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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .04 *** 忍び寄る影、崩れ去る日常
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scene .27 テマタムア

 ――翌朝。

 ウェネが人数分用意してくれていた部屋でゆっくりと休んだ一行は、船の整備が完了するまでそれぞれ自由にテマタムアの村を見て回る事となった。それぞれと言っても、気ままに行動するのが好きなヴィオレッタ以外は、六つ子の内昨日家に残っていた三人――コノとノン、ツアの三人の案内により共に行動していたのだが――


「ね、ロルフ」


 急に立ち止まったシャルロッテがロルフの方をじっと見つめる。

 ロルフが振り返ると、シャルロッテははにかむように笑うと、


「なんだか二人でゆったり歩くの、久しぶりだね」


 そう言った。そう、今はロルフとシャルロッテは二人となっていた。村が狭いこともあり、現在はそれぞれ気になった店などに居残っているのだ。――ロルフは朝食の席でウェネが言っていた言葉を思い出す。


『皆にはキミたちのこと話してあるからぬ。多分どこへでも入れると思うんだぬ』


 という事は、もし迷った余所者がいればウェネの家へと案内してくれる可能性は高いだろう。それがロロやクロンにも別行動を許可した理由である。それにしても、家の大きさと言い、顔利き具合と言い、ウェネのこの村への影響力は尋常ではなさそうだ。地位などをさりげなく聞き出そうとしたロルフであったが、「そこらにいるただの娘だぬ! ……いや、娘って言うにはちょっと歳が行き過ぎてるかもしれないかもしれないぬ……」そうはぐらかされてしまったのは昨晩のこと。

 ちなみに、船はかなり傷んでおり出航もままならない状況だったらしいが、ウェネ含め十五名程の腕利きが整備にあたってくれているらしく、早ければ今日、遅くとも明日には出港可能になるらしい。


「そうだな」


 ロルフはシャルロッテに笑い返すとそう言った。シャルロッテとモモを連れ三人で世界図書館へ出掛けてから、未だひと月も経っていないというのに、色々なことがあった。ひと月前の自分は、まさかこんなことになっていようとは微塵にも思ってもいなかっただろう。


「ねぇねぇロルフ! ここのお店はいろー」


 と、ロルフが少しだけ思いをはせている間に大分遠くまで移動していたシャルロッテが、一軒の店の前で手を大きく振る。

 “陣屋”――恐らくテマタムアの名産である魔法陣アクセサリの店だろう。コノたちが紹介してくれた店にも陣の取り扱いのある所はあったが、ここは専門店と言ったところだろうか。

 コンメル・フェルシュタットなどにも魔法陣を使ったアクセサリなどを扱った店はあるが、テマタムア産のものと比べるといずれも性能が劣るという。初めて手描きの魔法陣を生成したのがトゥアタラ族と言われているだけのことはある。


『いらっしゃ……あっ』


 ロルフが店の扉を開くと、聞き覚えのある声が出迎えてくれた……かと思いきや二人の顔を見たその声の主たちは驚きの声を発した。


「あれ?」


 シャルロッテが三人の顔を見比べて首をかしげる。

 そこにいたのは、「ぼくたちは」「お部屋の」「お掃除係!」そう言ってつい先程ロルフ達の元を離れていったコノ、ノン、ツアの三人だった。


「お掃除は? もう終わったの?」


 ばつが悪そうにきょろきょろと視線を泳がせていた三人であったが、シャルロッテのその言葉にびくりと体を強張らせる。


「あ、あの、」

「ウェネ姉には」

「内緒にしてくれるだぬ……?」


 三人の言い訳を要約すると、家の掃除をサボってこの店――六つ子やウェネの祖父の店の手伝いをしに来ていたらしい。

 それだけを聞くと別にそれ程悪い事の様には思えないが、祖父は六つ子にとってそれはそれは優しいという。つまりは甘やかされたいが為にこの店に来ているという事だ。


「あ! そうだ」

「ヴィオレッタさんも来てるだぬ」

「一緒に陣作り体験だぬ!」


 話したことですっかり調子が戻ったコノ達は店、舗奥にあるという陣錬成室の方へロルフとシャルロッテを引っ張る。

 そこには、古い型のミシンと編み機がある他、壁を埋め尽くすかの様に設置された棚には魔力の宿った毛糸や刺繍糸、小瓶などの小物がびっしりと詰まっていた。隅の方には魔法陣の形をした金型や、いろいろな種類の魔力鉱石も種類別に置かれている。


「これは……」


 思っていたよりも凄味のある光景に、ロルフは思わず眼鏡の位置を直す。

 広さとしてはゴルトの店と同程度だと思うが、この洗練された空間には何とも言えない緊張感を感じる。


「凄いだぬ?」

「全部全部」

「じい様のだぬ!」


 三人がそう言うと同時に、奥の扉からトゥアタラ族の老人が座る車椅子を押しながら、見覚えのある露出の高い女が出てきた。


「あ、ヴィオレッタ!」

「んなっ……」


 シャルロッテの声にヴィオレッタは二人の方を見たかと思うと、不機嫌そうな表情でそう声を漏らした。

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