っておくことにしたという。


「しかも文には送り主の明記は無くてぬ、返事を送ることもできなかったのじゃぬ」

「そう、ですか……」

「悪いぬ」


 老人の謝罪に、ロルフは力なく「いえ、ありがとうございます」そう返した。

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